ミニ・レビュー
カニエ・ウェストの楽曲に客演し、脚光を集めたラッパーのデビュー作。ジェイ・Zやカニエ・ウェストがバックアップし、サイケな要素とポップな意匠を巧みに取り込んだノリのいいトラックを提供。親しみやすい声と相まって、魅力あふれる作品になっている。
ガイドコメント
アメリカで絶大な人気を誇るヒップホップ誌『XXL』で「2006年最も有望なアーティスト」に選ばれ、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、トゥイスタら大物が大絶賛するルーペ・フィアスコのデビュー盤。
収録曲
01INTRO
デビュー・アルバム『フード&リカー』のイントロダクション・トラック。女性記者による街角からのレポート風スピーチが約1分間展開された後、扇動的なストリングスをバックにルーペ・フィアスコの朴とつとした説教的語りが綴られていく。
02REAL
ハーヴィー・メイソン「How Does It Feel」をネタ使いし、タイトなギターのループが肝となっているヒップホップ・チューン。自身が設立したプロダクション、1st&15thからサラ・グリーンをフィーチャーし、リアルが最高だと畳み掛けるように説いている。
03JUST MIGHT BE OK
1st&15thプロダクションからジェミナイを迎えたヒップホップ・チューン。ドラマティックなGeminiの「Humphrey's Overture」をサンプリングしたトラックの上で、直面した難題にも“結局、俺たちは大丈夫かもな”と楽観的に歌っている。
04KICK, PUSH
1st&15thのサウンドトラック制作の1stシングル。なめらかなストリングスとホーンによるトラックのループや、“キック、プッシュ”のフックが耳に残るスケーターズ・アンセム。フィリピンのシンガー、セレステ・レガスピ「Bolero Medley」をネタに使用。
05I GOTCHA
ネプチューンズ制作による2ndシングル。変わったコード・パターンによるピアノを軸としたフレーズが特徴で、ルーペがキャッチーなフロウを披露している。“ヒップホップを俺たちが生き返らせるぜ”という意気込みが鋭く感じられるトラックだ。
06THE INSTRUMENTAL
マイク・シノダ(リンキン・パーク、フォート・マイナー)制作によるヒップホップ・トラック。ジョナ・マトランガをパフォーマーに起用し、ジョナのバンド、Farの「Nestle」をサンプリング。ほの暗さを持ったコーラスとキレ味鋭いラップの共演は見事だ。
07HE SAY SHE SAY
バート・バカラック「The Last One To Be Loved」のたおやかなフレーズを活かしたナンバー。客演にジェミナイとサラ・グリーン、プロデュースにサウンドトラックと、1st&15thの面々を起用。母と息子の見解で述べられたリリック構成に注目。
08SUNSHINE
プロダクション・カンパニー、1st&15thのサウンドトラックによるプロデュース作。クラシカルなソウル・ミュージックに乗せて“君は俺の陽光で、月光で、星空”と歌うコーラスが魅惑的。ムードのある落ち着いたミディアム・トラックだ。
09DAYDREAMIN'
クレイグ・コールマンのプロデュースによる、アイ・モンスター「Daydreaming In Blue」をサンプリングした幻想的なヒップホップ・チューン。ルーペのフロウも見事だが、ファンシーな世界観を創出するジル・スコットのヴォーカルがさらに光っている。
10THE COOL
デクスター・ ワンセル「Life On Mars」の浮遊感あるフレーズを引用した、カニエ・ウェスト制作のミディアム・トラック。“あっという間に過ぎる人生なら、すべきことをやり続けろ”と、タイトルどおりクールに伝えている。ルーペのさりげない歌唱にも注目。
11HURT ME SOUL
セシル・ホームズ「Stay With Me」のレア・グルーヴ・ミュージックを大胆に引用した、ニードルズのプロデュースによるスタンダード・ヒップホップ。身近な環境から世界に蔓延する悪行まで言及したリリックが、痛いほどに伝わってくる。
12PRESSURE
客演にジェイ・Zを迎えた、1st&15thのプロリフィックによるプロデュース作。テルマ・ヒューストン「Pressure Cooker」を引用し、ホーンやギターを始めピアノ、ドラムなど、前がかりに刻まれる80年代風のサウンドが特徴のロック調ヒップホップ。
13AMERICAN TERRORIST
マシュー・サントスを迎え、ジプシー風のボサ・ノヴァ調ギターを軸としたトラックが魅力的なプロリフィック制作曲。リターン・トゥ・フォーエヴァー「The Romantic Warrior」を引用し、フォークとヒップホップの見事な融合を体現している。
14THE EMPEROR'S SOUNDTRACK
UFO「Between The Walls」をサンプリングした、1st&15thプロダクションのサウンドトラックによるプロデュース作。“恐れるのは神のみ、武器なんて弱いものの道具”と言い放つゆるぎない信念が、しっかりとフロウに表われている。
15KICK, PUSH 2
1st&15thプロダクション、ブランドン・ハワードのプロデュースによる1stシングルの続編で、プロ・スケーターのトニー・ホークへの句も挿入されている。辛い過去を“キック・プッシュ”して捨てていく、という意を含むシリアスなフロウが秀逸。
16OUTRO
1stアルバム『フード&リカー』の実質的なラスト・トラック。同アルバムの「イントロ」にも使用された扇動的でスリリングなストリングス・サウンドをバックに、12分以上にわたってルーペがフロウし、壮大なエンディングを創り上げている。
17TILTED
デビュー・アルバム『フード&リカー』に収録のボーナス・トラック。オリエンタル風ビートのループが耳を引くトラック、コーラスでの通過する車の音を口で模したようなフレーズや高速フロウが印象的な、ニードルズによるプロデュース曲。