ミニ・レビュー
90年代UKロック・シーンに煌煌と輝いた伝説のバンド、ザ・ヴァーヴ。2度目の解散から5年、初のコンプリート・ベスト・アルバムがリリース。再び見つめ返される圧倒的な名曲と時代背景に、静かなる衝撃を今一度与えられた。未発表曲も収録!
ガイドコメント
90年代英国ロックを語るのに欠かせない伝説のバンド、ザ・ヴァーヴ初のべスト・アルバム。未発表曲なども収録されており、リチャード・アシュクロフトがソロになってからのファンも必聴だ。
収録曲
01THIS IS MUSIC
「これこそが音楽だ」と表明した曲題と歌詞は、いずれ多くの人々が自分たちを知ることになるとの自信の表われ。醒めたり溺れたりする歌詞のドラッグ感覚は、強いディストーション・サウンドを得てより強固になっている。
02SLIDE AWAY
全英では98位だったが、全米インディ・チャート部門では首位を記録。米国での知名度上昇に貢献した。雄大な曲調の要所で伸びやかにギターが鳴りわたるこの曲は、英音楽誌の企画“ギターがグレイトな曲100選”にも選出された。
03LUCKY MAN
妄想青春映画『ガール・ネクスト・ドア』(2004年)のプロム・シーンにも使われた全英7位のナンバー。ゆったりとしたメロディに乗せ、過ぎ去った幸福といま訪れた幸福を、イノセントな筆致で活写するほろ苦い佳曲。
04HISTORY
ストリングスを使ったメロウで劇的な曲だが、別れを示唆した歌詞そのままに、発表直後に彼らは解散。歌詞の冒頭は、叙情派詩人ウィリアム・ブレイクが都市生活者の悲哀を歌った詩「ロンドン」からの影響が大。
05SHE'S A SUPERSTAR
オリジナル・アルバム未収録の2ndシングル曲。サイケデリックな要素を全面に出したもやもやとした曲調で、歌詞にもドラッグを連想させる描写が散見される。9分近くある大曲だが、シングル集では5分に短縮して収録。
06ON YOUR OWN
人生や心に開いた穴を埋めたい、埋めねばと煩悶する歌詞。その切実な想いが、アコースティック・サウンドを基調とした陰りあるサウンドと同調し、哀調も増す。音にも歌詞にもザ・スミスからの影響が鮮明だ。全英では28位を記録。
07BLUE
古式ゆかしき逆回転サウンドを使いながら、同時代ロックのダンサブルな魅力も採り入れてみせたトリッピーなナンバー。しつこいくらいにループするサイケデリック・サウンドが、さらに脳内でもリフレイン。
08SONNET
シンフォニックなアレンジを施した哀愁ギター・ロック・ナンバー。アコースティック主体の序盤からエレクトリック主体の山場へ、違和感なく滑らかに転じている。バンド2度目の解散により、これがラスト・シングルとなった。
09ALL IN THE MIND
92年3月発表のデビュー曲。マッドチェスター・ムーヴメント直系のダンサブルなリズムに、知覚の扉をノックする60年代サイケデリック・サウンドが合致。この曲にドアーズの残り香を嗅ぎ取ったファンも少なくないはずだ。
10THE DRUGS DON'T WORK
父親を喪ったリチャードが、その哀しみにはドラッグも効かないと歌うナンバー。同じ『アーバン・ヒムス』収録の「ソネット」の哀切さをさらに厚く流麗にしたような曲調は、ヴァーヴ作品屈指の完成度。全英初登場1位を記録。
11GRAVITY GRAVE
デビュー初期に発表された8分超の大曲。ときにミニマル、ときにポリリズミックにと変化するリズムが、底なしのサイケデリック・サウンドに冷え冷えとした空気を吹き込む。終盤に近づくほど増していく不穏さがたまらない。
12BITTER SWEET SYMPHONY
苦くて甘い交響曲、それが人生だと歌うナンバー。喪失と高揚を居合わせた歌世界が、分厚い交響楽的アレンジと合致。全英2位、全米12位のヒットを記録したが、メロディがローリング・ストーンズのナンバーからの引用とみなされ印税が入らなかった。
13THIS COULD BE MY MOMENT
『アーバン・ヒムス』制作時に録音されていた未発表曲は、むしろオアシスにこそ似合いそうな希望的で開放的なポップ・ナンバー。内面世界と向き合い続けたヴァーヴも、こんな明朗な一面を持っていたのかと驚かされる。
14MONTE CARLO
『アーバン・ヒムス』制作時に録音されていた未発表曲。ブリット・ポップとサイケデリック・ロックを融合させた彼ら得意の曲調だが、やや軽妙に感じられるアレンジがかえって彼ららしい、ヴァーヴ流ファンク・チューンだ。
15I SEE THE DOOR
シングル「オン・ユア・オウン」のカップリング曲。持ち前のサイケデリックな要素が薄まった分だけ濃度を増したフォーキーな要素。ゆったりと流れる曲調からも、ひと筋の光明を見い出す歌詞からも力強さが感じられる。