ミニ・レビュー
前作では“やり手”のプロデューサー、トレバー・ホーンとタッグを組み我々を驚かせた彼ら。ロスのスタジオにて数ヵ月をかけて作られた本作は、もはや貫禄すら感じられる佇まい。緻密なアレンジなどポップ・ミュージックの理想型とも言える名盤だ。
ガイドコメント
“ベルセバ”の名で親しまれるスコットランド出身ポップ・バンドの2006年発表のフル・アルバム。デビュー10周年の節目となる本作は、暗めのムードや独自の詞世界など、彼らの原点的魅力に回帰するような仕上がり。
収録曲
01ACT OF THE APOSTLE
アルバム『ライフ・パースート』のオープニングは、あふれんばかりの瑞々しさを放つハーモニー・ポップ。夢心地のサウンドに忍び寄る緊張感。現実逃避一歩手前、という少女のギリギリの精神状態を絶妙のバランス感覚で描いている。
02ANOTHER SUNNY DAY
フラワー・ムーヴメントを彷彿とさせる、60'sテイストあふれるストレートなフォーク・ナンバー。ほどよい疾走感に乗せて綴られるのは“君”との日々。その追憶の果てに待っていたのは、その愛が「嘘だった」という残酷な真実だ。
03WHITE COLLAR BOY
主人公はホワイトカラー・ボーイ、つまり中流階級の男の子。ステイタス・クォーを彷彿とさせるゴキゲンなロックン・ロールに乗せて、クソまじめな彼の煮え切らない恋愛を描く。皮肉とユーモアたっぷりの、いかにも英国らしいナンバーだ。
04THE BLUES ARE STILL BLUE
ギラギラしたイントロがT.レックスを彷彿とさせる、グラム・テイストのロック・ナンバー。繊細な室内楽集団がこんな骨太ロックとは、驚きの新境地。洗濯物の色に階級社会を重ねたと思しき、陽気な労働者賛歌といったところだ。
05DRESS UP IN YOU
暗闇の中で微かに揺れる、ロウソクのやわらかな灯。そんな繊細さと温もりをたたえた穏やかなフォーク・チューン。嫉妬に苦しむ人間の醜い姿を可憐なハーモニーで紡ぎ上げていく、これぞ美しき狂気のベルセバ・ワールドだ。
06SUKIE IN THE GRAVEYARD
ホントは孤独なスーキー。家出して、とうとう娼婦になった……。スーキーのことが大好きな青年の視点で綴る、彼女の輝けるろくでもない人生。その天真爛漫な生き様を映す、モータウン・ポップス風のゴキゲンなナンバーだ。
07WE ARE THE SLEEPYHEADS
2ステップ・ビートの中を音という音が蝶のごとく舞う、最高に軽やかなポップ・チューン。寝不足で多少クラクラしたって、僕たちは何か新しい感動を探すのに夢中。そんな若さゆえのエネルギーがきらめく、胸キュン青春グラフィティ。
08SONG FOR SUNSHINE
降り注ぐ陽光の中でのまどろみのひととき……。そんな気だるさをたたえたスローなファンク・チューン。瑞々しいハーモニーと辛辣なリリックというベルセバらしさはそのままに、ヒップなサウンド・アプローチを成功させ、新境地を切り拓いた楽曲だ。
09FUNNY LITTLE FROG
偶像に一方的に恋する男の子を、間の抜けた味わい深いヴォーカルで描く。レトロな質感をたたえたブリティッシュ・ビート風のポップ・チューンだが、そのアンサンブルの瑞々しさと密度の濃さは、まぎれもないベルセバ・ワールドだ。
10TO BE MYSELF COMPLETELY
夢か、恋人か? 人生って、二者択一。そんなジレンマ真っ只中の男の子を描いた瑞々しいポップ・チューン。可憐な音たちを緻密に配し、素朴で温もり豊かなバンド・アンサンブルに。音の寄木細工といえるような、美しい作品だ。
11ACT OF THE APOSTLE 2
「使徒行伝 第1章」に続き、今度はある少年の学校からの逃亡劇が粋なブルースで綴られる。そして絶妙の間を縫って、“第一章”の少女の夢見心地な独り言へと回帰。このコンセプトはアルバム『ライフ・パースート』全体を通して味わいたい。
12FOR THE PRICE OF A CUP OF TEA
ベルセバ特製、グラム・ロックの“紅茶”割りはいかが? T.レックスの強力なグルーヴからギラギラ感を削いで、替わりに可憐なハーモニーをたっぷり注ぎました……なんてキャッチを付けたくなる、とってもキュートなポップ・チューン。
13MORNINGTON CRESCENT
タイトルは、ロンドン地下鉄の駅名かつ英国でポピュラーなゲームの名称。モーニング・クレセントでの日々に人生という“ゲーム”を描き込んだリリックに英国人らしい機知が利いた、ノスタルジックなスロー・バラード。