ミニ・レビュー
ソロとなっての3作目。人生の深遠さを感じさせるディープな楽曲が、実にヴィヴィッドなサウンドに乗って展開される。と思うと、「上海」や「マンチー」のような一筋縄ではいかないクセの強い曲もあったり。音と言葉が魔法のように絡みあった充実の一枚。★
ガイドコメント
元ザ・イエロー・モンキーの吉井和哉がソロとして発表する4作目のアルバム。ロサンゼルスで完成させた連続リリース・シングル3曲を含め、彼のロックンロール美学が凝縮された作品集となっている。
収録曲
01Introduction
デジタルな音質を全面に出した、重々しいゴシック調ナンバー。焦燥感をかき立てる暗くノイジーなサウンドが、怪しく謎めいた不穏な空気感を作っている。元ナイン・インチ・ネイルズのギタリスト、ダニー・ローナーが参加した意欲作だ。
02Do The Flipping
ギラギラしたグルーヴ感を持つ、メランコリックなロック・ナンバー。背後で怪しくうねり狂うベース・ラインとファルセットを用いた直情的なヴォーカルがもの悲しい。彼の内に渦巻く精神世界をそのまま言葉にした詞が生々しい。
03Biri
軽快な4つ打ちビートで盛り上がるディスコ・チューン。70年代ニューウェイヴなアレンジを軸にした、性急なビートとハード・エッジなギター音が懐かしい。“パーティ”がいつの間にか“パンティー”に変わる言葉遊びがチャーミング。
04シュレッダー
優しく切ないメロディのロック・バラード。“楽しい時もあったし良かったな。でも終わったら全部消去って次に進むしかないじゃん”というメッセージを込めている。吉井自身が、自分に関わる女性への気持ちを歌ったという。
05上海
夜の上海の街に漂う、淫靡な雰囲気を表現したというミディアム・ロック。エロティックで意味深な響きを持つ詞が、聴き手を摩訶不思議の世界へと誘い込む。ギター・リフが引率する、モータウン調を意識したバンド・サウンドもかっこいい。
06ルーザー
“勝った負けたは他人の評価じゃない”というメッセージを込めたグラムロック風ナンバー。イエローモンキーの曲調を彷彿とさせるサウンドの中で、他人の評価に打ち勝つ術を象徴的な詞で伝えている。エッジの効いた力強いギター音がクール。
07ワセドン3
森の奥に追いやられた妖怪・ワセドンを歌った、もの悲しいギター・ロック。アコースティック・ギターの弾き語りというスタイルが、40歳を過ぎた彼の音楽的深みを伝えている。哀れなワセドンと彼自身を重ね合わせたという詞も興味深い。
08Pain
激しいドラミングが迫力たっぷりの高速ロック・チューン。切迫感を抱いた吉井のヴォーカルと目まぐるしく曲調を変転させる音楽的技量が素晴らしい。麝香鹿(ジャコウジカ)が出すフェロモンについて歌う詞を、熱くむせぶようなサウンドに絡ませている。
09Shine and Eternity
瑞々しいアコースティック・ギターの演奏に、柔らかな吉井の歌声が溶けるミディアム・バラード。愛の喜びや燦燦と降り注ぐ太陽の恵み、希望に満ちた未来。そんなすべての物に感謝の意を示す詞が、聴き手の心を温かく包み込む。
10バッカ
美しく繊細なクリスマス・ソング。静かに奏でられるピアノの音色とコードの少ないギター音を背景に、切ない恋心を歌っている。彼自身“起伏のあるドラマが作れた”と語る曲からは、凛と張り詰めた聖夜の夜気が伝わってくるよう。
11Winner (Album Version)
ギターを基調にしたシンプルなミディアム・ロック。“自分の人生と必死に戦っている人は、みんなWINNERなんだ”という思いを込めた力強い応援ソング。叙情的なメロディの随所に現れる、美しくセクシーなファルセットが印象的だ。
12マンチー
“食欲旺盛な状態”という意味深なタイトルを付けたギター・ロック。民謡やジェイムス・ブラウンなど、さまざまな音楽要素を取り入れた作風には、高度な遊び心が感じられる。“何でもかんでも吸収したい”という前向きな詞が眩しい。
13雨雲
ソウルフルなメロディに、吉井を支えてくれている人への感謝の気持ちを乗せたロック&ソウル。さまざまなことを乗り越えてきた彼の、豊かな人生観を現す詞が深い。曲中で繰り返される“I LOVE YOU”という言葉がジンと心に沁みる。