ガイドコメント
2006年にデビュー25周年を迎えた中森明菜の、カヴァー・アルバム“歌姫シリーズ”のベスト作品。山口百恵「いい日旅立ち」のほか、彼女のファンには懐かしく、若者世代には新鮮な1970〜80年代の名曲を多数収録する。
収録曲
01リバーサイド・ホテル (LIVE ver.)
元々は82年に発表され、後の88年にフジテレビ系ドラマ『ニューヨーク恋物語』主題歌としてリヴァイヴァル・ヒットした井上陽水の代表曲をカヴァー。2005年に行なわれたライヴ音源だが、それゆえに漂う緊張感がいっそう曲のミステリアスな雰囲気を醸し出している。
02ダンスはうまく踊れない
初めから本人の持ち歌だったのでは? と思ってしまうほど、中森明菜の色に染めあげられているが、1977年に石川セリによって歌われたのがオリジナル(作詞曲は井上陽水)。ストリングスの洗練されたアレンジに、彼女の抑えめな歌唱が絶妙に絡みあう。
03魔法の鏡
1974年に荒井由実のアルバム『ミスリム』に収録されていた名曲のカヴァー。ささやくような歌声とボッサ風のお洒落なアレンジが秀逸。明菜にユーミンという組み合わせは意外であるが、これはもう選曲の勝利としかいいようがない。
04チャイナタウン
矢沢永吉の1977年のアルバム『ドアを開けろ』収録曲のカヴァー。打診から5年の歳月を経てようやく収録がOKになったとのこと。憧れの曲を歌えるという明菜の喜びが、曲全体から伝わってくる。クールなヴォーカルが映える一曲。
05黄昏のビギン
ちあきなおみのヴァージョンがCMで使用されスタンダード・ナンバーとなっているが、元は水原弘によって歌われた楽曲のカヴァー。短篇映画を見ているような詞と聴き手に語りかけるような歌声が、いっそう想像力をかきたてる佳曲だ。
06色彩のブルース
2000年に発表されたEGO-WRAPPIN'の代表曲のカヴァー。全体にジャジィな雰囲気が漂い、バーのラウンジを彷彿とさせる間奏部分のオシャレなピアノ・アレンジと、中森明菜の高音部を絞り出すような歌声が印象的。
07桃色吐息
84年、高橋真梨子によって歌われた「カメリアダイヤモンド」CMソングのカヴァー。佐藤隆による異国情緒の漂う楽曲は、もともと中森明菜の得意ジャンルのひとつだが、この作品ではさらに別次元の“宇宙”を作り出している。
08愛はかげろう
80年代前半に活動した男性デュオ・雅夢のデビュー曲のカヴァー。切ない歌詞とストリングス、そして中森明菜の繊細なヴォーカルが三位一体となって、情念を極めたバラードとなっている。楽曲そのものの良さも再認識。
09恋の予感
84年、安全地帯によって歌われたミディアム・バラードのカヴァー。井上陽水独自の哲学的な男性目線の歌詞を女性である中森明菜が歌うことで、性を超越した男女共通の妖しい翳りを感じさせる不思議な仕上がりとなっている。
10窓
1979年、松山千春によって発表された切ないバラードのカヴァー。女性の立場から歌われた松山の歌詞と明菜の呟くようなヴォーカル、さらにサビに向けて盛りあがるストリングスのコンビネーションが、唯一無二の悲壮美を感じさせる。
11傘がない
原曲は、1972年、井上陽水のアルバム『断絶』に収録。当時は、若者たちの無関心さを綴った詞が注目されたが、21世紀にも通ずるこのテーマを、問題提起する緊迫感あるヴォーカルとアレンジでカヴァーしている。
12秋桜 (コスモス)
1977年、山口百恵が歌ったさだまさし作品のカヴァー。本家・百恵が伝えたのは親子愛だったのに対して、中森明菜のヴォーカルには、歌詞の意味よりもむしろ、表現者・山口百恵に対するリスぺクトが感じられる点が面白い。
13別れの予感
87年のテレサ・テンの作品のカヴァー。当時は演歌的な“耐える女の美徳”が強調されていたが、明菜が歌うことで「わたしの人生あなたしかいらない」という、切なくも凛とした清々しさを感じさせるポップスに昇華されている。
14異邦人
久保田早紀のイメージを決定的にした1979年の名曲のカヴァー。これまで数多くの歌手にカヴァーされているが、その中でもこの中森明菜ヴァージョンは、あえて感情を削いだ歌唱で、原曲のスケール感を忠実になぞっている。
15瑠璃色の地球
松田聖子の86年のアルバム『SUPREME』収録曲のカヴァー。聖子が出産という人生の節目に歌ったのに対し、かつてのライバル・明菜は歌手活動再開という節目に歌った。愛する力の強さとかけがえのない地球を守りたいという詞世界を、丁寧に伝えようとする歌唱が見事だ。
16いい日旅立ち
オリジナルは1978年の山口百恵で、明菜ヴァージョンは、2006年公開の映画『旅の贈りもの/0:00発』の主題歌にもなった。原曲に漂う郷愁感を崩すことなく、さらに“自分探し”の意味を添えてしまう明菜の歌唱に脱帽。