ガイドコメント
T.レックスが72年に発表した名盤。マーク・ボランが自ら設立したレーベル、T.レックス・ワックス・カンパニーからの第1弾。リンゴ・スターが撮影したジャケットも有名。全米チャート4位。
収録曲
01METAL GURU
T.レックスの代表曲ともいえるミディアム・ロック・ナンバー。イントロの女性コーラス&マーク・ボランの微妙に音域を外したシャウトのクールさが、一気にリスナーを楽曲の世界へと引き込む。親しみやすく誰もが歌いたくなるようなメロディがいい。
02MYSTIC LADY
淡々と洗練された風情で進行する蟲惑のアコースティック・ナンバー。女声のように聴こえる男声コーラスや気だるいリズム、詞の奇妙な言語感覚が楽曲内で異化作用を起こし、簡素にして特異すぎる世界を確立している。
03ROCK ON
のたりのたりとした空気が漂うマーク・ボラン流のブルース。米国ツアー時の移動中に着想したとされているこの曲は、平易に思えど同じようには弾けない、相当に味のあるギター・プレイが絶妙。後引く奇妙さだ。
04THE SLIDER
アルバム『ザ・スライダー』のタイトル・トラック。スロー気味のテンポで展開される比較的地味な印象のナンバーだが、ファンの間では根強い人気を持っている。ストリングの重厚なアレンジが壮大だ。
05BABY BOOMERANG
いわゆる“ボラン・ブギー”と呼ばれるタイプのナンバー。バンド・サウンド全体でリフを転がしているような連続性が面白く、ところどころでみられるボブ・ディランを思わせる節回しにもリフのようなキャッチーさが備わっている。
06SPACEBALL RICOCHET
“レス・ポール”が登場することからも、おそらくはマーク・ボラン自身を指していると思われる男が主人公の歌。ボランがロック・スターの衣を脱ぎ、自身の弱さと向き合った内省的なアコースティック・ナンバーだ。
07BUICK MACKANE
レッド・ツェッペリンを意識した節が感じられる、メタリックなロックンロール・ナンバー。イントロでもギターとの重奏を繰り広げるチェロがあちこちでリフを繰り出し、ハード・ロックとは異なる重厚さを生み出している。
08TELEGRAM SAM
イントロのロックンロールの教科書的なギター・リフで、一気に曲の世界へと引き込んでいく。女性の視点で歌う意中の男性に対する想いを、華やかな女性コーラスをスパイスとして効かせて表現した、痛快なロックンロール・ナンバー。
09RABBIT FIGHTER
世俗の“技巧的”なる杓子定規では計測できない味を有したプレイで、ゆらめくようなギター・フレーズを官能的に響かせるメタル・ブルースだ。地響きのごときドラミング、歌メロをそのまま奏でるストリングスも最高。
10BABY STRANGE
マーク・ボランのヘンテコなカウントでスタートするブギ・ナンバー。粘っこい歌唱や耳に残るリフ、歌メロを♪ウーウウーのレベルまで律儀になぞるチェロなど、“ボラン・ブギー”の真骨頂といえる異形世界が展開されている。
11BALLROOMS OF MARS
薔薇やダイヤや火星、ディランやレノンが詞にちりばめられた詩情豊かなバラード。ここでのマーク・ボランのギターには、「実はこの人、その気になれば巧く弾けたのでは?」と思わせる瞬間があり、幻想が膨らむ。
12CHARIOT CHOOGLE
キャッチーなリフ顔負けのフックが備わったコーラスなど、独創性たっぷりのメタリック・ブギ。「胸いっぱいの愛を」を思わせるイントロやへヴィでファンキーなリズムなどに、レッド・ツェッペリンを思わせる瞬間がある。
13MAIN MAN
アルバムの最後をのんべんだらりとした曲で締めくくることが多い彼ら。この曲も例に漏れることなく、長めに演じられているアコースティック・バラード。必要以上の反復性を感じさせる曲調は、まるで呪文のよう。