ミニ・レビュー
意外かもしれないが、今作がYMOにとっての初の“公式”ベスト盤である。2枚組なうえに2曲の未発表曲の収録もあって、聴きどころ満載であるが、選曲を担当した細野晴臣による全曲解説もあって、見どころも満載で、いたれりつくせりである。
ガイドコメント
細野晴臣自身が命名したタイトルによる究極のベスト盤。散開前と再生後のトラックをデジタル・リマスタリングし、さらに未発表音源も追加。仕様もコアなファンを唸らせるだろう仕かけが満載。
収録曲
[Disc 1]
01JINGLE“Y.M.O.”
ラジオ番組の合間などに使われるジングルを模したナンバー。コンパクトな楽曲の中にテクノやジャズの要素を凝縮したサウンドを聴かせる。小林克也がウルフマン・ジャックばりの威勢のいいDJトークでYMOを紹介している。
02RYDEEN
テクノ・ポップのサウンドを小学生にまで広めた、彼らの代表曲。黒澤明の時代劇をモチーフに作られたという、分かりやすいメロディと疾走感に満ちた構成は今なお新鮮に響く。
03BEHIND THE MASK
1979年に発売された彼らの代表作『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』に収録。無機質だが、どこか暖かみのあるシンセサイザーの音がやさしく響く。後にエリック・クラプトンもカヴァーするなど、海外でも人気の高い曲だ。
04INSOMNIA
細野晴臣が自身の“不眠症”をテーマにして作ったナンバーで、ヴォコーダーでのヴォーカルも担当。沖縄っぽい独特の跳ねるリズムに、民族楽器をシミュレートしたような不思議な音色のシーケンスが淡々と絡む琉球風テクノだ。
05CUE
ニューウェイヴ全盛時の81年、ウルトラヴォックスの楽曲に触発された細野晴臣と高橋幸宏が共作したナンバーで「手掛かりを与えて」と歌われている。細野いわく「YMO後期の完成形」というが、坂本龍一は録音には参加していない。
06U・T
「ハードコア・テクノの元祖」と評された、疾走感あふれるエネルギッシュなサウンドが魅力のナンバー。中盤では、メンバー3人が“U・T=宇宙人”について討論。坂本龍一は、この曲を聴くとシューベルトの「魔王」を連想するという。
07NICE AGE
ロキシー・ミュージックを彷彿とさせる、ビートの効いたニューウェイヴ・サウンド。サディスティック・ミカ・バンドのミカがヴォイスで、80年に来日したポール・マッカートニーが大麻所持で拘留されたエピソードを語っている。
08体操
体操の号令をもとに、ミニマルなピアノやトーキング・へッズ風のエキセントリックなサウンドを採り入れた曲。当時の“ビョーキ(病気)音楽”の風潮か、「腕を胸の前に上げて痙攣(けいれん)の運動」というひねくれた歌詞が印象的だ。
09COSMIC SURFIN'
シンセサイザーによる“ピコピコ”テクノに、ベンチャーズの“テケテケ”エレキ・ギター・サウンドをかけ合わせた、陽気な“宇宙サーフィン”ナンバー。ドライヴ感あふれるソリッドでシャープなギターを聴かせるのは高中正義だ。
10以心電信
83年の「国際コミュニケーション年」のキャンペーン・ソングで、自分自身を助けて自分を愛してみようと歌われている。ビートルズの「愛こそはすべて」のような、にぎやかで華やかな式典のような雰囲気に満ちたポップなナンバー。
11ポケットが虹でいっぱい
93年の“再生YMO”時にシングル・リリースされたエルヴィス・プレスリーのカヴァー曲。アンビエント風な浮遊感漂うサウンドと1950年代黒人音楽のドゥーワップ風コーラスをバックに、切ない想いを日本語で歌ったラブ・ソングだ。
12東風 (SPECIAL DJ COPY)
13中国女 (アコースティック・ヴァージョン)
14FIRE CRACKER
エキゾティック・サウンドを世に広めたマーティン・デニーの曲を、ディスコ・ヴァージョンにアレンジした1978年のカヴァー。アジア風の音階をもつダンス・ナンバーで、ここからYMOがスタートした。なお、タイトルは「爆竹」の意味。
[Disc 2]
01MULTIPLIES
70〜80年代に活躍した英国バンド、スペシャルズから影響を受けたスカ・ナンバー。映画『荒野の七人』のフレーズも引用するなど、スカと西部劇をミックスしたスピード感と躍動的あふれるサウンドが心地よい。
02TIGHTEN UP (A&M MIX)
R&Bの名曲カヴァーで、細野晴臣のファンキーなベースが縦横無尽に大活躍。パーティ気分を盛り上げるダンス・ナンバーで、曲中の日本人をおちょくる“スネイクマン・ショー”の自虐的コントが欧米人に大いにウケたという。
03SIMOON
細野晴臣が、『スター・ウォーズ』に登場するC3-POとR2-D2が砂漠の中を歩くイメージで作った曲。熱波漂うアラブ風なメロディと70年代の細野のソロに通じる“無国籍”サウンドが、ゆったりと心地よく響く。
04CITIZENS OF SCIENCE
80年代ロンドンのニューウェイヴ・バンドを思わせる勢いに満ちた曲で、ドラムやシンセサイザーの音色も派手。「科学市民は静かだ〜科学市民は何が良いかを知っている」と、文明社会をシュールに歌っている。
05CAMOUFLAGE
“ビョーキ(病気)音楽”と呼ばれていたYMOの楽曲の中でも特にダークな曲調で、当時実際に神経症だっという高橋幸宏によるナンバー。重いビートとノイジーな音に、エフェクトをかけたヴォーカルで「自分が落ちていく」と歌っている。
06GRADATED GREY
不安感や高揚感を抱えながら、“灰色の段階”の中を開放に向かって進んでいく決意をテーマにした細野晴臣の曲。ループでリズムを作り、世界初のサンプリング機材を導入した多彩な音のコラージュが随所に響く。
07PURE JAM
YMOご用達録音スタジオがあるビル内の喫茶店が出すトーストのことを歌ったサイケデリックな曲。ジョージ・ハリスンの大ファンである高橋幸宏の趣味が全開の、ビートルズ・エッセンスを引用したサウンドが聴ける。
08LOTUS LOVE
宇宙規模で自分を再確認するような大きなテーマを持った曲で、「BABY! 時をとびこえておいで BABY! 世界の外で会おうよ」と歌っている。堂々としたドラムや唸るようなシンセサイザーの音色が、重厚なサウンドを構築している。
09君に、胸キュン。〜浮気なヴァカンス
以前から歌謡曲の仕事が多かったメンバー自らがアイドルと化して作られたテクノ歌謡。それまでのイメージを覆す爽やかでポップなサウンドは、夏の日の避暑地でのバカンスを思わせる。
10SHADOWS ON THE GROUND
高橋幸宏と坂本龍一の共作。スティーリー・ダンを思わせるような、クールかつ繊細で硬質なアンサンブルが聴ける。成熟した後期YMOを代表する曲のひとつで、坂本の美しいピアノ演奏など、のちのソロにつながるようなサウンドを響かせている。
11BE A SUPERMAN
93年“再生YMO”時の“スーパーマン”をテーマにした曲で、無音階のシンセサイザーが効果的に使われている。冒頭の声は、小説『裸のランチ』の作者ウィリアム・バロウズ。女性の声は、NYで働いていた日本人留学生によるものだとか。
12WHERE HAVE ALL THE FLOWERS GONE? (アコースティック・ヴァージョン)
13TECHNOPOLIS
“TOKIO!”というフレーズから始まる、まさにテクノ・ポップのイメージを決定づけたといっても過言ではない楽曲。キラキラとしたシンセサイザー中心の曲構成は、他のどこの都市でも成し得ない、東京的な空気に満ちている。
14THE END OF ASIA
坂本龍一のソロ・アルバム『千のナイフ』に収められていた曲のカヴァー。東海道五十三次や時代劇ドラマのエンディングを連想させるようなゆったりしたテンポで、ラストの「日本はいい国だなぁ〜」というセリフを絶妙に響かせている。