ミニ・レビュー
“モダン・クラシックス”なんてタイトルをつけるあたりいかにも皮肉屋の彼らしいが、まさに90年代の彼の足跡を辿る質のいいアルバムといえる。ブックレットの写真も良くて、この人は常に孤高のロックンローラー、P.ウェラーであり続ける人なんだと実感。
ガイドコメント
UKの若手バンドには、兄貴分的存在として限りなくリスペクトされているポール・ウェラー。ついに彼のソロ時代を集約したベスト・アルバムが登場。もちろんクオリティの高さは折り紙付き。
収録曲
01OUT OF THE SINKING
スモール・フェイセズの作品を噛み砕いて再構成したような、情感あふれるドラマティックな曲調。まさにモッズ精神を継承する彼ならではの硬軟兼ね備えた見事なラブ・ソングだ。ムダ肉のないバンド・サウンドも力強い。
02PEACOOK SUIT
ウィルソン・ピケットの「ムスタング・サリー」に刺激を受け、同じくらい生命力ある曲をと書き上げた。リズム隊の強固なプレイにその影響がうかがえるが、楽曲そのものはヘヴィなブルース・ロックに仕上がっている。
03SUNFLOWER
スティーヴ・ウィンウッドら先達にならい、英国ロックと米南部音楽を折衷し始めた時期の重要作。ライヴ感ある演奏によるアーシーな曲調で、ビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」のフレーズもさりげなく引用。
04THE WEAVER
トラフィックを彷彿とさせるソウルフルな曲で、スティーヴ・ウィンウッドになりきったようなウェラーの歌唱が楽しめる。この曲で、スティーヴ・クラドック(オーシャン・カラー・シーン)がウェラー作品に初参加。
05WILD WOOD
いかにもウェラーらしい、熱っぽくもセンチメンタルなアコースティック・ナンバー。70年代ロックのエッセンスを消化した、まさしく“モダン・クラシック”なサウンドで、どん底状態を吐露した歌詞には剥き身のウェラーの姿が投影されている。
06ABOUVE THE CLOUDS
アシッド・ジャズ界隈における重要人物、クリス・バングスが全面参加したソウル・ナンバー。ジャジィなギターで変化を付けるも、かなり直裁に影響が浮き出ている曲調ゆえ、“目を閉じればマーヴィン・ゲイ”度も高し。
07UH-HUH OH-YEH
同時代のヒップホップ作品に刺激を受け、ブレイクビーツなども採り入れてみせた意欲作。アシッド・ジャズも吸収した雑食的サウンドや曲題は吹っ切れているが、まだ絶不調期の最中だっただけに、歌唱のいきおいは弱々しい。
08BRUSHED
ウェラーを先頭にしたワイルドなバンド・サウンドに、音割れするほどヘヴィなリズム・ループを重ねた超攻撃型ファンク・ナンバー。ほとんど悲鳴に等しいサウンド・エフェクトが、ギター・リフに被さり狂暴性を増す。
09THE CHANGING MAN
「導火線に火を点けろ」と自らを鼓舞するモッド・ナンバー。ウェラーの猛るメロディがブレンダン・リンチによるダビーなサウンドと同期した力強い曲調だ。冒頭部がELO「10538序曲」に聴こえた人は、重度の音楽中毒だ。
10FRIDAY STREET
ウェラーのいまだ衰えぬ反抗心と情熱が歌われた、不惑直前視点によるモッズ賛歌。ビートリッシュで土臭いサウンドをバックに、彼のソウルフルな歌唱が一人二役となって共演。さながら気分はジョン&ポールだろうか。
11YOU DO SOMETHING TO ME
何度もアレンジを変更した末に完成したのは、メロウなピアノと泣きのギター、そしてソウルフルな歌唱が心を射抜くアダルティなバラード。肴は炙ったイカでいい、そんなしみじみとした気分にさせられる、ほろ苦き傑作。
12BRAND NEW START
リチャード・トンプソン作品の熟成した魅力とも重なる味わいのフォーキーなナンバー。歌唱は穏やかでも、「新しいスタートを切るのに遅すぎることはない」と、歌詞はアツい。アビー・ロード第2スタジオで録音された作品。
13HUNG UP
ダウン・トゥ・アースなサウンドに、ビートルズのエッセンスを溶け込ませた得意の曲調。クリスマスに書いたこの曲は、歌詞の大部分が納得いく出来映えだったらしく、その満足感と思い入れが好演となって昇華している。
14MERMAIDS
英国ポップ奇人ロイ・ウッドへの献辞もクレジットされた直球のラブ・ソング。音圧を強調したサウンド、流麗なストリングス、♪シャラララ〜と歌うコーラスなど、英国ロックの魅力を凝縮したようなポップ・ナンバーだ。
15BROKEN STONES
ウェラーのウーリッツァーとスティーヴ・ホワイトの的確なドラミングを軸にしたメロウなギターレス・ナンバー。サザン・ソウルにローリング・ストーンズとスモール・フェイセズのエキスを注入したような、少し塩辛い趣が魅力的。
16INTO TOMORROW
レコード会社との契約もなく“過去の人”と化していた彼が、自主レーベルから“ポール・ウェラー・ムーヴメント”名義で発表した復活作。ファンキーなリズムを足場に、型にとらわれないギターと歌唱で荒々しく熱演。
17CAN YOU HEAL US HOLY MAN
『モダン・クラシックス』の限定仕様盤についているライヴ盤『Live Classics』収録の音源。98年8月のロンドン公演からの音源で、終盤でのファンク・ギターなど、ライヴで演じ続けられることで増した黒っぽさが魅力。
18PORCELAIN GODS
『モダン・クラシックス』の限定仕様盤についているライヴ盤『Live Classics』収録の音源。98年8月のロンドン公演からの音源で、テンポやメロディが複雑に交錯する原曲を、よりソリッドな演奏で荒めに演じている。
19THE RIVER BANK
ジャム時代に発表したサイケデリック・ナンバー「リバーバンク物語」を、タイトルも歌詞も変えて再演。同じサイケデリックなアプローチなれど、ジャム以降に積み上げたキャリアが、楽曲に貫禄という重みを与えている。