ミニ・レビュー
苦難の末に、ようやく届けられたアルバム。前作のザラついた感触とは打って変わり、女性コーラスの使い方やギターの音色の多様性に独特のポップ・センスを感じる。もともと持っていたバンドとしてのダイナミズムも、リック・ルービンが上手く引き出している。
ガイドコメント
『マラドロワ』から約3年ぶり、通算5枚目となるウィーザーのオリジナル・フル・アルバム。良質メロディのパワー・ポップから、泣き虫節が嬉しいナンバーまでヴァラエティ豊かなロック・アルバムとなった。
収録曲
01BEVERLY HILLS
へヴィなサウンドと軽やかなハンド・クラップによるラップ・ロック。ビバリー・ヒルズでのセレブな日々を謳歌している風でいて、実はセレブを揶揄するひねくれた歌詞がおもしろい。スローなテンポながら、メロディは高揚感満点。
02PERFECT SITUATION
彼らの泣きメロが大好物な人は、開始30秒で感涙必至。リック・ルービンのプロデュースでコシの加わったバンド・サウンドが、巧みに起伏を付けての劇的展開をみせる。ピアノとシンセのカラフルな味つけも効果的なナンバーだ。
03THIS IS SUCH A PITY
カーズやバグルズに通じる秀逸なモダン・ポップ・ナンバーで、歌詞には恋人たちの将来への不安が歌われている。意図的にチープな要素を配したキーボード・サウンドが、楽曲全体の哀愁ムードを80年代へと擬似変換。
04HOLD ME
歌唱、演奏のテンションに激しい高低差を付けたドラマティックなナンバー。起伏の激しい曲構成は彼らが得意とするパターンのひとつ。哀願するような歌詞を熱唱するリヴァースの歌声が、過去最大級に染みてくる。
05PEACE
アコースティックとエレクトリック・パートが相互に引き立たせ合っているメロディアスなナンバー。崩壊しかけた関係修復を求める歌詞と関係があるのか、いつもの人を喰ったようなムードは皆無で、ひたすら実直に歌っている。
06WE ARE ALL ON DRUGS
“みんなクスリをやっている”と歌うサビがキャッチーな、ノリの良いハード・ロック・ナンバー。ドラッグ謳歌風の歌詞だが、もちろんこれには逆説的な意図が。ヴァリエーションに富んだギター・サウンドで飽きさせない1曲だ。
07THE DAMAGE IN YOUR HEART
ウィーザーらしからぬシリアスすぎるイントロで幕が開け、最後まで哀愁をふりまき続けるメロウ・ナンバー。恋に破れた主人公が、負け犬人生にとっては大したことじゃないと言いながらも、あれやこれやと語り尽くす。
08PARDON ME
各パートがサビへと集束するスムーズな流れに、リック・ルービンがプロデュースを手がけた成果も顕著なエモーショナル・ナンバー。歌詞では、リヴァースがこれまでに傷つけた不特定多数へ向けての謝罪が綴られている。
09MY BEST FRIEND
ザクザクとしたテンポとサウンドが小気味よいポップ・パンク・ナンバー。映画『シュレック2』のために書かれるも、タイミングが合わずに不採用になった。代わりに採用された別バンドの曲はアカデミー賞にノミネート……。
10THE OTHER WAY
エリオット・スミスの急死で落ち込む、彼の恋人を元気づけようと書かれたナンバー。が、描かれているのは、励まそうにもその勇気が出ずにいるリヴァースのリアルな姿。彼らにしては珍しくメロディがビートリッシュだ。
11FREAK ME OUT
さみしげな雰囲気の美麗ナンバー。この曲で主役を張るしなやかなハーモニーの魅力を、ストリングスなど脇役陣がやんわりとフォロー。彼ら曰く、この曲はクモについて歌ったのだとか。その解釈なら俄然面白みも増す。
12HAUNT YOU EVERY DAY
リヴァースが、ビリー・ジョエルとエルトン・ジョンを意識したと言うとおり、ピアノ・サウンドが大々的にフィーチャーされたバラード。私小説的だったリヴァースの歌詞に、本曲では多面的な表現が加わっている。
13BUTTERFLY
『ピンカートン』収録曲のライヴ・ヴァージョン。原曲はアコースティック・ギターによる弾き語りだが、本曲ではバンド・サウンドによるアレンジでプレイ。穏やかな演奏の彼方から、観客のハイ・テンションな嬌声が聴こえてくる。
14ISLAND IN THE SUN
『ザ・グリーン・アルバム』収録曲のライヴ・ヴァージョンで、イントロが鳴った瞬間にファンからは大歓声。演奏のまとまりではスタジオ版に軍配が上がるだろうが、ライヴならではのラフさが醸し出す憂いもまた染みる。
15BURNDT JAMB
『マラドラワ』収録曲のライヴ・ヴァージョン。原曲では個性的ながらも短すぎたベース・イントロが、本テイクでは遊び心あふれる長めのイントロに。他のパートもスタジオ版とは異なるアレンジを盛り込んでおり、楽しませてくれる。