ミニ・レビュー
石野卓球と川辺ヒロシによるユニットの2作目。前作以上の実験性に富んだ作風、テクノやロックなど多彩な音楽性を混ぜ込んだエレクトロ・スタイルが痛快だ。ともすれば煩雑に陥りそうだが、そこは隙のないエンタテイナー。遊びと知性をコンパクトに格納。
ガイドコメント
電気グルーヴの石野卓球とTOKYO NO.1 SOUL SETの川辺ヒロシによるユニット、InKの2ndアルバム。2人のルーツが程よくブレンドされた、ライヴでも自宅でも楽しめるエレクトロ・ナンバーが満載だ。
収録曲
01...And so far
低いBPMの中で不穏にうねるファンキーなベース・ラインと、時折鳴らされる鉄琴のハーモニーがスペーシーに響きわたる。1分54秒と短い曲構成ながら、アルバム『InK PunK PhunK』のイントロダクションとして十分な存在感を放っている。
02Take your time
ミドル・テンポながら、ディスコ・パンクのような丸みのあるベース・ラインが腰に作用するダンサブルな楽曲。曲の骨格がむき出しになった無駄のない音使いなど、職人の技がところどころで光っている。どこか色気が漂う、大人のテクノ・トラック。
03Garage Phunk 303
再生した瞬間に野性的な響きを持ったドラム・ラインが耳に飛び込み、そのまま疾走するビートにまかせて、ノイジーともいえるサンプリングの洪水が勢いよくあふれ出す。タイトルが表わすとおり、まさに“ガレージ・ファンク”といった荒削りなテクノ・サウンドだ。
04I.P.P. (InK PunK PhunK)
アルバム・タイトルにもなっている序盤のハイライト。跳ねる電子音と荒々しくサイケデリックなギター・サウンドが交錯する、ダンス・ロックの新機軸ともいえるアッパーなトラックだ。ギターを弾くのはサーフコースターズの中シゲヲとポリシックスのハヤシヒロユキ。
05Radio5
ハンドクラップ調の軽快なビート感と高音シンセを打楽器のように用いた上モノが、ポリリズムのように同居する摩訶不思議な楽曲。ノイジーな低音が獣のうめき声のようにうなる序盤、突然音数が減る中盤など構成にもクセがあり、面白味のある曲に仕上がっている。
06Junktion 2 Funktion
アルバム『InK PunK PhunK』収録の「Radio5」に引き続き、数種のリズムが同時に展開するポリリズム調の楽曲。ダークなベース・ライン、スペーシーな高音域と中音域のシンセ、それぞれが別々のリズムを刻みながら時折交錯する。トリッキーな職人芸だ。
07Superior
ヘヴィにグルーヴするスローなトラックと野太いキックが耳に流れ込み、ストリングスをサンプリングした上モノに合わせ、スチャダラパーのBOSEによるラップが続く。2分23秒の短い曲に詰め込まれた、シニカルなユーモアが印象的だ。
08Krautjack
和太鼓のような野性味あふれるグルーヴが特徴的に響く楽曲。低音ノイズと高音のクリック音が作用しあうスペーシーな音空間を、多彩なビートが切り開いていくさまは圧巻だ。腰とアタマで感じる、極上のダンス・トラックに仕上がっている。
09Hogs
エレクトロ・ディスコ風味のシンプルなベース・ラインとギターの金属音が好相性。抑揚を抑えたミドル・テンポのサウンドが、中毒性を帯びてリスナーの体に作用するテクノ・チューン。終盤で突如現れる轟音のエレクトロ・ノイズが、強烈な刺激となって脳を揺らす。
10Complicated Companion Crew
テクノ・ミュージックとして、あまりにもジャストでストイックな職人芸的トラック。一聴した時の印象は薄いが、聴き込むほどに石野卓球・川辺ヒロシ両名によるサウンドであることが理解できるようになってくる。シンプルな中に深みのある個性を感じ取れる、渋い楽曲だ。
11Simply minds
パーカッションの音階をユーモラスに取り入れたイントロがポップに鳴り響く楽曲。跳ねるビートとカラフルなサンプリング・ノイズがいかにもInkらしい、痛快なテクノ・サウンドだ。BPMは高くなく展開もシンプルだが、最後まで飽きさせない佳曲に仕上げている。
12Every single light
終始一貫ダウン・ビートとスペーシーな浮遊感を持ちながら、重苦しい雰囲気が一切しない不思議な楽曲。シンセやヴォコーダー・ヴォイスが奏でる甘い音の渦はメロディアス。アルバム『InK PunK PhunK』中盤のチルアウトに最適な、優しいテクノ・ミュージックだ。
13Mr.Denny
ガムラン音楽のような神秘的で金属的なサウンドが印象的に響く。複雑に絡み合う生音と電子音が、サイケデリックなチルアウト空間を形作る、1分42秒の短い楽曲。いつまでも聴いていられそうな、心地良いサウンドだ。
14Feedback Z
ノイズがかった電子音が無防備に放出され続ける58秒間のトリップ。メロディもベース・ラインも存在せず、シンプルなパーカッションとエレクトロ・サウンドだけの楽曲ながら、どこか無骨で渋みのある曲調が印象的だ。
15Z
はっきりとした起承転結の存在がクラブでの盛り上がりを意識させる、アルバム『InK PunK PhunK』後半のハイライト。腰にくる低音の4つ打ち、エモーショナルなエレクトロ・ノイズ、どれもシンプルでありながら確かな存在感を放っている。これぞヴェテランといえる仕事ぶりだ。
16Yamanation
ブリブリの低音ベースとキック中心のドラム・ライン、それ以外にはヴォーカルを含めた抑揚の少ないサンプリング・コラージュが少しあるだけという、ストイックなディスコ調。シンプルゆえにダンス喚起力は凄まじく、思わず体が動くセクシーなダンス・ミュージックだ。
17800 stars
ファンキーなベース・ラインがミドル・テンポを揺さぶる野太いダンス・ナンバー。不穏なマシン・ノイズのサウンド・コラージュが、ダークなトリップ感を持って迫ってくる。目を閉じて踊りたくなるような、体とアタマのディスコ・チューン。
18My music box
跳ね回るベースの粒やカラフルなシンセ&サンプリングが、どこかユーモラスで可愛らしく鳴り響く。Inkのふたりが本来持ち合わせているポップな部分が表出した、アルバム『InK PunK PhunK』のラストを幸福に締めくくるテクノ・トラック。