ミニ・レビュー
米ヒップホップ・ソウルの女王の7作目。ラファエル・サディーク、ジャム&ルイスなどなど、実に多くのプロデューサーを起用、しかもジェイ-Z、U2などと共演した話題のアルバムだ。もちろん情感豊かなヴォーカル、興味深い歌詞にも注目が集まるだろう。
ガイドコメント
ヒップホップ・ソウルの女王、メアリー・J.ブライジの7枚目のアルバム。ウィル・アイ・アム、ロドニー・ジャーキンス、ラファエル・サディークらが参加した本作、彼女が到達したヒップホップ+R&Bの完成形が楽しめる。
収録曲
01NO ONE WILL DO
アルバム『ザ・ブレイクスルー』の幕開けを担うオープニング・トラック。紆余曲折あってリリースされたアルバムのように、波乱万丈な人生を生き抜いてきた彼女の、“あなたしかいらない”という切なる願いが強い意志とともに展開されていく。
02ENOUGH CRYIN
“ダークチャイルド”ことロドニー・ジャーキンスのプロデュースによるヒップホップ・チューン。過去の虚飾さを奏でるモノトーンなピアノを、メアリーの“哀”のヴォーカルと“怒”のブルックのラップがシンクロし払拭していく、決意表明的な曲。
03ABOUT YOU
故ニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」をサンプリング。亡き父と共演したナタリー・コール「アンフォゲッタブル」的アプローチをヒップホップ・テイストでこなしたアイディアが斬新。ビョンと鳴るシンセ・ベースが異なる空間を結ぶよう。
04BE WITHOUT YOU
アルバム『ザ・ブレイクスルー』の軸をなす、ブライアン・マイケル・コックスがプロデュースの先行シングル。愛する者同士でも苦難を乗り越えなければならないと諭す強いメッセージ・ソング。自らに言い聞かせるような“YES”のフレーズがリアル。
05GONNA BREAKTHROUGH
アルバム・タイトル曲ともいえる、メアリーの充実感漲るアッパー・チューン。R&B/ヒップホップ・マナーに即したキラー・フレーズをふんだんに盛り込み、“躍進(=ブレイクスルー)して気分がいいところへ連れて行く”と高らかに宣言。
06GOOD WOMAN DOWN
“常にグッド・ウーマンでありつづけているのよ”と緊迫した切り口で迫るシリアス・ヒップホップ・チューン。やるべきことを貫き築き上げてきた自信が、心に楔を打ち込むようなハード・ドライヴなビートで展開していく。
07TAKE ME AS I AM
ロニー・リストン・スミス「ア・ガーデン・オブ・ピース」をサンプリングした、インフィニティーのプロデュースによるミディアム・スロー・トラック。ゆったりした流れに控えめなヴォーカルが熱情を帯びるさまは、リアルな彼女が次第に投影されていくよう。
08BAGGAGE
ジャム&ルイスによるプロダクション・センスが光る、お得意のスタンダードなヒップホップ・ソウル。それほど派手さはないミディアム・チューンだが、エッジを効かせたメリハリあるリズム&ベース・ラインで楽曲をしっかり切り立たせている。
09CAN'T HIDE FROM LUV
『ザ・ブレイクスルー』のなかで、必ずやクローズ・アップされるだろうジェイ-Zとの共演曲。ウィリー・ハッチ「アイ・ワナ・ビー・ホエア・ユー・アー」のモータウン・サウンドをバックに、2人が情熱的な絡みを演じるホットなナンバー。
10MJB DA MVP
宣言というより強烈な通告のメッセージ・ソング。ザ・ゲーム「ヘイト・イット・オア・ラヴ・イット」をモチーフに、メアリー仕様に彩ったクラブ・ヒップホップ。中盤に自身の初期ヒット曲フレーズを盛り込んだ、ファンには感涙もののトラック。
11CAN'T GET ENOUGH
ジャム&ルイスのプロデュースによるミディアム・スロー・チューンは、悦びと愛を与えてやまない存在に、惜しげもない充足感を表現したプロポーズ・ナンバー。心へたおやかに注がれる愛の滴が満ちた、美しくも強さを持った楽曲だ。
12AIN'T REALLY LOVE
ブライアン・マイケル・コックスが手掛けた、焦燥感を垣間見せるようなストリングスのリフが印象的なシリアスなバラード・チューン。“束縛される愛は愛じゃない”と男に愛想を尽かした女の、強い決意がうかがえる。
13I FOUND MY EVERYTHING
イントロからオールドスクール・フレイヴァーで敷き詰められた、ラファエル・サディークがプロデュースの濃厚なソウルフル・チューン。旧き良き時代の佇まいに、物怖じすることなくリリックを乗せていくメアリーの純真さが秀逸。
14FATHER IN YOU
ゆったりとしたスウィート・メロウなメロディを携えてはいるが、リリックは“父親の愛情がない私にはあなたの父性が必要”と哀訴する、実に悲嘆さ籠もるスロー・バラード。美しいストリングスがいっそう切なさを増す。
15ALONE
ニューカマーのデイヴ・ヤングをフィーチャーした、R&B/ソウル・マナーに則ったミディアム・スロー・チューン。デイヴ・ヤングの心の琴線を刺激する情感あるヴォーカルに寄り添うメアリーが何ともいえず、涙が滲みそうだ。
16ONE
アルバム『ザ・ブレイクスルー』での最大のトピックスは、ジェイ-Zとのコラボと、U2のオリジナル曲を本人らと共演したこの曲だろう。“ワン”という普遍的かつ永遠なる命題を、ボノとコンシャスに歌い上げている。
17SO LADY
ラファエル・サディークのプロデュースによるスウィート・メロウ・チューン。当たりの柔らかいコーラスやエレピの面持ちに、ゆるりと体を預けるような感覚が秀逸。スクラッチを刻み入れ、単なる懐古趣味的ソウルに留まってないのは流石だ。
18SHOW LOVE
P・ディディ(ショーン“パフィ”コムズ)の片腕として活躍した、カール“チャッキー”トンプソンのプロデュース作。アリシア・キーズのダンス・トラックを想起させるアグレッシヴなビートでリードする、エッジの効いたダンサブル・チューン。
19OUT MY HEAD
アルバム『ザ・ブレイクスルー』の日本盤のみのボーナス・トラック。エイメリーのコンポーザーとして名を馳せるリッチ・ハリソンによるプロデュースで、ストレートなR&B/ヒップホップ・マナーによってソウルな情感を引き出すダンス・チューン。