ミニ・レビュー
5年ぶりの5作目。ヴォーカルのカール・ハイドとサウンド・プロデュースを手がけるリック・スミスの二人に加え、今回はU2のラリー・ミューレン、ダレン・プライスらも参加。あくまでコンフォタブルなタッチにこだわったようなスムーズな仕上がりだ。
ガイドコメント
イギリスのエレクトロ・デュオ、Underworldの約5年ぶりとなるアルバム。ダンス・ミュージックの枠を超えた、壮大なアート・アルバムに仕上がっており、彼らの新境地が感じられる。
収録曲
01CROCODILE
前作『ア・ハンドレッド・デイズ・オフ』より5年ぶりの復帰作『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』のオープニング。はっきりとした輪郭のビートやスペーシーな音像のリフレインが、変わらないサウンドの帰還を告げる。テンションを抑えたカール・ハイドのヴォーカルが流麗。
02BEAUTIFUL BURNOUT
徐々にヴォルテージを上げる『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』2曲目。「イギリスの地下鉄から見える美しい情景について歌った」とはカール・ハイド本人の談。心地良く跳ねるビートに乗せて、涙腺をくすぐるエモーショナルなシンセが旋律となって現れる。
03HOLDING THE MOTH
ラップ然とした朴とつな語りが心地良く脳を揺さぶる。シンプルな4つ打ちのキックの上に均等に配置されたシンプルなエレキ・ベースが乗り、後半ではピアノやパーカッションといった生音が効果的に用いられる。不思議な静けさをたたえた楽曲。
04TO HEAL
「90年代にはすでにできあがっていた」という幻の楽曲の初音源化。ビートレスで進行する緩やかなシンセ・サウンドが、大陸的な響きを放っている。「トゥ・ヒール」というタイトルどおり、フロアを癒すチルアウト・トラック。
05RING ROAD
ヒップホップのバック・トラックのような、硬質で有機的なビートが特徴。カール・ハイドのヴォーカルも明らかにラップを意識したものとなっている。本人の「自分の地元の町の日常的なことを歌った」というコメントのとおり、素朴な味わいを持った楽曲。
06GLAM BUCKET
アンダーワールドの激クラシック「レズ」のフレーズに似たキャッチーなシンセのメロディを用いながらも、「レズ」とはまったく異なった表情を持った楽曲。宇宙空間を思わせる、深みのある無機質さとクールネスが印象的に響きわたる。
07BOY, BOY, BOY
幾重にも折り重なったギターのディレイ・サウンドが美しく鳴り響くヴォーカル・トラック。カール・ハイドの美声も冴えわたり、アンダーワールドのバンド・サイドがうまく現れた楽曲といえるだろう。U2のラリー・ミューレンがドラムで参加している。
08CUDDLE BUNNY VS THE CELTIC VILLAGES
ビートレスで進行する実験的な楽曲。エフェクトにまみれた不穏なギターの音像、いびつなコードで進行するシンセなど、ダークな音のパーツが独特の世界を形作る。「ゴジラのような兎と小さな村」という抽象的なタイトルも彼ららしい。
09FAXED INVITATION
音数の少ないストイックなビートが展開する前半部から徐々にシンセの音が足されていき、メッセージ性のある曲の表情が少しずつ明確になっていく中盤以降への流れが秀逸。マシン・ヴォイスの無骨な語りに耳を傾けていると、いつの間にか曲の世界に引き込まれている。
10GOOD MORNING COCKEREL
爽やかなピアノのソロで幕を開ける、メランコリックな楽曲。リラックスしたカールのヴォーカルも曲の切なさに拍車をかけている。後半で隠し味程度にストリングスが用いられるが、基本はピアノと歌だけで構成された、アンダーワールドには珍しい楽曲だ。
11BEST MAMGU EVER
“マンギー”とはウェールズ語で“祖母”をさす。内省的な歌詞とサウンド、抑揚のないシンセとドラム、カット・アップのように細かく切り刻まれたヴォイス・サンプリングが特徴的。中盤からディレイのかかったギターが美しく反響し、その余韻を残したままで幕を閉じる。
12LOADS OF BIRDS
硬質で無表情なマシン・ドラムとインダストリアルな上モノとの組み合わせが、どことなくマッシヴ・アタックを彷彿とさせる楽曲。ささやくようなヴォーカルに支配された内省的な前半部から、後半にかけて徐々に盛り上がりを見せるさまは、エモーショナルの一言。