ミニ・レビュー
アメリカの人気アカペラ・オーディション番組『ザ・シング・オフ』シーズン3の優勝グループ、ペンタトニックスの日本独自のデビュー・アルバム。アカペラならではの肉声の凄さもさることながら、ヒップホップ的要素を盛り込んだり、随所に見られるアレンジの斬新さも聴きもの。さらにカヴァー・センスの良さはピカイチ。★
ガイドコメント
米NBCの本格的ア・カペラ・オーディション番組『ザ・シング・オフ』シーズン3で優勝した5人組の日本独自企画アルバム。ダフト・パンクのメドレーを声のみでカヴァーできてしまう脅威のテクが堪能できる2枚のEPを収録。サマソニ予習盤としても最適。
収録曲
01STARSHIPS
ニッキー・ミナージュが2012年にリリースしたクラブ・ヒット・ナンバーをカヴァー。レゲエ風の前半からEDMに展開する中盤まで、完璧にリアレンジ。原曲に近いトガったアレンジながら、声だけで構成されているからか耳にすんなりとなじむ。
02THE BADDEST GIRL
まわりの助言を振り切って“Baddest Girl(=悪女)”にハマっていく男の胸の内を綴ったR&Bナンバー。ケヴィンが作り出す細やかなビートの上で、伸びやかかつ切な成分満載のメロディを展開。ダイナミクスに富んだ構成が見事だ。
03SOMEBODY THAT I USED TO KNOW
全世界で大ヒットを記録したゴティエの代表曲をカヴァー。“前に知り合いだったただの他人”という切ないタイトルのとおりの悲しげな失恋ソングで、3人のヴォーカルがそれぞれリードを取りながら美しいハーモニーを披露。繊細な感情表情を見事になしとげている。
04AHA!
イモージェン・ヒープが2009年に発表した作品のカヴァー。ゴシック・ホラー風の雰囲気をうまく継承しつつ、ケヴィンのボイスパーカッションをはじめ人の声ならではの繊細なヴォリューム調節でダイナミクスを表現。ラストの荘厳なコーラス・ワークはさすがのひと言。
05SHOW YOU HOW TO LOVE
ほかの男を忘れることができない彼女に向けて愛の言葉を囁く悲しいラヴ・ストーリーを綴ったオリジナル曲。4つ打ちで引っ張るビートをはじめエレクトロな雰囲気を踏襲したアレンジだが、もちろんすべて声によるもの。エレクトロたらしめる細やかな工夫が見事。
06LOVE YOU LONG IME
2010年にリリースされたジャズミン・サリヴァンのR&Bヒット・チューンをカヴァー。導入のゴスペル風パートはさすが堂に入ったもの。豊かなスケールを持つ伸びやかなメロディを分厚いコーラスで見事にサポート。アヴィのホーミー風歌唱も聴きものだ。
07WE ARE YOUNG
2013年グラミー賞のソング・オブ・ザ・イヤーに輝いたFun.の大ヒット曲をカヴァー。エモーショナルなメロディを活かすべくシンプルなアレンジに終始しており、サビでのロングトーンのハーモニーは格別。陽気に展開するレゲエ風の後半もユニーク。
08CAN'T HOLD US
クルモア&ライアン・ルイスが2012年に発表したヒップホップ・ナンバーをカヴァー。曲全体を覆うトライバルな雰囲気は若干薄くなっているものの、器用にラップをこなすあたりはさすが。アヴィとケヴィンのグルーヴィなリズムに自然と体が動き出す。
09NATURAL DISATER
うまくいかない恋をテーマに、愛しい人を“Natural Disaster=自然災害”にたとえたオリジナル曲。緊迫感のあるハーモニーはまさに自然災害を前にしたかのようで、胸のうちをぶちまけるようなスコットのリード・ヴォーカルが熱い。
10LOVE AGAIN
終わりを迎えた悲しい恋の行方と激しい苦悩を綴ったオリジナル曲。ミッチがリード・ヴォーカルをとっており、ハイトーン・ヴォイスを惜しげもなく披露。対照的なポジションといえるアヴィのベースが際立っているのがおもしろい。
11VALENTINE
ジェシー・ウェアとサンファのコラボによって2011年に発表されたナンバーをカヴァー。ベルトーンのように重なっていくコーラスで、温かく穏やかな雰囲気を構築。ミッチの包み込むようなハイトーンのヴォーカルは、神聖さすら漂わせている。
12HEY MOMMA/HIT THE ROAD JACK
カースティの囁くような色っぽいヴォーカルで幕を開けるオリジナル曲。ハードなR&B風で攻める序盤から、サビでは一気にスウィンギーなジャズ・アレンジへと展開。大人っぽい雰囲気でまとめつつ、わずか3分の間でさまざまなギミックを仕掛けている。
13I NEED YOUR LOVE
世界的DJカルヴィン・ハリスがエリー・ゴールディングを迎えて放ったラヴ・ソングをカヴァー。EDM特有の効果音をうまく消化しつつ、焦燥感のあるサウンドを見事に再現。スコットの色気がにじみ出るようなリード・ヴォーカルにメロメロだ。
14RUN TO YOU
離れてしまったあなたの心を取り戻したいと苦悩する女性を描いたオリジナル曲。ボイスパーカッションを使わず純粋にコーラスだけで構築したバラードであることが逆に新鮮に響き、考え抜かれたコーラス・ワークの見事さにうならされる。
15DAFT OUNK
彼らの名を一躍世界中に広めたダフト・パンクのア・カペラ・メドレー。「ワン・モア・タイム」をはじめ、ハウス・シーンのど真ん中といえる楽曲の数々を、エフェクトを交えつつも声だけで再現する技量はやはり圧巻のひと言。ケヴィンのボイパが際立つ。
16SAVE THE WORLD/DON'T WORRY CHILD
スウェディッシュ・ハウス・マフィアが2012年に発表した2曲を繋げてカヴァー。人生や地球、命といった壮大なテーマの2曲だけに、ダイナミックでスケールの大きなアレンジが魅力。まるではじめから同じ曲だったかのような繋ぎも見事。
17RADIOACTIVE
第56回グラミー賞でベスト・ロック・パフォーマンス賞を受賞したイマジン・ドラゴンズの大ヒット曲をカヴァー。“踊るヴァイオリニスト”ことリンゼイ・スターリングとのコラボで、重厚なアレンジを施したコーラスに、より深みとストーリーを与えている。
18SAY SOMETHING
ニューヨーク出身のポップ・デュオ、ア・グレイト・ビッグ・ワールドのナンバーをカヴァー。カースティがリードをとり、重厚なコーラスをバックにエモーショナルな歌唱を披露。ケヴィンのチェロが加えられており、さらにラストで彼のリードが聴けるのも新鮮。
19ROYALS
第56回グラミー賞で最優秀楽曲賞を受賞したロードのヒット曲をカヴァー。原曲もヴォーカル・ワークとリズム+ベースを基本に構築されていただけに、ア・カペラ・アレンジとの親和性は抜群。ミッチの透きとおるような声が響く中盤のソロは鳥肌モノ。
20LET IT GO
映画『アナと雪の女王』の主題歌として全世界でヒットを記録した楽曲をカヴァー。雪の降りしきる様子をイメージさせる美しいハーモニーから、ケヴィンのボイスパーカッションを得て一気に加速。ラストのサビで美しく開ける展開とそれを完璧にこなす技量に脱帽。