ミニ・レビュー
ドラムスの残響音に“時代”が出ているのは、86年の録音である以上いたし方のないところ。黒人音楽的な歌い回しを英国人なりのやり方で自家薬籠化した、ヴォーカルの“深さ”をこそ今なら聴き込むべきだろう。ユッスー参加の(9)が古びてないのはさすが。
ガイドコメント
初の全米No.1ヒット「スレッジハンマー」を含み、ピーター・ガブリエルの人気を世界的なものにした86年のアルバム。紙ジャケット+デジタル・リマスターで復刻。
収録曲
01RED RAIN
86年にリリースされた5枚目のソロ・アルバム『SO』のリード曲。ガブリエルいわく、人間が本来持っている抑制された感情のことを表現したとのこと。細分化された強烈な音の洪水をバックに、赤い雨が降ってくると歌っている。
02SLEDGEHAMMER
尺八のイントロが印象的な、86年全米1位に輝いた最大のヒット曲。君の大ハンマーになりたいというセクシュアルな比喩の歌詞に強靭なリズムが弾むソウル・ミュージック風ナンバー。凝った映像のPVも話題になった。
03DON'T GIVE UP
「あきらめないで、あなたは大丈夫」という励ましの言葉を、ケイト・ブッシュとの息の合ったデュエットで届けてくれる美しいバラード。リチャード・ティーのアタックの効いたゴスペル風のピアノがサウンドに彩りを添えている。
04THAT VOICE AGAIN
タイトなリズムにギターのカッティングやサンプリングされたきらびやかな音色が重なる、スピード感あふれるナンバー。神の声をイメージした「君と親しくなりたいけど、あの声がまた聞えてくるんだ……」という詞に惹かれるラブ・ソング。
05MERCY STREET
米国の女性劇作家アン・セクストンに影響されて書いた曲。パーカッションのシーケンスとメロディアスなベースにのせて、憐れみを求める娘が“慈悲深い街”を夢見る様子を描いた、舞台劇を思わせるスケールの大きさと秀麗さを兼ね備えたナンバー。
06BIG TIME
大きな成功を夢見る金の亡者を皮肉ったナンバー。ポリスのスチュワート・コープランドのドラムをはじめ、女性コーラスやホーン・セクションなども加わり、力強いグルーヴを持ったファンキーなサウンドを作り出している。
07WE DO WHAT WE'RE TOLD
「人は制服を信じ尊ぶ」というテーマを研究したスタンリー・マイルグラム博士のために書いた曲。美しいシンセやコーラス、ギターなど重厚な音のコラージュにのせて、自問するように「僕らは言われたままする」というフレーズを繰り返す。
08THIS IS THE PICTURE
ローリー・アンダーソンとの共作で、ナイル・ロジャースらNYの先鋭的音楽家が参加。リズムを強調した曲で、ガブリエルが音楽を担当した映画『バーディ』の映像を彷彿とさせるような「この光景……彼らに注意しろ」という鮮烈な詞が響く。
09IN YOUR EYES
アフリカン・テイストのサウンドと詞をイメージした壮大な曲。「あなたの瞳に映る完璧な人になりたい」と、雄大なアフリカン・リズムにのって朗々と歌われている。ゲストのユッスー・ンドゥールが素晴らしい歌声を披露する終盤は聴きどころ。