ミニ・レビュー
元スーパーカーのナカコーが始めたソロ・プロジェクトの1作目は、エレクトロ、ダンス、気だるい電子音、テクノ・ポップ的アプローチまで、マニアックでいながらつねにポップな彼の資質を素直に反映した電子音絵巻になった。宇川直宏とコラボしたDVD付き限定盤がお得。
ガイドコメント
スーパーカー解散後、ナカコーのソロ・プロジェクト、iLLが始動。ソロ第1弾となる今作は、あえて歌を排除したエレクトロニック・ミュージックを展開した意欲作だ。
収録曲
[Disc 1]
01Soundrug
遠くでかすかに鳴るシンセサイザーの上を、エレクトリックな音の粒子が自由奔放に跳ね回る。コードもリズムも存在しない、「音楽」というよりは「音」そのものが脳内を駆け巡る感じだ。まさに「Soundrug」といえるナンバー。
02I LOVE YOU
ポップなエレクトロニカ調の序盤に始まり、ブレイクビーツ風のドラム・ラインやレゲエのような裏打ちが、突然現れては消えていく。曲自体が分裂症を患ったかのような、スペイシーで不穏なサウンドスケープ。
03Thunderbolt Joe
アルバム『Sound by iLL』冒頭の2曲とは一変、計算されたマシン・ビートとシンセが織りなすアッパーなテクノ・トラック。ビート感を前面に押し出した前半部分から、ダビーでダウン・テンポな中盤へと流れる構成がユニークだ。
04ATOM
インダストリアルな金属音が耳を割くハードな冒頭から、エレクトロニカ調のフレーズへと移行。そこへ突如現れるヨーデルやエレキ・ギターのリフ、笑い声のサンプリング。曲という宇宙に秘められた、輪廻転生のような音像の数々が展開されていく。
05Hal program
宇宙空間を漂っていると、チャーミングな人工知能が語りかけてくる……といったサウンド。やはりこのタイトルは『2001年宇宙の旅』がモチーフになっているのだろうか? 音の粒子が静かで美しい、スペイシーなエレクトロニック・ミュージック。
06Child Crash!!!
鉄琴や鐘の音を思わせる金属的な音階がノンビートで奔放に鳴らされる、無機質なフォークトロニカ調ナンバー。後半部分は、ビートとともにノイジーなヴォイス・サンプリングが施されており、曲のサイケデリアに磨きをかけている。
07Metal on Metal
タイトルが表わすとおり、メタリックで硬質なビート感が前面に出たテクノ・トラック。変則8ビートに不穏なエフェクトが乗る前半部分と、ハードなマシン・ビートとディレイなサウンドの後半部分との2部構成になっている。
08Holy spirit
緩やかに祈るように鳴らされる教会の鐘の音。エレクトロニックなエフェクトとパイプオルガンを思わせるゴスペルのようなシンセが意外にも好相性で、敬虔な気分にさせられる、聖なるエレクトロニカ・ミュージックといえる。
09Flying Sausor
「ladies and gentlemen,this is the flying saucer」という、演説調のヴォイス・サンプリングがユニークなテクノ・トラック。等間隔に整った低音ビートが腰に響く、ミニマルなディスコ・テクノ・チューン。
10Summer festival'97
ディレイでくぐもった単弦ギターがシタールのように響くサイケデリック調のナンバー。民族楽器のようなオーガニックなビートやテクノ・ポップ風のエフェクトなど、次々と表情を変えていく曲調が摩訶不思議で楽しい。
11Time paradox
不穏に響きわたる柱時計の音。ビートレスの歪んだ電子音の数々。まるで異世界から聴こえてくるかのような、ダークで神秘的な音像が現れる。ダリが描く時計の絵を想起させる「うねり」のあるエレクトロニカ・ミュージックだ。
12Last sunset
何もない暗闇に音がにじんでいくようなダークでサイケデリックな前半と、そこへ突如光が射すように鳴らされるメロディックな後半。すべては繋がり繰り返す、朝と夜のように。という、無常さえ感じさせるドラマティックなエレクトロニカ・ナンバー。
[Disc 2]〈DVD〉RAPiLLED i MOVEMENT#1