ミニ・レビュー
新潟在住のMC TOCとDJ KATSUによるヒップホップ・ユニットのメジャー1枚目のアルバム。開演のベルとアナウンスが冒頭に入り、ホールでリサイタルが開幕するようにスタート。2009年9月に発売しロングセラーを続ける「春夏秋冬」やメジャー・デビュー曲「純也と真菜実」など、日本的情緒を漂わせた独自の世界を展開。
ガイドコメント
2010年1月13日発表の1stアルバム。「純也と真菜実」「春夏秋冬」「もうバイバイ」といったシングル曲をはじめ、独特の日本情緒を垣間見せるリリックと、ピアノやストリングスの柔らかな音像にアクの強いビートを潜ませたトラックの数々を収録。
収録曲
01〜OPENING〜
1stアルバム『リサイタル』の幕開けを告げる1分強のオープニング・トラック。ロビーのざわめきや開演前の注意事項のアナウンス(マユミーヌが声を担当)などが続き、クラシック・コンサートの開演前の心躍る気分が味わえる。
02リサイタル〜ヒルクライム交響楽団 作品第1番変ヒ短調〜
1stアルバムのタイトル曲。TOCがMCスキルを全開にしてアグレッシヴなラップで“唱和 ヒルクライマー交響楽団 俺と一緒に歌おうか”と煽る、ダンスホール調のナンバー。座って聴いてなどいられない“リサイタル”の開演だ。
03チャイルドプレイ
リヴァーブを効かせたキーボードによる幻想的なサウンドと、TOCのハキハキとしたMCが絶妙に対比をみせたミッド・ナンバー。“子供の頃の心そのまま”で音楽を作っているのだとつぶやくリリックが、しんみりと響く。
04春夏秋冬
ヒルクライムの代表曲となった、アコギやストリングスを用いた壮大なバラード。サビで上昇と下降を繰り返すヴォーカル・ラインがとてもドラマティック。長い時間を一緒に過ごしたいという願いを込めたリリックにも、心を揺り動かされる。
05雨天
湿り気を帯びたアコギとキーボードだけのシンプルなマイナー調によって、雨空と晴れない心を描写したナンバー。“雨が止まないのなら、俺がお前の太陽となる”という男気あふれる言葉を、あえて抑えの効いた低いトーンで歌ったところに真剣さがうかがえる。
06LAMP LIGHT
それぞれの大切な夢や想いを絶やすことなく胸に“灯せ”と鼓舞するミッド・ナンバー。重いビートにノスタルジックなシンセを乗せたサウンドは、静かにずしりと重く響く。冒頭のジッポ・ライターに火を点ける音を使うアイディアもおもしろい。
07RIDERS HIGH
エフェクトをかけたギターの重低音や硬質なドラム音がハード・ロックのような印象すら与えるテクノ調のナンバー。高速ラップを駆使しながら“ハイグレードカスタムさらにまたアイテムを足すか”など、カスタム・カーにまつわるライミングもなかなか。
08射程圏内 (feat.SUNSQRITT)
SUNSQRITTをフィーチャーしたアッパー・レゲエ・チューン。ダンスホールらしいノリのよいサウンドにのせて、SHAKA-Tはがなり気味に、SCAR-FACEは清々しく、TOCは歯切れよく“夢を射程圏内にとらえろ”とラップする。
09もうバイバイ
アコースティック・サウンドにラップを重ねた、ヒルクライムの十八番ともいえるミッド・ナンバー。気持ちが離れてしまった二人の心境を綴っており、なかでも“「別れが来るなら出会いなんて無かった方がいい」なんて……言わないでくれよ”の一節が悲しい。
10イバラの道 (feat.BOXER)
TOCと客演のBOXERがラップを交互に繰り出すナンバー。特徴的なマイナー・コードのリズムを繰り返すことで、重たくも苦しい人生の“イバラの道”を表現。温かく前向きな楽曲を得意とするヒルクライムとしては異色。
11ツボミ
夢に向かって生きる“俺たち”を花の“ツボミ”に喩えて“いつか花を咲かせよう”と歌う、ドリーミーかつピュアなキーボードの音色が印象的な楽曲。歌詞に月ごとに見ごろを迎える花の名前を挙げるなど、女性的な感性が息づいた仕上がりだ。
12純也と真菜実
ヒルクライムのメンバーが親友の結婚に際して、彼女とのエピソードを聞いて書き下ろしたラヴ・ソング。ストリングスとピアノをフィーチャーした荘厳なサウンドに乗せ、“ふたりは相思相愛”と高らかに宣言するサビは、すぐに口ずさみたくなるほどキャッチー。
13My Place
心から気を許せる場所へと帰ったときの安堵感を歌ったミッド・スロー・ナンバー。柔らかくつま弾かれるアコギのシークエンスが、自然とやさしい気持ちにさせてくれる。アルバム『リサイタル』のクロージング・トラック。