収録曲
01WAKE UP MR.WEST
前作『COLLEGE DROPOUT』(=大学中退)から引き継がれている『LATE REGISTRATION』(=履修登録遅延)に収録のインタールード。実際に大学を中退したカニエ・ウェストの実話に基づいているようで、“起きないと遅れるぞ”とミスター・ウェストに忠告しているよう。
02HEARD 'EM SAY
美しいピアノのフレーズは、ナタリー・コールのヒット曲「思い出の中に」からのもの。「確かなものなどない、それを受け入れることが唯一の道」と諦念の中にも光を捜そうとする内容が秀逸。マルーン5のアダム・レヴィーンの存在感あるヴォーカルには脱帽。
03TOUCH THE SKY
カーティス・メイフィールドのフレーズが強力に響く。鼻歌のようになぞるあたり、カニエ・ウェストはよほどこの曲が好きなのだろう。後半でルぺ・フィアスコが出てくるタイミングも絶妙で、リスナーを飽きさせない隠し味が効いているナンバー。
04GOLD DIGGER
レイ・チャールズになりすましたジェイミー・フォックスの器用さが光る。韓国のヒュンダイまで登場するカニエ・ウェストのアイロニーにあふれた詞がひたすら楽しい。ヴォーカル・フレーズはレイの「アイ・ガット・ア・ウーマン」から。
05SKIT 1
これまた学生生活の一コマだろうか? サークル「一文無しクラブ」の決起集会の模様を再現したインタールード。学生の時はお金がない方が楽しいこともある、とうなずいてしまうようなお茶目な内容。
06DRIVE SLOW
カスタム・ジュエリー・ラッパー、ポール・ウォールの遅れて音符に入り込むようなスタイルは、ハンク・クロフォードのサックスによる気だるい雰囲気を支配する曲調にぴったり。ゆっくりドライヴがナンパ成功の秘訣、と教えてくれるナンバー。
07MY WAY HOME
天才コモンが「人生は苦しみに満ちた闘いだ」とするラップや、2分に満たない曲の短さが説得力を持つ。サンプリング・ネタは黒いボブ・ディランと称されたギル・スコット・ヘロンの「ホーム・イズ・ホエア・ザ・ヘイトリッド・イズ」。
08CRACK MUSIC
総勢15名のゴスペル・グループ、ニューヨーク・コミュニティ・クワイアのコーラスに乗って、ドラッグに犯された世界が映し出される。ゲームのフレーズが力強く、ジェイ・Zを希望の光と扱っているところが印象的。
09ROSES
ビル・ウィザースの「ロージー」をうまく使った物語調の曲で、実話ともとれる内容は圧巻。採り上げる内容が多岐にわたるのもカニエ・ウェストの特徴が活かされた曲の一つで、節回しがあまりない古いスタイルのラップが功を奏している。
10BRING ME DOWN
「気が滅入る」「うっとおしい」と意味するフレーズは、スターダムにのし上がったカニエ・ウェストの苦悩だろうか? フル・オーケストラが奏でるストリングスが重厚感を生み出し、大人になったブランディーの歌唱力が鬼気迫るナンバー。
11ADDICTION
時折入る「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のフレーズの主は多くのアーティストに愛されるエタ・ジェイムス。カニエ・ウェストが猥雑なことを語っても下品さが際立たない、エミネムには書けない詞に、彼の才能が垣間見える。
12SKIT 2
大学生サークル「一文無しクラブ」の活動風景のインタールード。ステップを踏んで貧乏をネタにする学生たちが口にするのは、「お金なんか使わない」というフレーズ。一文無しという意味の“BROKE”が連発されるスキット。
13DIAMONDS FROM SIERRA LEONE
成功の象徴をダイアと位置付けるジェイ・Zに、“胸元でダイアモンドが光るたびに、シエラレオネの女の子の腕がなくなる”という葛藤をカニエ・ウェストが問いかける。アフロ・アメリカンの2人が投げかけるテーマが重くのしかかる作品。
14WE MAJOR
あふれ出るピアノは黒人が抱える憤まんか? どんなに人口が増えてもマイノリティとして扱われる黒人が感じる、概念が実態に追いついていない不条理。多少ふてくされている感もあるが、そんな状況を吹っ飛ばすように「おれたちはメジャーだ」と宣言している。
15SKIT 3
さわやかサークル「一文無しクラブ」の活動風景パート3。サークルの部長だろうか? 彼らを統率する思想家か? 学生たちに向かって熱く語りかけている。かなり笑える内容に、カニエ・ウェストのユーモアのセンスを感じるインタールード・スキット。
16HEY MAMA
ドナル・リースの「TODAY WON'T COME AGAIN」をネタにした温かみのあるトラックは、“ママ・ソング”にはぴったり。カニエ・ウェストのママへの視線は優しい。ジョン・レジェンドのヴォーカルも良い味を出している。
17CELEBRATION
カニエ・ウェスト自身のオリジナル・ナンバー。やぼったいシンセのフレーズが新鮮なザップのようなアレンジだ。内容はあくまでも下世話だが、子供の誕生にセレブレーション! くれぐれも子供の前で、妻のことを“ビッチ”呼ばわりしないように。
18SKIT 4
学生のドロップ・アウトを防ごうとする彼の強烈なメッセージが込められているインタールードのパート4。コミカルではあるが、学生支援財団を設立するほどの彼にとっては、シリアスな問題提起となっている。
19GONE
オーティス・レディングの「イッツ・トゥー・レイト」のフレーズが楽しげな雰囲気で使われているナンバー。“昔の人生とはおさらばしなきゃ”というラップと後半のカニエ・ウェストのパートが印象に残る。
20DIAMONDS FROM SIERRA LEONE
ネタは映画『007・ダイアモンドは永遠に』の同名主題曲。アフリカ西部に位置するシエラレオネ共和国の惨状を題材にし、痛烈にブルジョアを批判する内容。「ダイアモンドは永遠じゃない」の意として“永遠”というフレーズが繰り返され、悲惨な現実を映し出している。
21BACK TO BASICS
カニエ・ウェストとコモン、同郷の2人が「初心に戻ろう」と演じる。曲中の「ON THE CORNER」は故郷のシカゴのことを思わせ、シカゴにうずまく不条理が、彼らのクリエイションの原動力の基礎だといいたげだ。
22WE CAN MAKE IT BETTER
男ラッパーが5人も揃う時はこの回転速度に変化をつけたトラックやピッチの上げ下げが効果絶大だ。順序立てそれぞれが登場し、個性が違うラップが楽しめる。「誰が一番うまい? へた?」を決めるラップ・バトルでいうなら、Q-ティップが優勝か?
23LATE
カニエ・ウェストはよほど学校での遅刻がトラウマになっていたのかと思わせる遅刻ソング。学校に対しては弱気なリリックが続いていて、ヒップホップもイカツイだけじゃないことがわかる。ラッパー口調の「〜だぜ」方式でこの曲を訳したら誤訳となる。