ミニ・レビュー
漂っていた雄々しさが年齢を増して、いい具合に味わい深くなった印象を受ける12作目。いつになくどの曲にもはっきりと主人公の姿が見えてきて、リスナーはアルバムのどこかに自分自身を発見できるだろう。開き直りと客観性が同居した、まさに大人が聴けるロック。★
ガイドコメント
デビュー15周年となる2007年10月発表の12thアルバム。斉藤和義らしい叙情的なフォークやロックなど、15年間を集約したような力強いサウンドが展開されている。全編にわたって、どことなく切なく物悲しい雰囲気が満ちている。
収録曲
[Disc 1]
01I Love Me
クールで泥臭いギター・リフと打ち込みのビートによるポップなイントロが印象的なロック・ナンバー。キャッチーなメロディとパワフルで重厚なバンド・サウンドに乗せたエゴイスティックでシニカルな歌詞は、彼の真骨頂。
02どしゃぶりジョナサン
ガット・ギターによる情熱的かつ官能的なリフレインと、サビにおける狂おしくも美しいファルセット・ヴォイスとの競演。その目が覚めるほどに鮮やかな動と静のコントラストは、心を激しく揺さぶり、そしてかきむしる。
03愛に来て
シンプルでほのぼのとしたミディアム・ラヴ・ソング。コミカルさと健気さのバランスが抜群な、女性視点の詞が秀逸。ちょっぴりブルージィなギターと適度な自己主張が心地よいシンセ、さりげなくクールなベースと、聴くほどに味が出る渋いサウンドに仕上がっている。
04あぁ半年
アコギの弾き語りをベースにした、シンプルでゆったりとしたラヴ・ソング。“隕石はラメ入り”“天使のエクボ”といった、聴いていて恥ずかしくなりそうな言葉たちも、彼の生み出すメロディや声によって、違和感なく耳に、そして心に染みわたってくる。
05男節
ほのぼのとしたメロディと60年代フォーク風のサウンドに乗せて、サラっとシモネタや強烈な毒舌を連発するなど、彼の遊び心とイタズラ心に満ちた作品。言いたい放題しているようで、最後はカッコ良くまとめてしまうあたりは、さすがと言うよりズルイ!
06新宿ララバイ
ツボを押さえた絶妙なコード進行と幻想的な輝きを放つメロディがクセになりそうな、ノスタルジックなポップ・ナンバー。“夜のお仕事”をしている女の子が故郷の両親に向けて書いた手紙をモチーフとした詞が、けなげで切ない。
07バカにすんなよ!
世の中の矛盾や歪みをチャカしたり笑い飛ばすという手法を得意とする彼には珍しく、正面から社会批判を炸裂させる怒りのメッセージ・ソング。この内容をロックではなく王道フォークのアレンジで攻めるあたりに、弾き語りへのこだわりが見受けられる。
08虹
デビュー15周年記念第1弾シングル。上からモノを言うのではなく、肩肘張らない感じで背中を押してくれるポジティヴなリリックが彼らしい。躍動するサウンドと開放的なメロディで、ライヴ感にあふれているポップ・ロックだ。
09トレモロ
ノスタルジックな歌詞、優しく語りかけるような歌声、流れるようなメロディ、幻想的なサウンド……そのすべてがどこまでも美しく、たまらなく切ない。展開が少ないシンプルな構成ながら、決して聴く者を飽きさせない作品に仕上がっている。
10嫌いになれない
「嫌いになれない」という、何だかまわりくどいようで甘い響きも持たないこの言葉は、実は究極の愛のメッセージなのかも知れない。どこまでもシンプルでどこまでも美しいこのミディアム・ナンバーを聴くと、思わずそんなことを考えさせられる。
11かすみ草
アコギとハーモニカによるフォーキーでブルージィなほのぼのとしたサウンドと、シンプルで美しいメロディがクセになるナンバー。切ないけれどあったかい、そんな不思議な気持ちにさせられる絶妙な詞に、感情移入せずにはいられない。
12Swing
激しいギター・サウンドとセクシャルな歌詞が淫らに絡み合う、クールでアダルトなロック・ナンバー。すべてのパートをひとりで担当しながらもバンド顔負けのグルーヴ感を生み出す、彼の卓越した演奏力と抜群の表現力に圧倒されるばかり。
[Disc 2]〈DVD〉
01真夜中のプール
02約束の十二月
03誰かの冬の歌
04FLY〜愛の続きはボンジュール!〜
05ハミングバード
06破れた傘にくちづけを
07ウエディング・ソング
08ベリー ベリー ストロング〜アイネクライネ〜
09君は僕のなにを好きになったんだろう
10虹 (ロングバージョン完全版)