ミニ・レビュー
浜田省吾のあり方がタイトルから読みとれる10年ぶりのオリジナル・アルバム。フォーク、ロック、レゲエ、EDMなどを横断するサウンドの旅、人間の誕生から死まで描いた言葉の旅はともに、損なわれながら上書きされる人生のカラフルさを普遍的な形で提示する。誰かの人生の瞬間にフィットするように。
ガイドコメント
前作『My First Love』から約10年を経て、2015年4月29日リリースとなるオリジナル・アルバム。映画『アゲイン 28年目の甲子園』主題歌「夢のつづき」を含む、全17曲を収録。ハマショー渾身の大作となっている。
収録曲
01光の糸
変拍子のような8ビートのドラミングと伸びやかなヴォーカルが耳に飛び込んでくる幕開けが、目新しさを感じさせる。子供たちの笑いに包まれるかけがえない世界を守り抜こうと語るメッセージ・ソングで、“友よ共に”の歌いかけが印象的だ。
02旅するソングライター
チャッチャッと鳴る軽やかなレゲエ風ビートに乗せて綴る、人生を旅するソングライターの青春ストーリー。朗らかなホーン・セクションに誘われるかのように、晴れ晴れとしたヴォーカルを聴かせてくれる。人間味のあふれたナンバーだ。
03きっと明日
センチメンタルな導入からコンテンポラリーなロック・サウンドへと展開するメッセージ性の強いナンバー。“きっと明日”と連呼しながら、幸せにたどり着く日を願う心情を綴る。余韻を残すアウトロのフレーズが陰影を刻んで、何ともドラマティックだ。
04マグノリアの小径
オールディーズ風のアプローチも見え隠れする、浜省節が映える王道ポップス。もっと自由でいいんだと言い聞かせるように歌う恋の歌で、町支寛二のバックコーラスが淡いムードを生み出している。ちなみに、マグノリアとはモクレンのこと。
05美しい一夜
日本の原風景に触れながら美しい人との思い出を回想する、ムーディなソウル・バラード。流麗なストリングスに誘われながら迎えるサビへの展開は、出会った頃のトキメキを鮮明に呼び起こすかのよう。幻想と寂しさが入り交じった歌唱も淡く切ない。
06サンシャイン・クリスマスソング
これまで映画館で一人ビールを飲んで、本を枕に一人ワインを飲んで過ごしたクリスマスの夜が、彼女との出逢いで今年は違う! 自然と笑顔がほころぶハッピーな気持ちを、明るく陽気なミディアム・ポップで描くラヴ・ソングだ。
07五月の絵画
音数の少ないアコースティック・ギターを配したミディアム・バラード。清々しい初夏の青空を想起させる瑞々しいサウンドにちょっぴり切ない感情をしたためた、味わい深いライフストーリーだ。しみじみとした雰囲気が妙味。
08瓶につめたラブレター
93年『その永遠の一秒に』時点ではほぼ完成していたというナンバー。ホーン・セクションやオルガンなどを背景にしたドゥー・ワップ作風を下地に、フォークやジャズを足して快活にアレンジ。悩ましい心境を明るく演出した作風がニクイ。
09ハッピー・バースデイソング
ドゥー・ワップやオールディーズなソウル・ポップ作風を取り入れた、ハートウォームで明るいナンバー。パパとママへの感謝とかけがえのない命について、町支寛二のやわらかいバック・コーラスとともに浜省が朗らかに歌う。
10夢のつづき
映画『アゲイン 28年目の甲子園』の主題歌。野球少年の息子、鏡に向かって口紅をひく娘。子供たちの成長に目を細めながら、夫婦であの頃の夢をたどろうと語り合う。素朴なツーフィンガーのギターを軸にしたフォーキーなナンバーだ。
11夜はこれから
エレクトロなヴォーカル・エフェクトを導入したダンス・チューン。エレクトロといってもロックやR&B風味を忍ばせて、どこか懐かしい風情を醸し出しているのが浜省らしい。女性ヴォーカルと掛け合いながら、金曜の夜は朝まで踊ろうと誘うナンパ・ソングだ。
12恋する気分
恋に落ちてる気分もぜんぜん悪くないとまんざらでもなさそうな口振りだが、実際は恋する日々に浮ついているのが丸わかり。あの娘に完全にノックアウトされた男の心情を、リズミカルなポップ・サウンドで描く陽気なラヴ・ソングだ。
13永遠のワルツ
旅情風情の漂うストリングスとフルートの音色が穏やかな心持ちを呼び起こす、美しくも温もりあふれるワルツ。“愛を誓い、指輪交し”のフレーズも印象的な、浜省スタイルのウェディング・ソングといえる。未来までの長い時間を見越した、悠久を感じさせるスロー・バラードだ。
14アジアの風 青空 祈り part-1 風
「アジアの風 青空 祈り」の三部作第一章。寄せては返す波の音から“兵士よ どこにいるの?”で始まり、“アジア どこへ行くの?”で終わる反戦歌だ。厳かで重いムードがヒシヒシと伝わるシリアスな祈りに、思わず息を呑む。
15アジアの風 青空 祈り part-2 青空
「アジアの風 青空 祈り」の三部作第二章。「風」の重厚な雰囲気から一転、ホーンも高らかに鳴る痛快なロック・サウンドで無能な指導者たちに対して歴史から目を背けるなと叫ぶ。サビ・ラストの“違うか?”にフツフツと沸き上がる怒りが。
16アジアの風 青空 祈り part-3 祈り
「アジアの風 青空 祈り」の三部作最終章。英題を“グッドナイト・マイ・ラヴ”としたように、明日も逢うために眠りに就こうと語りかける一時の安らぎの歌だ。悲しくも美しいピアノから幕を開け、悲哀と荘厳を漂わせながら幕を閉じる。
17誓い
最後まで諦めずに闘った陽気な男へ送る弔いの歌。友へ杯を掲げるとともに、愚かな国策によって痛めた心や国の再生を、シンプルなリズム隊によるロック・サウンドに乗せて誓う。重々しくない簡潔なアウトロが、訴えかけるように余韻を残す。