ミニ・レビュー
混沌とした様相を呈しながら、その実、緻密に構築された音の群れが異様に高いテンションを伴って襲い掛かってくる。だが、敷居の高さといったものは少しもなく、すんなり彼らの世界に没入できる。ハードコアもプログレも呑み込んだ勢いあふれる傑作。
ガイドコメント
あらゆるジャンルの音楽を咀嚼し、最高のグルーヴを注入しながら再構築するマーズ・ヴォルタ。本作は『アンピュテクチャー』から1年半足らずで届けられるアルバムで、またも彼らの特異な才能が浮き彫りになっている。
収録曲
01ABERINKULA
堰を切ったかのように押し寄せる重厚なリズム・セクションとオマーのひしゃげたようなギターをバックに、セドリックの甲高いヴォーカルが咆哮する。そこにサックスが絡んで繰り広げられる、狂躁的かつ緻密に築かれたヘヴィ・ナンバー。
02METATRON
ユダヤ教の天使の一人をタイトルに戴いた曲。裏声を多用するセドリックのヴォーカルをスピーディかつカオティックなサウンドが強烈にバック・アップ。ハードコアとプログレをミックスした、マーズ・ヴォルタならではのナンバー。
03ILYENA
前半から中盤にかけてはオマーとジョン・フルシアンテのギター・テクニックが存分に味わえるメロディアスな曲調だが、後半は一転してマーズ・ヴォルタらしい混沌とした世界が展開される。セドリックのセクシーな歌唱も聴きもの。
04WAX SIMULACRA
いい意味での変態っぷりにさらなる磨きが掛かったセドリックのヴォーカルが縦横無尽に宙を舞う。それを煽るかのようにヘヴィなサウンドがアグレッシヴに襲い掛かる。後奏のフリーキーなサックスにダメ押しされるナンバー。
05GOLIATH
キーボードやパーカッション、ギター、そしてヴォーカルが幾重にもなって一気呵成に畳み掛けてくる。周到に計算された構成が、キング・クリムゾンあたりの70年代ヘヴィ・プログレッシヴを彷彿とさせるナンバーだ。
06TOURNIQUET MAN
タイトルを直訳すれば“止血帯男”となるが、そこに深遠な意味が果たして隠されているのか。メランコリックな雰囲気を醸すメロディとサウンドにホッとしたのも束の間、最後はやはりカオティックな様相を呈す2分半強の小品。
07CAVALETTAS
新たに加わったトーマス・プリジェンの力強く的確なドラムが躍動し、オマーとジョン・フルシアンテのギターが競い合うようにフレーズを弾きまくる。自由自在にテンポを変えながら、10分弱にわたり動から静へと移行していく大作。
08AGADEZ
時に誘惑するように、時に挑発的に、くるくると表情を変化させるセドリックのシアトリカルなヴォーカルが堪能できるナンバー。プログレ・ハード風のサウンドも凝ったアレンジながら、疾走感とダイナミズムにあふれている。
09ASKEPIOS
マーズ・ヴォルタの真骨頂を示すといえるナンバー。メロウ・プログレッシヴとでも形容すべき比較的おとなしい前半から、ギターが宙を裂き、ドラムが大地を揺るがすように轟くヘヴィな後半へと移行するさまは、音楽による二重人格といった感じだ。
10OUROBOROUS
怒涛のラッシュを繰り出す疾走感あふれるリズム・セクションとハードなリフを刻むギター、ファルセットを駆使するセドリックの歌唱がひとつになって襲いかかる。プログレ・ハードを超越し、スラッシュの領域に達している楽曲だ。
11SOOTHSAYER
人々が行き交う雑踏のSEと中近東のメロディを奏でる弦楽器のイントロだけで、妖しい世界に引きずり込まれてしまう幻惑的なナンバー。エスニックなテイストを混沌としたプログレ・サウンドの中に巧みに吸収、咀嚼させている。
12CONJUGAL BURNS
前半はブルース・ロックとプログレを掛け合わせたような感じだが、後半はオマーとジョン・フルシアンテのギターが強烈にせめぎ合う。セドリックが多彩な唱法で暴れ回る、カオティックな世界へと突き進むヘヴィ・チューン。