ミニ・レビュー
2年ぶりのアルバム。これまでの昭和歌謡、ビッグバンド路線は影を潜め、まるで80年代ニューウェイヴを思わせるようなギターが何のてらいもなく鳴らされている。それでも核となるメロと歌が確立されているため、迷いは一切感じない。彼らの新境地といえる作品だ。
ガイドコメント
前作『Night Food』から約2年ぶりとなるニュー・アルバム! ジャズ、ロック、ポップスの垣根を越えて、新たに過去と未来をつなぐ“EGO WARLD”サウンドに酔いしれよう!
収録曲
01hju:mer
胎動のようにたゆたうメロディの合間を、熱を帯び乾いたハミングが泳ぐ。アコースティックかつ民俗楽的な音の流れと、電子音のようにプツプツと途切れる幻惑のヴォイス。わずか120秒に詰め込まれた不思議な音のユートピア。
02マンホールシンドローム
浮遊感たっぷりの技巧的なヴォーカルに、表情豊かなギター、切れのあるドラム。グルーヴィ、メロウ、ミステリアス。変幻自在にリズムとムードを変えていく万華鏡的サウンドで、スキルの高さを証明した1曲。
03林檎落花
70年代、80年代の昭和歌謡を彷彿とさせるレトロな曲調は、ハミングしたくなる陽気なムードが満載。心地よいギター、聴く者を惹きつける仕掛けがたっぷりのヴォーカル、色彩感豊かなポップ&チャーミングな音の楽園。
04moonlight journal
青白く冷たい月が心の中に浮かび上がる、しっとりとした耽美的ムードの和製バラード。凛と張り詰めた透明感を持ち、絹のように滑らかな音で夜の空気感を描く。高音域を艶やかに奏でる歌声が神秘的で狂気的なおとぎ話を綴る作品。
05カサヴェテス
サックスが吹き荒れ、踊り出したくなるジャジィなナンバー。華麗なキレと存在感を放つ、楽器のように高質な歌声。曲中、突然訪れる静謐。アコーディオンを弾く場面では、クラシックなどの音楽に精通した教養の高さが見え隠れしている。
06Dog Smokie
80年代の日本のニューウェイヴを思わせる、レトロ調のスリリングでジャジィなナンバー。曲の中盤から熱を帯びるようにホーンの音が厚くなり、昔のアングラ色に染まっていく緻密で濃厚な音作りは圧巻。
07 (I Love The Sound Of)Breaking Glass
英国の大御所シンガー、ニック・ロウの美しくアヴァンギャルドな名曲をカヴァー。ほんわかとした優しい質感の歌声と、アコースティックな心温まるサウンドで、原曲に近いキャッチー&ダンサブルな音を再現している。
085月のクローバー
まろやかな真夏の夜のムーディ・ジャズ。甘美で滑らかな歌声がぬるい夏風のように流れ、バックでブラスの硬質なハーモニーがクラシカルに盛り上げる。力が抜けたムードながら、巧みに曲の雰囲気が転調していく緻密な音世界。
09憐れみのプレリュード
反復するマリンバの不思議な響き。音の海を泳ぎ玉虫色の輝きを放つヴォーカル。ファンタスティックな雰囲気と哀調が入り混じるアコーディオンの音色が、夜のメリーゴーランドのように幻想的で危うい情熱を秘めるソウル・ジャズ。
10マドリガル
楽しく軽快なピアノと変幻自在のヴォーカルを、ドラムが絶妙のコンビネーションで盛り上げる。静かな甘いバラードが、徐々にパワーを溜め込んでスウィングするブルースへ。静と動が入り交じり拡散する、色彩感豊かなナンバー。
11TV JACK
穏やかで甘美なヴォーカルで聴く者を酔わせながら、型にはまらない自由な音構成で進行するメランコリックなブルース風ナンバー。曲中に現われては消えて行く笑い声や動物の鳴き声が、淡々としたソフトなメロディの中で刺激の棘となっている。