ミニ・レビュー
ジェイムス・テイラーの名盤2枚をカップリングし1枚の価格で、というスーパー・ツインズ2CDシリーズ。初心者向けの企画であり、シンガー・ソングライター時代を彩った内容に変わりはないのだが、解説が何もついていないのは大問題。
収録曲
[Disc 1]〈スウィート・ベイビー・ジェイムス〉
01SWEET BABY JAMES
「おやすみなさい、可愛いジェイムス」という子守歌的な詞がキュートな、1970年リリースの2ndアルバムのタイトル・チューン。ワルツのリズムにのってスティール・ギターの音色がやさしく響くカントリー・ソングだ。
02LO AND HEHOLD
低音を強調したアコースティック・ギターの伴奏で、イエス・キリストについて歌うゴスペル調のナンバー。力強いギターのカッティングや絶妙なフィンガリング、息の合ったコーラスが聴ける。
03SUNNY SKIES
ジェイムス・テイラーが60年代後半ロンドンに住んでいた頃に書いた曲。「明るい空は朝に眠り、夕方に泣く……」と、スウィング感あふれるリズム・ギターをバックにメロディアスに歌うナンバー。
04STEAMROLLER
ルーズなバンド演奏に南部風ブラスが加わった、ヘヴィなR&Bナンバー。「俺は蒸気ローラーさ、甘いロックンロールをおまえにぶちこむぜ」というユニークな詞をブルージィに歌う。のちにエルヴィス・プレスリーがカヴァーし話題になった。
05COUNTRY ROAD
「気の向くまま、足の向くまま、どこまでも歩いて行くさ」と自由と放浪をテーマにした曲。饒舌なギターに始まり、ピアノやドラム、ベースの音がずっしりと重なり合ってくるカントリー・ロック。ちなみにジョン・デンバーの同名曲とは異なります。
06OH,SUSANNAH
19世紀米国で活躍した作曲家フォスターの有名曲をカヴァー。「スザンナ泣かないで、アラバマからバンジョーを手に旅している」と、アコースティック・ギターで弾むリズムのラグタイム風弾き語りで歌われている。
07FIRE AND RAIN
60年代のラヴ&ピースなど、激動の時代をやり過ごした当時の若者の挫折感を癒した1970年の大ヒット曲。ウッド・ベースの弓弾きや力強いドラムらをバックに、「炎や雨の中を通り抜けて来た 君とまた会いたい」と自らの体験をもとに歌っている。
08BROSSOM
アコースティック・ギターとピアノの音色が美しく絡み合うナンバー。「花が微笑み、孤独だった僕の凍っていた夢を溶かす」と美しいメロディ・ラインにのせて穏やかな歌声が響く。一緒に口ずさみたくなるような可憐な曲。
09ANYWHERE LIKE HEAVEN
スティール・ギターの名手レッド・ローズのプレイをフィーチャーしたカントリー・ロック調のナンバー。間奏のフィドルやピアノの演奏も味わい深く、ピースフルなサウンドは70年代初頭の細野晴臣や小坂忠らにも影響を与えた。
10OH BABY,DON'T YOU LOOSE YOUR LIP ON ME
ジェイムス・テイラーと盟友ダニー・クーチとの2本のギターが絶妙に絡み合う、即興的な小品ブルース・ナンバー。普段の穏やかで抑制を効かせた歌い方とは異なり、ブルースマンを意識したワイルドな唱法を聴くことができる。
11SUITE FOR 20G
前半はバーズ風の美しいコーラスとしっとりとしたサウンドで進行していくが、後半は一転してエッジの効いたエレキ・ギターやブラスが炸裂。ハードなロックンロールへと変貌する組曲風なナンバーだ。
[Disc 2]〈マッド・スライド・スリム〉
01LOVE HAS BROUGHT ME AROUND
1971年にリリースされたアルバム『マッド・スライド・スリム』のリード曲。カントリー・ロック調に控えめなホーンが加わった演奏をバックに「君の悲しみを僕に押しつけないでくれ。愛が僕を元気にしてくれた」と歌っている。
02YOU'VE GOT A FRIEND
キャロル・キングの名曲のカヴァーで、1971年に全米1位に輝いた曲。「君が落ち込んでいても、僕の名を呼べばすぐに行くよ、友だちだからね」と純粋な友情を高らかに歌ったギター・ナンバー。ジョニ・ミッチェルがコーラスで参加。
03PLACES IN MY PAST
ジェイムス・テイラー自身のピアノ弾き語りで、過去に愛した恋人や孤独な旅などの思い出をそっと懐かしむスロー・ナンバー。バックのアコーディオンの響きが、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
04RIDING ON A RAILROAD
鉄道に乗っては誰かの歌を口ずさみながら、来る日も来る日も町から町へと渡り歩いて行く“流れ者”をテーマにしたナンバー。バンジョーやフィドルなどのカントリー楽器をバックに、ナイーヴなヴォーカルが響く。
05SOLDIERS
20人いた兵士のうち9人が11の悲しい物語を持って帰ってきたと歌われる反戦歌。美しいアコースティック・ギターとキャロル・キングのピアノがしんみりと絡む。アイルランド民謡を思わせるメロディ・ラインが印象的な小品。
06MUD SLIDE SLIM
「時の流れに身をまかせながら、金を稼いで小屋を建てて暮したい」と自らの夢を歌った、1971年に発表されたアルバムのタイトル・ナンバー。曲終盤ではジェイムス・テイラーが珍しくアコースティック・ギターでソロを披露している。
07HEY MISTER, THAT'S ME UPON THE JUKEBOX
「ジュークボックスから流れている悲しい曲は僕が歌っているんです」と静かに語りかけるように歌われるナンバー。歌手デビューを果たしたが、音楽ビジネスと個人の思いを歌に託すシンガー・ソングライターの葛藤をテーマにした曲。
08YOU CAN CLOSE YOUR EYES
「目を閉じて。僕はラブ・ソングも知らないしブルースも歌えないけど、この歌なら歌えるよ」とアコースティック・ギター1本で歌われる美しいメロディのナンバー。リンダ・ロンシュタットによるカヴァーでも有名。
09MACHINE GUN KELLY
音楽仲間のダニー・クーチの曲で、当時離婚問題で悩んでいた彼の心中と実在のアウトローであるマシン・ガン・ケリーの生き方を重ね合わせたバラード。ダニーとジェイムスのギターが響き合いながら「女の口車に気をつけろ」と歌われる。
10LONG AGO AND FAR AWAY
「遠い昔、若者が旅立とうとしている。愛する人のことを想いながら、見果てぬ夢を見ている」とささやくように歌われるフォーク調のナンバー。当時の恋人であったジョニ・ミッチェルが透明感あふれるコーラスで参加している。
11LET ME RIDE
バンド演奏+ホーン・セクションによる軽快なカントリー・ロック・ナンバー。息苦しい束縛から逃れ、自由を求めて旅立とうとする心境をテーマにした歌。ダニー・クーチのブルージィで乾いたギターの音色も味わい深い。
12HIGHWAY SONG
ジェイムス・テイラーの作品に多く見られる“放浪への想い”をテーマにした曲。ジェイムスとキャロル・キングの二人のピアノをメインに「ハイウェイに戻って、また旅に出るよ」と変わらぬ決意がしっとりと歌われるバラード。
13ISN'T IT NICE TO BE HOME AGAIN
過酷なコンサート・ツアー中に、なつかしい家への想いを綴った短いナンバー。自身のギター1本での弾き語りで「昨夜遅く遠く離れた場所で夢を見た。家に帰れて良かったよ」とそっとつぶやくように歌われる曲。