ミニ・レビュー
洋楽げ(“げ”に傍点)に聴こえるJ-POPの、最先端であると同時に超保守。という離れわざが可能であったことを身(ていうかCD)をもって証明したことが、MY LITTLE LOVERの衣鉢を継ぐこの男女ユニットの功績だろう。それにしても時々お手本に似過ぎとは思うが。
ガイドコメント
J-POPの新しいスタイルを掲示し続ける、LOVE PSYCHEDELICOの2ndアルバム。スローな楽曲が多いのは、性急すぎる世に物申すかのよう。ヒット・シングル「Free World」ほかを収録。
収録曲
01Standing Bird
悩み苦しむことは生き続けていく限り尽きないものだが、一方で可能性のある限り、夢を追い続けることも果てしない。煩雑にありながらも今を知り、光を求めて彷徨う姿をオリエンタル調のフレーズに乗せて描いている。
02Free World
日本語と英語をいともなく自然に行き交うヴォーカルが冴えわたる4thシングル。印象的なギター・リフのループ、まるで翼が生えて大空を翔け回るかのような広大で爽快なサウンドは、まさに“自由世界”だ。
03unchained
冷めたファンク・チューン、または淋しげなテクノ・ポップ。坦々とリフレインするデジタルなリフと無感情なヴォーカルが生む静かなグルーヴ感は、身動きが取れなくなる程に思考回路だけが堂々巡りする、あの金縛りの感覚にも似ている。
04green
掻き鳴らすアコースティック・ギターの音色も瑞々しい、清涼感溢れるインスト・ナンバー。バックでリズミカルに歌うコンガの音色は、まるで新緑の森の中を悠々と駆け抜ける駿馬の姿を思わせ、爽やかな疾走感を添える。
05dry town
憂いを帯びた空に、宛てもなく何かを求める……、そんな虚ろな瞳を思わせるKUMIのアンニュイなヴォーカルが際立つ、哀しくも美しいアコースティック・バラード。深い情感を湛えたビートルズ・ライクなアレンジも絶品。
06I will be with you
マドンナ「パパ・ドント・プリーチ」の雰囲気を持った、切ない情感を刺激するようなメロディが印象的。湿度と乾度のバランスが絶妙で、決して突き抜けることはないものの、もの足りなさを残さない構成がクール。
07days of days over you
過ぎ去りし日々への憧憬に浸る時の甘美で切ない感覚にも似た、穏やかなアコースティック・バラード。やさしいメロディにシンプルながらも深みのあるピアノ伴奏が加わり、ジョン・レノンのソロ時代の作品を彷彿とさせる。
08You ate it
天性のロック・スピリットが炸裂するKUMIのヴォーカルが最高に渋い、直球アメリカン・ロック。王道のロック・サウンドながら、今時のグルーヴ感をしっかりと持たせたアレンジこそ、もはや公用語となった“デリコ・サウンド”。
09waltz
KUMIのクールなヴォーカルもいつになく甘い一面を見せる、ドリーミーなアコースティック・ナンバー。悠々とした3拍子のリズムに乗せてスケールを増す展開は、心が大空に解き放たれていくような感覚にさせてくれる。
10life goes on
哀愁を滲ませながら流れ行くさまが、目まぐるしく展開する人生と重なるアップ・テンポのカントリー・ナンバー。カウボーイの格好で都会の真ん中を歩いても、なぜかクールにキマってしまうような、デリコ的センスが光る秀作。
11“O”
スタートを待ち切れずにエンジンを噴かしていた車が、合図とともにけたたましく走り飛んでいくような、畳み掛けるスピードとロックの骨太さが肝の高速チューン。3分足らずの短さだが、曲のポテンシャルは高い。
12California
ドラムとギターだけのシンプルなアレンジで、憧れの地への想いを坦々と綴る、ノスタルジックなアコースティック・バラード。低音域で聴かせるKUMIの歌声は、カレン・カーペンターのそれと錯覚するほど、深みのある響き。