ミニ・レビュー
約2年半ぶり9枚目のオリジナル・アルバム。彼女のヴォーカルを前面に出すだけで終わらず、ビートの強調されたバッキングと拮抗するミックスの曲が大半で、線の細い歌声の奮闘ぶりがけっこう刺激的だ。そういう構成だからこそバラードの「The Meaning Of Us」が目立つと言える。触り甲斐のある24ページのブックレット付き。
ガイドコメント
約2年半振りとなる、2009年12月16日発表の9枚目のアルバム。自身が出演するVidal SassoonのCMソングとなった「MY LOVE」「COPY THAT」や、ヒット・シングル「WILD」「Dr.」などを収録する。
収録曲
01FAST CAR
ノルウェーのDSign MUSIC制作による、乾いたパーカッションと太いサックスをアクセントにしたブーティなアップ。危なっかしくもイカした男を猛スピードで走る車に見立てて、ほかの誰にも乗らせないと息巻く姉御肌の安室の歌唱が痛快。
02COPY THAT
「ジェームズ・ボンドのテーマ」風イントロと中毒性の高い“コピー!コピー!”のフックが特色のアップ。上司に恋する部下の健気な仕事ぶりを、“有能な参謀”“最強の相棒”とするあたりも『007』風か。“弱音は吐かない!”と言い切る歌唱が共感を呼ぶ。
03LOVE GAME
DOUBLEが詞を提供した、SAトラックワークス陣制作によるクールなアップ。ヒット&アウェイやハートにブローなど、恋愛をボクシングにたとえている。男を誘惑したつもりが逆に惚れてしまったラヴ・アフェアを歌う、精悍でクールなヴォーカルは見事。
04Bad Habit
ランダム・ミュージックのウーゴ・リラらによる、重厚なボトムが響くクラブ・チューン。欲望に勝てない男の浮気癖をあざ笑うかのごとく、魔性の女に変貌した安室が上目線で誘惑。禁断の世界に導くような“ドゥ・ウィ・ドゥー”のコーラスも強く心を揺さぶる。
05Steal my Night
Jeff Miyaharaによる「WANT ME, WANT ME」でも用いたバングラ・ビートを配したアップ。スカして踊る男に早く奪ってよと挑発する、一夜限りのラヴ・アフェア・ソングだ。視線が合ったら外せない迫力が歌唱に存分に表われている。
06FIRST TIMER (feat.DOBERMAN INC)
ドーベルマン・インクを迎えた、バウンシーなクラブ・チューン。おもちゃ箱をひっくり返したようなラップやコーラスが入り乱れるにぎやかなフックは、T・クラ楽曲ならでは。話はシナプスから宇宙までと膨大だが、言いたいのは「最初が一番」ということ。
07WILD
「コカ・コーラ ゼロ」キャンペーンに起用のシングル。ミチコ流の解釈で少子化問題を扱っており、難しく考えず欲望のまま行こう! という大胆な提言を、安室がサラリと歌いのけている。エフェクトを多用するなど、T・クラらしいアレンジはここでも健在。
08Dr.
「WILD」と両A面のシングル。Nao'ymtによる近未来的な世界観を取り入れたクラブ・ミッドで、大仰なオーケストレーションや心拍音などのアイディアが巧み。過去の苦い恋の傷を消し去り二人の愛を救ってとすがる歌唱が、切なくも愛らしい。
09Shut Up
ヴォーカル・エフェクトをアクセントにした、ボトムの厚いロック寄りの一曲。“だからお願い 放っておいて”とクールに言い放つが、中盤での“つまらない争いに巻き込まないで”の哀願にも似た歌唱は、安室の本音を吐露するかのよう。Nao'ymt制作曲。
10MY LOVE
HIRO制作による、シンセ・サウンドを重用したコンテンポラリーなUS調R&B。00年代末のトレンドのオートチューンを効果的に駆使している。今すぐ会いたいという気持ちを“LOVE”の連呼で描写したフックが、何ともキュート。
11The Meaning Of Us
U-Key zone制作によるミディアム・スロー・バラード。気品ある鍵盤が響く美麗な曲だが、壮大というより等身大の愛情を育むような細やかさが秀逸。あなたがそばにいれば強くなれると、成長した大人の女性の愛情を描く。
12Defend Love
Nao'ymt制作の「Dr.」続編ともいえるフューチャリスティックなクラブ・アップ。二人の愛を救ってというパーソナルな愛から、独善的争いなど何の足しになると普遍的な愛へテーマが変化。ドクターへの救いの声も緊迫を増し、強い怒りさえも覚える。