ミニ・レビュー
小林武史プロデュースのファースト・アルバム。ソウルフルなふくよかさ、多彩な表情、力強い表現などをあわせもつ実力派の歌い手で、小林はオーガニックな音作りに徹することで、彼女のナチュラルな魅力をストレートに引き出している。スケール感豊かな佳作。
ガイドコメント
2001年公開の映画『リリィ・シュシュのすべて』でリリィ・シュシュを演じ、2004年に「VALON-1」でデビューした女性シンガー・ソングライターの1stアルバム。透明感あるヴォーカルとポップ・サウンドが心地好い。
収録曲
01landmark
“何に立ち向かっていったらいい”と疑問を投げかけるが、“全部自分の中にあった”と歌うのが印象的。不穏な空気の中から徐々に覚醒していくようなサウンドが、9.11で崩壊したビルを連想させるようなナンバー。
02アイアム
ささくれ立つように鳴り響くギターが、どこか虚しげな雰囲気を漂わせるナンバー。自分を猫にたとえ、“本当のあたし”を探してさまよう人の心を描く詞を、絵本を読んで聞かせるようにキュートに歌いあげている。
03VALON-1
リップ・スライムのイルマリとのデュエット曲「VALON」のSalyuヴァージョンで、彼女のデビュー曲。穏やかで伸びやかな歌声が、海中を泳いでいくような緩やかなサウンドと溶け合い、呼吸を取り戻していくような印象を受ける。
04虹の先
デビュー・シングル「VALON-1」のカップリング。自分の心を映し出す虹のような幻が“青空”へと繋がる詞に、清々しい余韻が感じられる。ユラユラと揺れ動くやわらかな光が差し込む光景が目の前に浮かんでくるような雰囲気を携えた、まろやかなまどろみをくれる曲。
05Peaty
風が吹き抜けるようなサウンドをバックに、ギターが淡々とリズムを刻むミディアム・ナンバー。空を飛ぶような自由への憧れと側にいて微笑みをくれる人への想いが交差する詞を、ゆっくりと空に舞い上がっていくようなヴォーカルで表現し、独特の世界観を作り出している。
06体温
浮遊感が漂うとともに水中に深く潜っていくような感触を持つサウンドが印象的。プログラミングによる電子音が、泡のように隙間を縫っていくようだ。“あなたと私”が“それぞれで良かった”という詞が、温かい癒しのように響くナンバー。
07ウエエ
気だるさが漂うシンプルなロック・ナンバー。こもった音作りとモノクロをイメージさせる曲調が、“あなたがいなければ 色がない絵になるんだ”という言葉に絶妙なリアリティを与えていく。お気楽な感じの歌声が心地良く響く。
08Dramatic Irony
草原を吹き抜ける風のようなロック調のサウンドに乗せて、徐々に高まる歌声が空いっぱいに広がるように響きわたる。叫びのような高音ヴォーカルは苦しそうでもあるが、それを超えていくような爽快感を与えてくれる。
09Dialogue
ゆったりとしたリズムながら力強く叩かれるドラムが、内なる情熱を秘めたヴォーカルを支えていく。自問自答からはじまり、世界と繋がっていたいという意志へと向かっていくという、心が脱皮していくさまを描いたミディアム・ナンバー。
10彗星
“彗星”にいろいろな想いや場面を託していく詞を、広がりのあるメロディに乗せて歌うミディアム・ナンバー。何度別れを経験してもまた明日に向かう姿を思わせる詞は、大切な思い出を胸に前へと進む気持ちを与えてくれる。
11Pop
灯台のように照らしている“Pop”を頼りに、不確かな世界で“愛と勇気を探す旅”に出ようと歌うミディアム・スロー・ナンバー。淡々と刻まれるビートと広がりのあるギター・サウンドをバックに、若々しくも渋みのあるヴォーカルが漂っていく。