ミニ・レビュー
9年ぶりで4作目のソロ・アルバム。大半の曲は2010年夏の食道癌の手術前に出来上がっていたらしいが、エロいフレーズを大人の性臭で進化させた歌詞と深みを増した曲を、パワフルかつポップに展開するさすがの仕上がりだ。厚手の紙に読みやすいデザインで歌詞が載った28ページのブックレット付き。
収録曲
01現代人諸君 (イマジン オール ザ ピープル)!!
リヴァーブを深めに効かせたギターが妖しげな雰囲気を引き出すロック・チューン。ゆったりとしたテンポに言葉をめいっぱい詰め込み、崩壊寸前の社会を痛切に批判しながらも“頑張れ!!現代人(イマジン)”とエールを送る。タイトルはジョン・レノン「イマジン」から。
02ベガ
軽やかなリズムに乗せて男女の悲恋を歌うミッド。許されぬ二人の儚い恋を、七夕の夜にのみ逢うことを許された織姫(ベガ)と彦星になぞらえて綴る。甘く優しいメロディ・ラインの素晴らしさはもちろん、シンセを多用したサウンドやブリッジなどのアレンジも秀逸。
03いいひと〜Do you wanna be loved?〜
歌謡曲的なセンスが見事に発揮されたポップ・チューン。他人の顔色を気にして何も決められぬ“首相(ボス)”に“リーダーシップが足らんのぉ!!”とバッサリと切り捨てる詞が痛快。サザンの名曲「ミス・ブランニュー・デイ」を思わせるシンセによるイントロが印象的。
04SO WHAT?
エロティックな詞とバリトンサックスが艶やかな雰囲気を醸し出すミッド。ムッとするような湿気を帯びた曲調に独特の粘り気のある歌唱が映える。一夜の過ちを描きながら、“頭上をヘリが飛ぶ”“異国の鉄柵がある”と沖縄を示唆する思わせぶりなフレーズが目を引く。
05古の風吹く杜
夏を感じさせる爽やかなポップス。“波寄せる由比の浜辺”“電車の窓に江ノ島が見える”と、おなじみの地名を織りまぜながら古都・鎌倉を色彩豊かに描き上げる。原由子がアレンジを担当したストリングスの温かな音色と、優しく包み込むようなコーラスが心に染み入る。
06恋の大泥棒
フンパーディンク「太陽が燃えている」を思わせる、映画音楽のような王道ポップ・チューン。ホーンやストリングスを駆使した豪華なサウンドをバックに、遊び人が出会った本気の恋を綴る。八代亜紀をモチーフにした“ダンチョね〜”のシャウトなど、遊び心も忘れない。
07銀河の星屑
フジテレビ系ドラマ『CONTROL〜犯罪心理捜査〜』主題歌。死後の世界をイメージした詞とヴァイオリンを駆使したジプシー調アレンジが新鮮。“蘇れもう一度!!”“まだ人生にゃ未練がいっぱい”とあるが、制作は癌発見以前。神の悪戯ともいうべき強烈な偶然だ。
08グッバイ・ワルツ
トム・ウェイツを思わせる“酔いどれ感”たっぷりのゆったりとしたワルツ。病気発覚後の作詞で、“儚きは矢の如く 季節だけが巡りゆく”と歌う姿が胸に刺さる。斎藤ネコが管・弦編編曲を担当し、テューバやアコーディオンがうらぶれた雰囲気を効果的に表現している。
09君にサヨナラを
ソロ名義では12枚目となるシングル。鮮やかなストリングスと原由子のコーラスが心地よいポップ・チューンで、爽やかなメロディ・ラインにのせて“さらば友よ いとしい女性よ”と大切な人との別れを歌う。自身出演の大塚製薬「UL・OS(ウル・オス)」CMソング。
10OSAKA LADY BLUES〜大阪レディ・ブルース〜
“心斎橋”や“道頓堀”などの地名が多く登場する、大阪のことを歌った泥臭いブルース。笑福亭鶴光よろしく“エエのんか!?”のフレーズや甲子園での野球の実況を入れた間奏など、遊び心に満ちたアレンジが楽しい。ヴォーカリストとしての桑田の味が存分に楽しめる。
11EARLY IN THE MORNING〜旅立ちの朝〜
推進力のある4つ打ちのビートが強烈な、13thシングル「本当は怖い愛とロマンス」カップリング収録曲。サンプリングも多用したエレクトリックなアレンジと肉感的でエロティックな歌詞の対比がおもしろい。2010年度の『めざましテレビ』テーマソング。
12傷だらけの天使
男同士の友情を歌ったミディアム・ナンバー。フラれた友人を慰め、“ヘコたれてんじゃねぇ!!”と背中を押す。ゆったりとしたリズムにパキっとしたホーンのバッキングとドラマティックなストリングスを合わせた、古き良き歌謡曲の世界を思わせるアレンジが沁みる。
13本当は怖い愛とロマンス
弾むようなピアノのバッキングで幕を開ける、桑田版「レディ・マドンナ」ともいえる13thシングル。“女って怖い!! 何故!? わかんない”と女の不可解さを嘆き、未練たっぷりに恨みごとを告げる情けない男の姿を描く。軽快なリズムとポップなメロディが楽しい。
14それ行けベイビー!!
復帰を遂げた第61回『紅白』で披露した曲。エレキギター1本とハーモニカの弾き語りスタイルで、今を生きる人や自分に向けて“適当に手を抜いて行こうな”とぶっきらぼうに歌う桑田流応援歌だ。“命をありがとネ いろいろあるけどネ”のフレーズにハッとさせられる。
15狂った女
“性別を超えたヒーロー 真実と虚構のアバター”とMAD(狂った)ONNA(オンナ)=“マドンナ”を歌ったハード・ロック調ナンバー。ゴリゴリに押す前半からドラマティックなホーン・アレンジを経てジャズのエッセンスを含むブリッジと、目まぐるしい展開が楽しい。
16悲しみよこんにちは
フランソワーズ・サガンの同名小説よりタイトルをつけられたミディアム・ナンバー。ありふれた夢やロマンにもう二度と惑わされないと、愛しい人が去っていった男の心境を優しく歌い上げる。ウクレレやローズ・ピアノの温かな音色が、独りごちる男の内面を映し出す。
17月光の聖者達 (ミスター・ムーンライト)
ピアノのアルペジオで幕を開けるゆったりとしたバラード。“ビルの屋上の舞台で 巨大な陽が燃え尽きるののを見た”など、ビートルズに想いを馳せた詞を綴る。原点といえるビートルズを想いながら“明日は今日より素晴らしい”と情感たっぷりに言い切る歌唱が胸を打つ。