ガイドコメント
7年ぶりのオリジナル・アルバムは、あのモンスター・ヒット『ボーン・イン・ザ・USA』以来、実に18年ぶりとなるEストリート・バンドとの録音アルバム! 中身はもちろんロックンロール満載だ。
収録曲
01LONESOME DAY
9.11以降の我々の日々についての曲。ストリングスを大胆に導入したパワフルなロック・サウンドをバックに「この孤独な日を生き延びられたら」と歌われる。過剰なまでに激烈な音の津波が聴き手を覚醒させる。この曲での“It's alright”の繰り返しはとても重い。
02INTO THE FIRE
9.11に反応して最初に書かれた曲。カントリー調のサウンドとストリングスとのコラボレーションによるスプリングスティーン流ゴスペル・ソング。命懸けで救援活動に従事した勇敢な消防士たちに向けて歌われている。繰り返しが力を生むパワフルな祈りの歌。
03WAITIN' ON A SUNNY DAY
R&B調の陽気な曲。9.11以前に書かれた曲らしいが、9.11以降の世界では「あなたに戻って来て欲しい」という歌詞の一節もヘヴィに響く。コーラス、ストリングス、サックスをフィーチャーしたサウンドは楽天的に感じられるが、唐突なエンディングの余韻は深く重い。
04NOTHING MAN
ストリングスとコーラスをバックに「僕はすべてを失ってしまった男」と歌われるメランコリックなバラード。9.11の救援活動の際に肉体に大きな障害を負ってしまった消防士の独白のようだ。最後のヴァースでの彼が自殺を考えていることを示唆する歌詞が重い。
05COUNTIN' ON A MIRACLE
ナッシュヴィル録音による秀逸なストリングスをフィーチャーした曲。9.11のテロによって愛する者を永遠に奪われてしまった人の嘆きや祈りが歌われている。「奇跡を当てにしている」というリフレインが胸に沁みる。この曲のポジティヴなパワーが唯一の救い。
06EMPTY SKY
アコギやピアノを配したアンプラグド調のサウンドをバックに歌われる“空っぽの空”。世界貿易センタービルが崩れ去った後の何もない空間を連想しないわけにはいかない。噛み締めるような歌い方が特徴的だが、イントロのピアノや間奏のマウスハープも印象的。
07WORLDS APART
パキスタンの宗教音楽カッワーリーの歌手アシフ・アリ・ハーンとのデュエットによる異色作。エキゾチックなメロディで「キスの中に真理を見つけよう」と歌われる。9.11をアメリカvs.イスラムの全面的対立に結びつけるべきではない、というメッセージがここにはある。
08LET'S BE FRIENDS (SKIN TO SKIN)
R&B調のコーラスをフィーチャーしたサウンドをバックに、人種、国籍、宗教などを超えて「友達になろう」と呼びかける歌。9.11の不幸な事件をチャンスだと考えて……という発想が素晴らしい。見事なコーラスが聴きものだが、アコギが奏でるリフもチャーミング。
09FURTHER ON (UP THE ROAD)
2000年のツアーでも披露された曲。パワフルなドラムスのビートから始まるマイナー・コードのロック・チューン。9.11以前に書かれた曲だが、9.11以降の感覚で聴けば、テロリストの心情を歌った曲のようにも聴こえる。エキゾティックな哀愁のメロディが印象的。
10THE FUSE
11MARY'S PLACE
ヴァン・モリスンを思わせるソウルフルなR&Bチューン。悲観と楽観が入り混じった複雑な感覚がここにはある。絶望的な状況から這い上がろうとしている者のためのパーティ・ソング。ここにいない者のための鎮魂曲でもあり、ゴスペルのような祈りの歌でもある。
12YOU'RE MISSING
キーボードをフィーチャーしたサウンドをバックに「すべてそろっている/だけど/あなたはいない」という哀しい一節が繰り返される。9.11以降の世界を象徴する曲のひとつ。家族の突然の不在に戸惑う遺族の感覚をリリカルに、しかしリアルに表現している。
13THE RISING
同時多発テロの救援活動中に殉職した消防士の魂が歌っているかのような、スプリングスティーン流ゴスペル・ソング。霊となった彼が妻に語りかける言葉が痛いほど胸に沁みる。遺族を励ますように高揚する曲調が、僕らの世界の苛酷な現実を改めて思い知らせている。
14PARADISE
ストリングスやノイズを背景にした瑞々しいアコギの音色がとても新鮮に響くバラード。自爆テロの犯人の独白に続いて、テロの犠牲者の遺族の独白が歌われる。天国で再会したいと願っていた遺族が苛酷な現世を生きる道を選択する、最後の一節が感動的。
15MY CITY OF RUINS
9.11の同時多発テロの犠牲者の遺族のための寄付を募るTV番組『アメリカ:ア・トリビュート・トゥ・ヒーローズ』でも歌われた、スプリングスティーン流ゴスペル・ソング。神への祈りの歌でもあるが、絶望からの復活を人びとに促すパワフルな激励の歌でもある。