ミニ・レビュー
解散後2年を経ての3rd。頭をすっぽり包むストリングスの広がり、遠くで近くで鳴り響くギター……オアシスの先達はオリジナルの威厳と共に揺るぎない復活を果たした。全英1位を獲得した(5)はもちろん、全曲UK濃度200%の大作。(13)は日本盤のみのボーナス。
収録曲
01BITTER SWEET SYMPHONY
苦くて甘い交響曲、それが人生だと歌うナンバー。喪失と高揚を居合わせた歌世界が、分厚い交響楽的アレンジと合致。全英2位、全米12位のヒットを記録したが、メロディがローリング・ストーンズのナンバーからの引用とみなされ印税が入らなかった。
02SONNET
シンフォニックなアレンジを施した哀愁ギター・ロック・ナンバー。アコースティック主体の序盤からエレクトリック主体の山場へ、違和感なく滑らかに転じている。バンド2度目の解散により、これがラスト・シングルとなった。
03THE ROLLING PEOPLE
オアシスとレッド・ツェッペリンが合体したような趣のナンバー。これまでにもサイケデリックな演出を多用してきた彼らだが、ここではヘヴィなギター・リフをメインにした、いつになく古典ロック的なアプローチを展開している。
04THE DRUGS DON'T WORK
父親を喪ったリチャードが、その哀しみにはドラッグも効かないと歌うナンバー。同じ『アーバン・ヒムス』収録の「ソネット」の哀切さをさらに厚く流麗にしたような曲調は、ヴァーヴ作品屈指の完成度。全英初登場1位を記録。
05CATCHING THE BUTTERFLY
実際に見た夢に触発され書かれた白昼夢のような歌詞。その詞世界をよりおぼろげにしているのが、初期作品に通じるゆらゆらとしたサイケデリックなバック・トラック。ダブル・トラックでのヴォーカルもサイケな演出に貢献している。
06NEON WILDERNESS
ギタリストのニックが中心となって書かれた1曲。それゆえヴァーヴの主武器である歌は添え物程度の扱いで、寄せては返す波のような構成のドラッギーなトラックが主役。ここで聴ける歌は、まるで酔漢のつぶやきのようだ。
07SPACE AND TIME
『アーバン・ヒムス』で確立した、シンフォニックに飾り立てたギター・ロックの白眉となる1曲。シンプルな要素の連なりが主成分のブリット・ポップが、彼らの過度にならないアレンジ・センスにより深化している。
08WEEPING WILLOW
ブリット・ポップ系の叙情派ナンバー。歌詞は薬物に関する直接的な言及で締めくくられており、楽曲全体の叙情的なムードを後押ししているフィードバック・ギターも、楽曲全体のサイケデリックさをさらに後押ししている。
09LUCKY MAN
妄想青春映画『ガール・ネクスト・ドア』(2004年)のプロム・シーンにも使われた全英7位のナンバー。ゆったりとしたメロディに乗せ、過ぎ去った幸福といま訪れた幸福を、イノセントな筆致で活写するほろ苦い佳曲。
10ONE DAY
「ラッキー・マン」のフレーズを、より高度に弾いたようなギターで始まるメロウなナンバー。自らをマストに縛れば嵐は収まる、と歌うくだりは、とある海洋冒険家が嵐の最中に身体を固定しながら飲酒した逸話に喚起されたとのこと。
11THIS TIME
カッティング・ギターやスローなドラミングによる、ほのかにファンクな味つけが楽しめるナンバー。都市生活者のアンセム集『アーバン・ヒムス』そのままのアーバンな曲調だが、ベース・ラインには教会音楽の影響もみられる。
12VELVET MORNING
ギターもドラムスもベースも終始シンプルなプレイに徹し続けるドラマティックなナンバー。起承転結が明快な曲調ながら、山場のヴォーカルさえもどこか控えめ。U2の過度に劇的な曲を遠慮気味に演じたような趣がある。
13LORD I GUESS I'LL NEVER KNOW
トレモロやフェイジングなど、ヴァリエーション豊かなギターのエフェクト・サウンドが楽しめるナンバー。クリスマス期に録音されたせいか、楽曲全体にはしんしんとロマンティックな空気がうっすら。適度にラフなヴォーカルも魅力。
14COME ON
終盤に近づくにつれ、カルシウム含有量が増大する骨太ロック・ナンバー。とくにドラミングは入り組み力強いビートを常時叩き出しており、そのテンションに同調したようなヴォーカルもパワフル。“四文字言葉”の絶叫付き。
15DEEP FREEZE
都市の喧騒にラジオ・ノイズが絡まる冒頭から、シンセのスピリチュアルな旋律と赤ん坊の無垢な泣き声を重ねた展開へとつなぐ実験的インスト。英国盤では隠しトラック扱いなのだが、日本盤では正式楽曲として単独収録。