ミニ・レビュー
アトランタの人気ラッパーの4作目。ジャスト・ブレイズやスウィズ・ビーツ制作の威勢のいい曲からメロウまで多彩なトラックを、曲ごとに、いや1曲の中でも巧みにフロウを変化させながら乗りこなす。実力派T.I.ならではの深い味わいここにあり。★
ガイドコメント
超絶人気フロア・アンセム「ブリング・エム・アウト」を生み、大ヒットを記録した前作『アーバン・レジェンド』から1年、次世代ヒップホップ・シーンを担うビッグ・スター、T.I.の4thアルバム。
収録曲
01KING BACK
タイトルの「KING」はT.I.のこと、というのが示すようにヒップホップ伝統の自慢大会でアルバム『KING.』の幕開け。ホーンのフレーズがクイズ番組のジングルのようで笑えるが、内容が「俺はすごくて、おまえはダメ」のため、楽しい気分になるのは困難だ。
02FRONT BACK
T.I.が敬愛する南部の2人組UGKがフィーチャリングで参加。UGKの「フロント,バック&サイド・トゥ・サイド」のリメイクだが、名曲「ポケット・フル・オブ・ストーンズ」にもそっくりのチープなヒップホップだ。
03WHAT YOU KNOW
腰のすわったシンセのループはロバータ・フラックの「ゴーン・アウェイ」のエンディング・リフを派手にしたもの。隠れた名フレーズを探し出したT.I.に拍手を贈りたい。1stシングルだが、内容は公共の電波にとてものせにくい脅しのオンパレード。
04I'M TALKIN' TO YOU
名DJとしても名をはせるジャスト・ブレイズがプロデュースのプログラミング・サウンド。ハイトーンのオケヒットがダルいラップに喝を入れていて良いメリハリ。人気ラッパーの名前がほぼ全員出てくるので、何人聴き取れるか勝負!!
05LIVE IN THE SKY
オーティス・レディングを彷佛させるようなノスタルジックなピアノ・ループ、2PACの影がみえるT.I.のラップ、フィーチャリング参加のジェイミー・フォックスの七色のスキャット。この3つの要素が絶妙に溶け合う忘れがたいメロウ・チューン。
06RIDE WIT ME
D4Lの大ヒット「LAFFY TAFFY」で市民権を得た高音エレドラのフィル・インがふんだんに聴ける、これぞ南部ヒップホップ。タイトルの通り、内容は「ドライヴ」、エンディングでアメリカの主要都市をまわると宣言するオチが微笑ましい。
07THE BREAKUP
タイトル(「別離」の意)のとおり、音楽なしの男と女の罵り合いのインタールード。インタールードでも尺あり、ストーリーあり、効果音ありの充実作。ライナーに「ここでコカインを吸う」とか歌詞以外の情景描写があるのがユーモラスだ。
08WHY YOU WANNA
クリスタル・ウォーターズの大ヒット曲「ジプシー・ウーマン」のサンプリングが確信犯的な2ndシングル。断る女の子に対してド下品に口説く内容が決してファッショナブルにならないT.I.らしくて良い。軽く流れるラップにも工夫があり良い出来。
09GET IT
他の南部ラッパーと違い、音をやたらと詰め込む傾向があるT.I.の特徴がよく出ている曲。スヌープ・ドッグの「ドロップ・ライク・イット・ホット」のリズムが一瞬出てきたり、茶目っ気たっぷりのプロデュースは売れっ子のスウィズ・ビーツ。
10TOP BACK
ホーンのフレーズがヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」を思い出すスマッシュ・ヒット。精緻なリズムと緊張感あふれるトラックにT.I.のノリも絶好調。チンギーらも手がけるマニー・フレッシュのプロデュース。
11I'M STRAIGHT
物憂げなオリジナル・トラックが露悪的なリリックの世界を浮かび上がらせる。マニー・フレッシュ、リル・ウェインらとともにホット・ボーイズとして活動したBGと「ソウル・サヴァイヴァー」のヒットを持つヤング・ジーズィの悪童2人が脇を固めるハマリ曲。
12UNDERTAKER
銃を持つ心得が懇々と語られる危険な内容、「見慣れない車にはぶっ放せ」だそうだ。50セントのG-UNIT出身のヤング・バックとT.I.の秘蔵っ子ヤング・ドローがフィーチャリングで参加。タイトルは葬儀屋のことだが、これは「殺し屋」と訳したい。
13STAND UP GUY
歯切れの良いラップと悲しげなメロディを含んだフロウが相乗効果を生み出している、ヒップホップのお手本のような曲。聴かせどころをおさえたミックスのオリジナル・トラックも好印象。ダンスホールっぽくもあるリズムはフロアで踊るのにぴったりだろう。
14YOU KNOW WHO
ロー・トーンのラップと分厚い重低音のリズムに時折ハイトーンのホーンが突き刺さるヘヴィ・チューン。ネタは60年代に活躍し、キング・オブ・ロックン・ソウルと呼ばれたソロモン・バークの「FIGHT BACK」。
15GOODLIFE
音が素晴らしくキレイなネプチューンズ・サウンド。オリジナルのピアノ・ループはリッチでメロウ、メロディを担当するファレルの歌声にはうっとりしてしまう。コモンも参加のお得な本曲、心強い協力者を得てT.I.のヴァースも最高の出来だ。
16HELLO
2PACの匂いが漂うミディアム・チューン。T.I.が社長をつとめるグランド・ハッスル所属のガヴァナーがリック・ジェイムスのようなヴォーカルを聴かせてくれる。ネタはトッド・ラングレン作、アイズレー・ブラザーズの名演「ハロー・イッツ・ミー」。
17TOLD YOU SO
スタッカートと長いトーンをうまく混ぜたホーン・フレーズが印象的なオリジナル・トラック。トラックのリズムを無視したT.I.お得意の「俺って悪い奴」の語りが延々と続く。この内容でダミ声の演出にマンネリ感は否めない。
18BANKHEAD
タイトルはT.I.とフィーチャリング参加のヤング・ドローの出身地であるアトランタのゲットー地区のこと。ドローの気だるいフロウ、チープなストリングス、サビのメロディをなぞるピアノのそれぞれが懲りない街の風景を浮かび上がらせる。
19DRUG RELATED
定番のドラッグ話(タイトルはドラッグ・ディーラーのこと)にもはや強い意志さえ感じるが、ワンパターンのリリックに工夫が欲しくなる。リッチなストリングスが美しいネタはモータウンのアーティスト、ウィリー・ハッチの「LOVE ME BACK」。