ミニ・レビュー
前作が日本でもスマッシュ・ヒットを記録したヴァージニア出身の5人組エモ・バンドの3作目。マイケミなどの仕事で知られるハワード・ベンソンが制作を担当。叙情豊かな美しいメロディを保ちつつ、ロック色を強め、より成長した姿を提示している。
ガイドコメント
前作『ジ・エヴァーグロウ』が日本でもスマッシュ・ヒットし、USエモ・シーンの代表格となったメイの3rdアルバム。憂いのある扇情的なメロディや天に突き抜けていくような透明感のあるヴォーカルが、爽快で美しい世界観を作り出している。
収録曲
01BRINK OF DISASTER
メタリックなギター・リフがリードするシークレット・トラック「ラスト・トランスミッション」に続く、アルバム『シンギュラリティ』のオープナー。曲に広がりを持たせるシンセの導入が効果的で、閉塞していく詞世界との見事な対比をなしている。
02CRAZY 8S
去ってしまった恋人にやり直しを求める歌を、彼らしい哲学的な歌い回しで表現したファンキーなロック・ナンバー。親しみやすく聴きやすい曲調だが、冒頭で圧倒的な存在感を放つギター・リフをはじめ、ロックのダイナミズムも満載。
03SOMETIMES I CAN'T MAKE IT ALONE
分厚いギター・サウンドとベース・ラインが全編を覆いつくした迫力抜群のナンバー。しだいに気が付いていく恋人の大切さが、ハード・ロックさながらのメリハリのついた展開の中に表わされていく。あくまでキャッチーな味わいを残したプロダクションも良い。
04JUST LET GO
みずみずしいギターのアルペジオと煌びやかなピアノの音色によって紡ぎ出されるラヴ・バラード。切実で無垢な恋心を綴った、いつになく優しげなヴォーカルが印象深い。ドラマティックな曲構成も感動を誘う仕上がりだ。
05ON TOP
ようやく成功を手に入れたのに恋人は去ってしまった、そんな状況を嘆いた感傷的なロック・ナンバー。「オン・ザ・トップ」と連発するバック・ヴォーカルが寂しげに響き、主人公の虚しい心境を助長しているかのようだ。
06WAITING
自分だけが周囲に取り残されていくような気がするという焦燥感を歌ったシリアスな一曲。自分から行動を起こせずに結局は逃げ道を探してしまうという主人公の想いが共感を呼びそうだ。彼の焦りを促すかのような激しいバンド・サウンドにも魅了される。
07SIC SEMPER TYRANNIS
鋭くノイジーなエレキ・ギターが細かなリズムを刻む痛快なパンク・ナンバー。航海中の船が沈み出すという悲惨な状況を題材にしたナンバーで、高揚感にあふれたヴォーカル自体がシニカルだが、ところどころにちりばめられた言葉も皮肉いっぱいだ。
08RELEASE ME
デイヴ・エルキンスのファルセットを使ったヴォーカルが美しく響きわたるミディアム・ナンバー。ポップでドラマティックな曲調のなかで、「僕を解き放ってくれ」と嘆願するメッセージが異様に際立っている。スティール風のギターもその世界観にぴったりだ。
09TELESCOPES
ザック・ギャーリングの壮絶なギター・プレイが炸裂する迫力満点のロック・ナンバー。重低音を効かせたベースとタイトなドラミングとの絡みが抜群で、「すべてが消え去っていく」という終末的な世界観を巧みに表現している。
10ROCKET
高速ドラムに見られるハードコアの要素とドラマティックな展開を見せるギター・ロック・バラードの要素が掛け合わされたナンバー。複雑な曲展開を見事にポップなサウンドに仕立て上げた、彼らの実力に感服してしまう。
11HOME
“どこに行ったらいいかなんて誰にもわからない”というメッセージを内省的に紡ぎあげるヴォーカルが印象的。静かな曲調で進行する前半とダイナミックな演奏が味わえる中盤以降という、それぞれ違った味わいが楽しめる。
12REFLECTIONS
彼らには珍しいしっとりとしたスロー・ナンバー。別れてしまった恋人への想いをゆっくりと悲しげに綴るヴォーカルを中心に、とげとげしいドラミングや泣き叫ぶようなギター・サウンドなど、感傷的な世界観が築かれている。
13NOVOCAINE
アルバム『シンギュラリティ』収録の日本盤ボーナス・トラック。ゆったりとしたドラミングや明るくシンプルなギター・サウンドなど、息の抜けたプレイが楽しめる。ポール・マッカートニー風のヴォーカルも面白い。彼らの別の一面が垣間見られるナンバーだ。