ミニ・レビュー
リンキン・パークでMCを務めるマイク・シノダが立ち上げたヒップホップ・ユニットの初アルバム。コモン、ザ・ルーツのブラック・ソートら豪華ゲスト陣を巧みにフィーチャリングしてヒップホップ王道を行くが、エモーショナルなメロディへのこだわりにリンキン魂が光っている。
ガイドコメント
世界制覇を果たしたロック・バンド、リンキン・パークのMC、マイク・シノダが豪華ゲストを迎えて作り上げたユニット、フォート・マイナーが世に問う、野心的なヒップ・ホップ・アルバム。
収録曲
01INTRODUCTION
アルバム『ザ・ライジング・タイド』のオープニング・トラック。まさに始まりを予感させる緊張感のある音がアルバムへの期待感を盛り上げる。ラスト5秒のスピーチは、フォート・マイナーに懸ける意気込みを表わした声明だ。
02REMEMBER THE NAME
LAのSTYLES OF BEYONDの2人を迎えマイクをぶつけ合った、アルバム『ザ・ライジング・タイド』のオープニング曲。ストリングスのダイナミックの上で自分たちのアティテュードを強烈に示している。
03RIGHT NOW
米国のナショナリズムに疑問を投げかける社会派的な詞は、因習を打破することをテーマにした映画『ショート・カッツ』にインスパイアされて制作。ザ・ルーツのブラック・ソートをフィーチャーし、シリアスなラップを披露している。
04PETRIFIED
リンキンでのコンピューターの緻密な音作りから一変、自身で楽器を弾き全パートを作り上げたというオーガニックな作品。ラフなビートとメッセージ色の強いライムには、オールドスクールへの敬愛がうかがえる。
05FEEL LIKE HOME
LAのSTYLES OF BEYONDをフィーチャーした一曲。3つのヴァースを個性あるライミングでマイク・リレー。トラックにはマイクによるトリッキーなスクラッチも盛り込まれており、幅広い才能が発揮されている。
06WHERE'D YOU GO
フェアリーな歌声をもつ女性シンガー、ホリー・ブルックをサビ部分に起用したバラード風の楽曲。愛する人がどこかに行ってしまったときの感情の動きを描く繊細なリリックは、リンキンでは見られない一面だ。
07IN STEREO
リンキン・パークではコラボ作品も作ったジェイZ(この作品ではプロデュースを務めている)との会話で幕を開けるユニークな曲。8ビートのシンプルなトラックで、どっしりしたラップをじっくり聴かせてくれる。
08BACK HOME
マイクがずっとファンだったというコモンと盟友STYLES OF BEYONDを迎え、各自の地元の深刻な現状を吐露した一曲。コモンのソウルフルなラップを生かしたメロウなトラックなど、互いの得意分野を引き出している。
09CIGARETTES
危険な表現をしないクールなライム・スタイルをする彼が、ギャングスタに傾倒した表現にトライ。攻撃性のあるリリックだが、Fワードは使わないでアプローチするクレバーさや遊び心のある韻の踏み方は、さすがのセンスだ。
10BELIEVE ME
プロジェクト初のシングルは、ラテン系のパーカッションなど生楽曲で構成される耳あたりの良いリズムが印象的。ソウルフルな歌部分とコアなラップ部分を盟友STYLES OF BEYONDとともに鮮やかに披露。
11GET ME GONE
リンキンでの自分の存在価値を、メディアに中傷された出来事に対する真相を描いた一曲。批判の対象となったキーボードのスキルを、皮肉にも全面に出したピアノ・トラックは、詞の内容とともに興味を引かれる。
12HIGH ROAD
ヴォーカル・パートにR&Bシンガーのジョン・レジェンドを起用したメロディックな曲。“信じる道を突き進む”と畳み掛ける強い意思が溢れたラップと感情豊かなジョンの声からは、大きなメッセージが感じられる。
13KENJI
真珠湾攻撃後の日系人の強制収容の歴史的事実を、日系移民であるマイクの父の実体験を通して暴露。息を飲む壮絶な話で問題意識を喚起させると同時に、自身のラッパーとしてのルーツを世に示した注目の作品だ。
14RED TO BLACK
ケンナとジョナ・マトランガの2人のヴォーカリストが、シリアスな詞のコーラス部分をデュエット。リンキンの音づくりにも似たソリッドなトラックと声質が異なる2人の歌が、意外にもよく合ったアイディアフルな一曲。
15THE BATTLE
観客の歓声のサンプリング上でプロデューサー兼ラッパーのセルフ・タイトルドがフリーキーなラップを披露。MCバトルさながらの臨場感あふれるトラックにのせ、世のラッパーに真のスピリットを宣言した一曲。
16SLIP OUT THE BACK
ゲストのジョー・ハーンと繰り広げる丁寧なラップが、前向きな詞に説得力を持たせたスローなナンバー。ピアノとストリングスの寂しげなトラックが、余韻たっぷりにアルバム『ザ・ライジング・タイド』のラストを締めくくっている。