ミニ・レビュー
デビュー作『ピンク・フライデー』(2010年)で一躍時の人となった、トリニダード・トバゴ生まれの女性ラッパーによる2枚目のアルバム。軽快なトラック自体も心地よいが、彼女の綴るリリックをじっくり読み込めば、面白さはさらに増すはず。ビルボード・チャートで初登場1位を記録。
ガイドコメント
デビュー・アルバム『ピンク・フライデー』が全米1位を獲得して一躍スターダムにのし上がった、ニッキー・ミナージュの2ndアルバム。フレッシュなフロウやクリエイティヴあふれるセンスなど、トップ・アーティストも認める才能が詰まった注目作だ。
収録曲
01ROMAN HOLIDAY
ブラックアウト制作参加のアッパー・ヒップホップ。パーカッションとシンセのパートを交互に繰り返しながら、オルター・エゴである“ロマン・ゾランスキー”に憑依する悪霊を祓う儀式を描く。グラミーで披露した際には修道女姿で登場し、早速教会から顰蹙を買った。
02COME ON A CONE
プロデュースに迎えたのはヒットボーイ。終始背後を支配する不穏なムードのフレーズの連続で、シリアスなのか不敵なのか、不気味な世界観を演出する。小バカにしたようなフロウもチラ見せするなど、得意のニッキー節が炸裂。
03I AM YOUR LEADER
“あんたのリーダーはアタシよ”とキャムロン&リック・ロスの男性陣二人を引き連れて宣言とは、さすがノッてる女性というところか。無機質的だが陶酔を誘う中毒的なビートとミュージカル風の劇場型コーラスという構築は、ヒットボーイによるもの。
04BEEZ IN THE TRAP
エコーを効かせた洞窟のような神秘的な空間作りをしたのは、ジェイ・Z「ヒストリー」仕事で知られるKenoe。ニッキーはやや低温ながらもひねたフロウを披露。一方、彼女にハイテンションで2チェインズが語りかけるが、ニッキーは意に介さずどこまでもマイペース。
05HOV LANE
ヘヴィなベース・ラインに乗せて、ご機嫌モードなニッキーが饒舌に語りまくるといったようなフロウを展開。リアン&スミッティとともに手掛けたエネルギッシュなトラックだ。ただし、ジガへの賞賛らしき詞には拍子抜けかも。
06ROMAN RELOADED
リボルバー・アクションと“バ・バ・バン”といったフックを繰り返すリコ・ビーツ制作のハードなトラック。ポップと批判したヤツに、“あんたの名前は聞かないけど?”と商業的成功を収めたニッキーが嘲笑。師匠ウィージーが酔いどれ風に最後を締める。
07CHAMPION
ナズ、ドレイク、ヤング・ジージー参加の、成功までの苦闘を綴ったT・マイナス制作曲。そのためか全体的にシリアスなムードが立ちこめ、ニッキーは詩人のごとき佇まい。重鎮たちもクールにその空気を受け継いでいる。
08RIGHT BY MY SIDE
クリス・ブラウンを迎えたポジティヴなR&B。私の側にと語るこの曲では、ニッキーもいつもの攻撃的なポーズをとらずに、フックではクリス・ブラウンとハーモニー。終盤でソリッドなフロウをチラりと披露するが、基本的には警戒を解いている。
09SEX IN THE LOUNGE
ボビー・Vのヴォーカルの艶とタイトルが示す官能的なメロウR&B。そのムードに合わせるかのように、ニッキーは雰囲気重視のフロウを展開。後半にウィージーも通常よりはソフトに加わるが、声が声だけにやはり下世話感は否めないか。
10STARSHIP
レッドワンが参画したクラブ・ポップ。スターシップくらい高い空へ舞い上がろうというパーティ・ソングだが、“マザーファッカーより高いよ”など詞曲ともにひねたフレーズを入れ込むのがニッキーらしさ。ただ曲風は完全にガガっぽいレッドワン仕様。
11POUND THE ARARM
高揚を煽るユーロ・ダンサーで、フックでジャンプの連続が起きそうなパーティ・ソング。「スターシップス」路線といえるのも当然、プロデュースはレッドワン。ここでは皮肉を言うニッキーは影を潜め、ひたすら酒宴モードで楽しんでいる。
12WHIP IT
ラテン調のメロディ・ラインに乗せて“ナナナ、ナナナナナナ、ナナ〜”と歌うユーロ・ポップ。ヴァースでこそエッジの効いたフロウをかますが、多くはレッドワン産のパーティ・モードに相乗り。ジェニファー・ロペスあたりの作風にも似たパーティ・ジャムだ。
13AUTOMATIC
ホットな夏に似合いそうなダンス・トラックをバックに、腰が動くのを止めらんないというなかなか刺激的なリリックで幕開け。抜けのいい“エエ、エ、エーエー”のフックもキャッチーな、レッドワンによるパーティ・ダンサーだ。らしいフレーズもあるが、ほとんど上機嫌。
14BEAUTIFUL SINNER
アレックス・ダ・キッドのプロデュースによるクラブ・ダンサー。“美しき罪人”と読みとれるこの曲は、やや哀愁を漂わせたユーロ的なアプローチが特色。刺激的ではないが、ニッキーはそのムードを壊さぬよう歌に専念している。
15MARILYN MONROE
世界的なセックス・シンボルの名を冠した、J.R.ロテム制作による内省的なミディアム・バラード。キンと純度の高い鍵盤のループをバックに、皮肉や毒舌が“ウリ”のニッキーがシリアスに歌う。ポップ・シンガーの才もみせた曲だ。
16YOUNG FOREVER
Dr.ルーク&カールカットのお膳立てによって、ニッキーが永遠の若さについて歌うパワフルなミディアム・バラード。ビヨンセあたりが歌いそうな未来への期待を感じさせる曲風で、ここでは得意のビッチ・キャラは完全に払拭されている。
17FIRE BURNS
タイトルの激しさとは対照的な、ホロ苦さと甘酸っぱさが同居した曲風に覆われたミディアム・チューン。90年代テイストをほのかにしたためたR&Bといえ、ニッキーは完全に歌姫と化している。制作はクリス・ブラウンやアッシャー、モニカ仕事もこなすポップワンゼル。
18GUN SHOT
レゲエ・テイストのミディアム・スロー。物騒なタイトルとともに「ロマン・リローデッド」的にガン・アクションをアクセントにしているが、ビーニー・マンの陽気さによって、のどかなカリブ的な雰囲気が広がる。物語のエンディングのようなトラックだ。
19STUPID HOE
オルター・エゴの“ローマン・ゾランスキー”が暴れまくる、DJダイアモンド・カッツ制作のドープなビート・トラック。“アタシは女版ウィージー”とキメているとおり、変幻自在のビッチなディスが炸裂(仮想敵はリル・キム?)。この下世話さが彼女の真骨頂だ。
20TURN ME ON
デヴィッド・ゲッタ印全開のユーロ・エレクトロ・ダンサー。高揚を煽る“ターン・ミー・オン!”を繰り返すエキサイティングなフックが耳に残るが、歌い手一本では終わらず、終盤で“らしい”フロウを披露して、ゲッタに主役を渡すまいと奮闘している。
21VA VA VOOM
フックの“バ・バ・ブーン、ブーン”という語感がクセになる、Dr.ルーク、クール・コジャック&カールカットによるユーロ・ダンサー。こういうクラブ・エレクトロな曲調との適合性もあるところが、ニッキーが単なる女性MCと一線を画しているところか。
22MASQUERADE
ゆったりとしたメロディ・ラインのなかでも、ヴァースではエキセントリックな演出もチラチラ。シンガロングを誘うようなフックが印象的な作風は、Dr.ルーク、ベニー・ブランコ&カールカットが制作。ニッキーのヴォーカリストとしての存在意義を誇示しているようだ。