ミニ・レビュー
前作が本国アメリカで爆発的なセールスを記録したサブ・ポップの出世頭の3作目。すでに『ビルボード』で初登場2位という偉業をなしとげている。メロディアスでキャッチーな反面、大陸的な力強さも秘めており、長い活動が期待できるバンドへ成長した。
ガイドコメント
サブ・ポップから登場のバンド、ザ・シンズの3rdアルバム。ため息が出るほどに精緻で美しいタイムレスなピュア・ポップは、1960年代ポップスを彷彿とさせる新鮮さだ。
収録曲
01SLEEPING LESSONS
幻想的なシンセと静かなベース音を背景にした前半部から徐々にインディ・ポップに発展する、3rdアルバム『ウィンシング・ザ・ナイト・アウェイ』のオープニング・ナンバー。哲学的な歌詞は、自分たちを批判する輩に向けられているようでもある。
02AUSTRALIA
レトロなシンセサイザーの響きが温かさを醸し出すポップ・ナンバー。悪夢は1〜2年で姿を見せるという歌詞には、ブレイク後の盗難被害や友達や恋人との決別など、成功したゆえの苦しみが投影されている。
03PAM BERRY
無機質なエフェクトを掛けたギター・ストロークや、か細いヴォーカルによって構成された、1分弱の小品。担任教師に強い嫌悪感を示す15歳の少女について書かれた詞には、教育制度に対する彼らの批判的な思いがうかがえる。
04PHANTOM LIMB
初期のジーザス&メリー・チェインに影響されたという牧歌的なナンバー。アメリカの田舎町に住むレズビアンの女子高生についての詞を、キャッチーなヴォーカルで描いている。アクセントを効かせた、甘く幻想的な女声コーラスにも注目。
05SEA LEGS
ヒップホップ・ビートに壮大なシンセの音が絡まる、ニューウェイヴ風のナンバー。堂々としつつもノスタルジーをはらんだヴォーカルには、アメリカのバンドながらにUK色を感じさせる。何を言っているのかわからない哲学的な詞だが、不思議と強く印象に残る。
06RED RABBITS
洞窟内の湖に水滴がポツポツと滴り落ちるような幻想的なシンセサイザーが美しいナンバー。いつの間にか主役に成り代わってしまうアコギのストロークも、やはり美しい響きを醸し出していて、終始一貫した曲世界への緻密さが感じられる。
07TURN ON ME
ゆったりとしたギターに導かれるレトロ・ポップなナンバー。“長年の親友とケンカ別れをすることについての歌”ということもあってか、徐々に激しさを増していくバンド・サウンドには、やりきれない彼らの想いが投影されているかのようだ。
08BLACK WAVE
幽霊をイメージしたというバック・コーラスが特徴的なスロー・ナンバー。鬱蒼としたギターや怪しげなシンセの響きなどが、奇妙な余韻を残す。明るいものに目を向けようという前向きな詞は、自身に語りかけているようで、いっそうリアリティが感じられる。
09SPILT NEEDLES
軽快なドラミングにリードされるリズミカルなナンバー。“掴む藁もなく風が吹き荒れる”と自らの置かれた状況の厳しさを歌った詞を、シリアスなギター・サウンドや暗雲としたシンセサイザーの響きで見事に演出している。
10GIRL SAILOR
堂々と晴れやかなようでところどころに陰を感じさせるヴォーカルや、ゆるやかなようで繊細な響きを持ったギターは、ザ・スミスを彷彿とさせる。今回こそはうまくやらなければ、と呼びかける歌詞には、一種の緊張感が感じられる。
11A COMET APPEARS
シンプルなギターのアルペジオをバックに、シリアスなヴォーカルが響きわたるスロー・ナンバー。“最悪なのはわかっているけど、まだこれからだ”と歌われる詞と鳥の鳴き声のSEが、わずかながらに確実な希望を感じさせ、心を温めてくれる。
12NOTHING AT ALL
打ち込みのビートにアナログ風のアコギが絡む、一見ミスマッチな構成が彼ららしいナンバー。要所で聴かせるファルセットも気持ち良い、3rdアルバム『ウィンシング・ザ・ナイト・アウェイ』の日本盤ボーナス・トラック。
13SPILT NEEDLES
3rdアルバム『ウィンシング・ザ・ナイト・アウェイ』の日本盤ボーナス・トラックとして収録の、オルタネイト・ヴァージョン。原曲よりもスピード感が抜群に増したことで、ダンサブルで扇情的な曲に生まれ変わっている。今作の方が好みという人も多そう。