ミニ・レビュー
本質を理解し、腹を括って、より迷いなくパンク・ロックと向き合い出しているKen Yokoyama。6枚目のアルバムは、夢や男らしさを理路整然と叫ぶ姿、果敢に切り込んだポリティカル・ソングといったすべてに彼の必死な生きざまが感じられて、聴き進めるごとに胸が熱くなる。吹っ切れていて強い。★
ガイドコメント
約2年半ぶり、6枚目のアルバム。スピード感満載のシングル「I Won't Turn Off My Radio」やスカパラの谷中敦のサックスをフィーチャーした「Roll The Dice」などバラエティ豊かなサウンドを展開した一枚。
収録曲
01Dream Of You
カウベルとともに、カラっとした南国風サウンドを奏でるロック・チューン。夢のなかなら優しいあの娘、でも現実は……という切ない想いをコミカルに描いている。少年っぽさが残るハイトーンのヴォーカルもハマっている。
02Boys Don't Cry
前を向いて自分の足で進め、男だったらメソメソすんな、と突き離し気味に背中を蹴っ飛ばしてくれる応援ソング。シンプルなギター・リフでの幕開けから、ミディアム・テンポながらハネ気味のリズムで軽快に走りつつ、厳しくも温かいメッセージが染みる。
03I Don't Care
歪ませたギター・リフを中心に走り抜けるパンク・チューン。肌の色が黒でも白でも黄色でも、“Right Wing”も“Left Wing”も、かっこよければ気にしない。パンクロッカーらしい痛快なメッセージには、戦争への風刺が詰め込まれている。
04Maybe Maybe
メロコア王道のビート・パターンで駆け抜ける高速チューン。鋭いリズムや演奏と反比例するようにスウィートさに満ちたとびっきりロマンティックなメロディの乗せて歌われるのは、愛や感謝に満ちた言葉。“たぶん”と本音を隠す“保険”もキュート。
05Da Da Da
印象的な“Da Da Da, wo wo wo wo〜”という掛け合いに、拳を振りあげながら叫ぶキッズが目に浮かぶようなメロコア・チューン。細かいリズムを刻むギターを中心に、勢いを出しつつしっかり決めるバンドの切れ味も抜群。
06Roll The Dice
ゲスト参加した谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)のバリトンサックスによるリフから幕を開けるナンバー。人生に楽な道はない、賭けに出ろと煽るメッセージはリアリティに満ちているが、寓話のように昇華させる手腕が鮮やか。
07One Last Time
夢見る子頃はとっくに過ぎたけど、それでも生きていくのさ……次の世代のために役目を考えながら生きていく姿を、痛烈な皮肉も交えながら歌うキラー・チューン。ギターと歌だけの冒頭からなだれ込むバンド隊など、“名曲度”の高いアレンジがたまらない。
08Mama、Let Me Come Home
“ママ、家に帰りたいよ”という意味を持つタイトルが胸に響くファスト・チューン。高速ビート&シリアスな雰囲気をバックに、戦地の最前線に赴いた戦士の胸のうちを、直接的な言葉とともに綴る。エモーショナルな歌唱&メロディも見事。
09Yellow Trash Blues
45歳にもなって、刺青入れてギターを弾いて……“黄色いゴミのブルース”と卑下しながらも、政治家への皮肉を浴びせつつ自らの歌へのプライドを見せつける。クリーンなトーンで鳴らすギターや哀愁漂うベースラインなど、アレンジも楽しい。
10I Won't Turn Off My Radio
人気音楽番組『ミュージックステーション』での披露も話題を呼んだ3rd EPタイトル曲。高速ビート&ハイテンションな演奏とロマンティックなメロディの組み合わせは完璧な黄金比。自分という存在をラジオに重ね、存在することの意義を歌った歌詞も泣ける。
11A Beautiful Song
徳澤青弦がアレンジを手がけたストリングスも導入し、文字通り“美しい”サウンドスケープを描き出したドラマティックなミディアム・バラード。悲しく辛い別れを迎えてしまった一人の男を主人公に、独白風に進んでいくストーリーに引き込まれる。
12Pressure Drop
伝説的レゲエ・コーラス・グループ、トゥーツ&ザ・メイタルズの名曲をカヴァー。原曲に敬意を表した裏打ちのリズムを基調にしながら、より軽快さを増してアップデート。美しいコーラスワークもKen Band流にアレンジしている。