ガイドコメント
人生、音楽に対するポジティヴな姿勢、高い演奏力などはUKのほかのバンドとは一線を画する将来有望な新人バンド。アルバムの内容は、美しく、情感にあふれ、力強く心に訴える楽曲が中心。
収録曲
01DON'T PANIC
繊細な響きをもつアコースティック・ギター、“幻想的なダイナミズム”とでも形容すべきリズム構成、あまりにもデリケートで叙情的な効果をもたらすメロディ・ライン。デビュー・アルバムの1曲目で彼らはすでに、独自のスタイルをしっかりと自分のものにしていたといえそう。ディレイを効果的に使ったギター・ソロも感涙もの。
02SHIVER
2000年5月にリリースされ、全英TOP40入りを果たしたデビュー・シングル。自分のほうを振り向いてくれない“君”に向かって、ずっとずっと待っているよとつぶやく“僕”……こんなにも内向的なリリックに音楽的な深みを与え、普遍的なポップスへと昇華させているのはヴォーカル、クリスの歌の力によるところが大きい。
03SPIES
遠くのほうでかすかに聴こえるギター音響のなかで、ブリティッシュ・トラッドの流れを汲むフォーキーな歌が鳴り響く。曲が始まって10秒もすれば、リスナーはその音楽的な新しさに瞠目させられるはず。プリミティヴな手触りと2000年代音響系を同時に感じさせてくれるバンド・アンサンブルが素晴らしい。
04SPARKS
アシッド・フォーク、サイケデリアといった雰囲気の3拍子のナンバー。少ない音数にもかかわらず、独特のうねりを体現するベース・ライン、シンプルなリズム構成のなかに奥深い歌心を感じさせるドラムの絡みが印象的。ダークで美しいヴォーカル、漠然とした不安感をシンボリックに描き出す歌詞もいい。
05YELLOW
イギリスで大ヒットを記録、コールドプレイを爆発的ブレイクに導いた2ndシングル。力強く、一歩一歩進んでいくビート、曲が進むにつれてダイナミクスと麗しさを増していくヴォーカル・ライン、そして全体を大らかに温かく包み込むギター・ワークがバランスよく配置されている。タイムレスな輝きを放つ、名曲。
06TROUBLE
クラシカルなピアノのリフを中心としたミドル・バラード。この曲の核になっているのは間違いなく、クリス・マーティンの歌。“蜘蛛の巣が絡みついてくる”というフレーズに象徴される、姿の見えない不安感がじんわりと伝わる表現が印象的。また歌を届けることに心を砕いたアレンジもクオリティが高い。
07PARACHUTES
コード・チェンジの“キュッ、キュッ”という音がはっきりと聴こえる、ジョニー・バックランドのアコースティック・ギターとクリスの朴訥にして奥深いヴォーカルによる、46秒のタイトル・チューン。ワン・ヴァースのなかにアルバムのコンセプトを集約させた歌詞には、このバンドが持つデリケートな文学性が込められている。
08HIGH SPEED
バンドの内的宇宙を感じさせる、壮大かつ繊細なアンサンブルがとにかく印象的。デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」の世界観を2000年代のエレクトロニカで再構築したかのような印象だ。昇天する手前でふわりと降りてくる、徹底的に洗練されたメロディ・ラインがなんとも気持ち良く、クセになる。
09WE NEVER CHANGE
「We never change」というフレーズをクリスがつぶやくように歌うとき、そこには21世紀を生きる我々すべてに関わる深い絶望感が立ち上がる。もっと穏やかに暮らしたい。しかし、僕らは決して変わらない……絶望を絶望で終わらせず、圧倒的な美しさを持つ芸術に変換する彼らの才能を体現したナンバー。
10EVERYTHING'S NOT LOST
アルバムの最後は「And singing out」(歌うんだ)という言葉で閉じられる。ジャズの要素も感じられるアレンジとかすかな光をたたえたメロディによって映し出されたのは、“歌”に対する祈りにも似た感情だった。すべてが失われたわけではない、もう少しやってみよう。そんな希望を感じさせるラスト・ナンバー。
11CAREFUL WHERE YOU STAND
12FOR YOU