ガイドコメント
95年発表の3rdアルバムは、全28曲を2枚組に詰め込んだ意欲作。従来よりメロディに重点が置かれた作風で、ビリー・コーガンの繊細で内省的な世界観が浮き彫りにされている。
ミニ・レビュー
ビクトリアンなCDジャケットが昔のヨーロピアン・プログレを彷佛とさせる3rdは、2枚組全28曲の超大作。製作に2年を有しているが、バンドが充実しているからこそできる完成度を誇っている。Disc2の後半のノスタルジック・メドレーもまた聴きもの。
収録曲
[Disc 1]〈ドーン・トゥ・ダスク〉
01MELLON COLLIE AND THE INFINITESADNESS
美麗なピアノのメロディが印象的なインスト・ナンバー。静けさの中にもオーケストラのような壮大さを感じさせるアレンジが秀逸。物語の始まりを告げるように心地良く、それと同時に終わりを迎えるような寂しさを秘めている。
02TONIGHT, TONIGHT
絹のように滑らかなストリングスが流れ落ちていく耽美的なナンバー。メランコリックなメロディの美しさもさることながら、叩きつけるようなドラミングとストリングスが生み出すダイナミックなサウンドに確かなロックンロールの息吹を感じる。
03JELLYBELLY
チェーンソーのようにハードなギター・リフが襲いかかってくるメタルチックなロック・チューン。触れるものすべてを切り刻むような鋭さと凶暴さを剥き出しにしながらも、ビリー・コーガンの紡ぎ出す甘いメロディに思わず酔いしれてしまう。
04ZERO
硬質で重厚なギター・リフが炸裂するハードなメタル・ナンバー。ヘヴィなサウンドと呪うようなビリーの歌声が妖しさを通り越して、オドロオドロしい感じさえする。漆黒の闇をも想起させるダークなロックンロールだ。
05HERE IS NO WHY
ブルージィなギターが全体を牽引するルーズな雰囲気をたたえている。泥臭くありつつも、美メロのサビで一気にカタルシスを引き起こすさまは、エアロスミスにも通じる爽快感を感じさせる。雄大で物悲しいメロディに胸が切なくさせられるナンバーだ。
06BULLET WITH BUTTERFLY WINGS
ヘヴィなグルーヴが徐々に渦を巻き、金属的なギターとともに一気に爆発するミドル・チューン。グランジの匂いが残る躁鬱入り交じったサウンドを展開しつつも、耽美的なメロディを取り込むことで、ブームの後追いサウンドでない彼ららしさを出している。
07TO FORGIVE
爪弾かれるギターのアルペジオと憂いを持ったビリーの歌声が、有機的に絡み合ったシンプルなアコースティック・ナンバー。胸を締めつける切ないメロディとコーラスが見せる美しさに、時間が過ぎるのも忘れてついつい聴き入ってしまう。
08AN ODE TO NO ONE
ラウドなギターのカッティングが絨毯爆撃のように辺りを一掃する爆音メタル・チューン。スマパンの持つ凶暴性を総動員したサウンドが、ただただオーディエンスを圧倒する。破壊衝動そのものといえる一曲だ。
09LOVE
甘ったるいタイトルからは想像できないほど、ギトギトのデジタル・ノイズに塗り固められたインダストリアル・ロック。嫌みなほどベトついたサウンドから吐き出される「LOVE」という言葉から、いびつな愛の形が見え隠れしている。
10CUPID DE LOCKE
ハープやチャームなどのきらびやかな音色が印象的なドリーミーなポップ・ナンバー。夢のような浮ついたサウンドと、ささやくようなビリーの声が子守唄のように心身をリラックスさせ、極上の音空間へと誘ってくれる。
11GALAPOGOS
メランコリックなアルペジオ、円を描くようなドラミング、祈るような歌声が徐々に世界を構築していく壮大なバラード曲。バンド・サウンドを極力控え、無駄をそぎ落としたアコースティックな構成で、美メロを聴かせてくれる。
12MUZZLE
ファズ・ギターを前面に押し出したバンド・サウンドで魅せるバラード・ナンバー。甘く歪んだサウンドと憂いをたたえた歌声の抜群の相性で聴かせるメロディが、洪水のようにオーディエンスを一気に飲み込む感動的な一曲だ。
13PORCELINA OF THE VAST OCEANS
10分近くにわたり世界を構築していく壮大なバラード・ナンバー。時には憂いを吐き出し、時には暴力的に叩きつけられるギターや、淡々と時を刻むリズム隊など、細部まで計算された構成はロック版オーケストラといっても過言ではないほどの精密さを保っている。
14TAKE ME DOWN
アコースティック・ギターの音色に合わせビリーが淡々と歌うメランコリックなナンバー。透明感のある歌声にストリングスなどを絡み合わせたメロディは、こぼれ落ちそうなほどあやうく、それゆえに美しい。
[Disc 2]〈トワイライト・トゥ・スターライト〉
01WHERE BOYS FEAR TO TREAD
ハードなギター・プレイが前面に押し出された、ダークな曲調のロックンロール・ナンバー。地面を這うような低いギター・リフを基盤に、時に吐き捨てるようなビリーの歌声がパンキッシュ。スマパンの暗黒面を色濃く映し出した一曲だ。
02BODIES
ノイズを吐き出しながら疾走するギター・サウンドが、スマパンの醸し出す暗黒面へ向かって一直線に降下していくヘヴィなギター・ロック。硬質なバンド・サウンドとビリーのシャウトがドス黒い塊となって、オーディエンスを押し潰す勢いで迫ってくる。
03THIRTY-THREE
乾いたアコースティック・ギターのサウンドに乗せて紡がれるメロディが、キラリと光る秀曲。優しく歌うビリーのヴォーカルの透明度と純粋さは、まさに天使の歌声。包み込むようなサウンドにただただ癒されるロマンティックなバラードだ。
04IN THE ARMS OF SLEEP
大陸的で雄大なギター・サウンドとメロウでありつつもどこか牧歌的なメロディが、夜空に溶け込むように淡々と紡がれては消えていく。そんなピースフルな空気に包まれた、カントリー風味のアコースティックなナンバー。
051979
野太いベース音とダンサブルなビートにニューウェイヴの匂い漂う、メランコリックなダンス・チューン。打ち込み音なども意欲的に盛り込み、ニュー・オーダーの曲かと思うほどの切なさと煌めきを体現している。
06TALES OF A SCORCHED EARTH
叩きつけられる激しいギター・リフが唸りをあげる、竜巻のようなナンバー。悲鳴を上げるギター・ノイズも凄まじいが、絶叫&シャウトのビリーのデス声は、マリリン・マンソンか! と突っ込みを入れたくなるほどの振り切れっぷり。
07THRU THE EYES OF RUBY
ピアノの美麗な音色、ラウドなギター、浮遊感のあるドリーミー・ポップを、すべて一緒くたにした壮大なバラード・ナンバー。ダイナミックなギターに乗せて繰り広げられるメロウなサウンドは、切なさと甘さで胸いっぱいにしてくれる。
08STUMBLEINE
アコースティック・ギター一本で奏でられる弾き語り曲。優しく爪弾かれるアルペジオとビリーの歌声は触れた途端に消えそうなほど儚く、美しい。ギターの弦を押さえる「キュッ」という音まで聴こえてくる、プライベートな香り漂うナンバーだ。
09X. Y. U.
直球のメタルともいうべきラウドなギターとリズム。垂直に叩きつけられる重低音サウンドにとことん圧倒されるハードなナンバー。後半のフリー・セッションも含めて7分にわたり、かなりの狂気的なプレイを聴かせてくれる。
10WE ONLY COME AT NIGHT
オールディーズのクリスマス・ソングかと思うほどファンタジックでドリーミーなサウンドで聴かせてくれるポップ・ナンバー。無邪気なビリーの歌声は、まるで少年そのもの。イノセンスな光りに満ちたメロディはとても心地良い。
11BEAUTIFUL
東洋的なメロディを取り入れたオリエンタルな香り漂うナンバー。打ち込みによる柔らかいサウンドが生み出す浮遊感と耽美的なサウンドが、包み込むように辺りを埋め尽くし、心地良い音空間を生み出している。
12リリー (マイ・ワン・アンド・オンリー)
ピアノをフィーチャーした牧歌的でノスタルジックなナンバー。郷愁感を煽るメロディが染み込むように胸に広がっていく。派手さは決してないが、気がつくとそばでメロディが鳴っていてくれるような素朴な一曲だ。
13BY STARLIGHT
心音のようなビートに乗せて綴られるメランコリックなバラード。ピアノやギターの派手さを押さえたメロディが波紋のように広がり、やがて大きな波となっていく。少しずつ時間をかけて紡がれていく感動的な一曲だ。
14FAREWELL AND GOODNIGHT
アコースティック・ギター+パーカッション+ピアノを主体としたアコースティックなナンバー。ビリー、イハ、ダーシーの3人による極上のコーラス・ワークが生み出すメロウなサウンドは、思わず涙がこぼれ落ちるほどの美しさだ。