ガイドコメント
社会不安に揺れていた1960年代初頭のアメリカを歌ったボブ・ディラン初期の傑作。「風に吹かれて」「戦争の親玉」などが収録された、この2ndアルバムで、ディランは一躍プロテスト・シンガーとして知られるようになった。
収録曲
01BLOWIN' IN THE WIND
社会に対するさまざまな問いかけに対し、「答えは吹いている風のなか」という歌詞で、世界が激動した60年代の空気を代弁したメッセージ・ソング。ボブ・ディランの名を一躍広めた名曲で、さまざまな歌手がカヴァーしている。
02GIRL FROM THE NORTH COUNTRY
のちにS&Gが採り上げた英国古謡「スカボロー・フェア」を下敷きにディランが書いた曲。北国に住むかつての恋人に想いを馳せるバラード。若きディランの瑞々しい歌声が聴ける。のちに『ナッシュヴィル・スカイライン』でジョニー・キャッシュとデュエットする。
03MASTERS OF WAR
アパラチア民謡のメロディを借りたプロテスト・ソング。戦争の親玉=死の商人を辛辣な言葉で告発している。大御所ピート・シーガーがいち早くカヴァーしたこともあって、ディランの知名度が一気に高まり、プロテスト・シンガーと呼ばれるきっかけとなった。
04DOWN THE HIGHWAY
古い黒人ブルースのスタイルを踏襲したオリジナル曲。当時、イタリアに留学してしまった恋人スーズ・ロトロについて歌ったといわれている失恋歌。“歌う”というよりも“語る”に近いヴォーカル・スタイルが見事にハマり、アコギのピッキングも光る。
05BOB DYLAN'S BLUES
敬愛するウディ・ガスリー譲りのトーキング・ブルース・スタイルで、頭に浮かんだ言葉を即興的に歌っている。放り投げるような歌い方がディランらしい。どうでもいいような歌詞だが、これがその瞬間の彼のモード。ジャズのインプロヴィゼーションに近いものがある。
06A HARD RAIN'S A-GONNA FALL
核戦争の恐怖がこの世界を覆っていたキューバ危機の最中に書かれた秀逸なバラード。“プロテスト・ソング”という狭い枠組みから逸脱した詩的な世界が展開されている。意味性を超えた言葉の洪水を、絶望的なまでに悲しく歌ってみせるディランが素晴らしい。
07DON'T THINK TWICE, IT'S ALL RIGHT
60年代前半のフォーク時代のディランを代表する曲のひとつ。フィンガー・ピッキング奏法による生ギターの弾き語りで、当時の恋人スージー・ロトロとの別離が歌われる。1992年のディラン30周年記念コンサートではエリック・クラプトンがカヴァー。
08BOB DYLAN'S DREAM
英国古謡のメロディを借りたバラード。西へ向かう列車の中で見た夢について歌っている。かつて愉快な時を共にした友人たちとの思い出を歌う若きディランのヴォーカルには、妙に老成した響きがある。時空を超えた彼のソング・ライティングの実験のひとつ。
09OXFORD TOWN
バンジョーの代わりにアコギを使ったディラン流のカントリー・バラード。ミシシッピ州オックスフォード市にあるミシシッピ大学に入学しようとした黒人学生を追い出そうとする南部の人種差別主義者の白人たちを皮肉っている。とぼけたような歌い方も彼らしい。
10TALKIN' WORLD WAR 3 BLUES
ウディ・ガスリー譲りのトーキング・ブルースのスタイルで、核戦争の恐怖をユーモラスに表現した曲。精神分析医の診察室を舞台にした発想も秀逸だが、語られる昨夜の夢の細部も面白く、オチも傑作。最後の警句と「それは俺が言った」もトドメの一撃。
11CORRINA, CORRINA
弾き語りが基本の初期には珍しく、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスが伴奏しているブルース・スタンダードのカヴァー。ディラン流のアレンジによる抒情的なバラードに仕上げられているが、本人によれば「原曲を聴いたことがないから、こうなった」そうな。
12HONEY, JUST ALLOW ME ONE MORE CHANCE
ヘンリー“ラグタイム・テキサス”トマスの古いブルース曲を下敷きにした曲。マウスハープをフィーチャーしたアコギの弾き語りで歌われるこのヴァージョンには原曲の面影はなく、ディラン流に大胆に改変されている。未練がましい男の熱烈なラブ・ソング。
13I SHALL BE FREE
ウディ・ガスリーのトーキング・ブルースのスタイルを踏襲した曲。ナンパの話が基本だが、女優や男優や野球選手など有名人の名前も数多く登場し、ケネディ大統領との馬鹿げた電話の会話もでっち上げている。ディランならではの即興的な閃きが聴きもの。