ミニ・レビュー
初のベスト・アルバムは、別テイクやカーペンターズのエレクトロニカなカヴァーなどで構成されたボーナス・ディスク付き。全シングルなどで構成された本編は、狂乱性とクールネスを拮抗させながら音世界の重力を完全支配するバンドの奥深さが堪能できる。
ガイドコメント
『ミーのカー』や『〜しびれ』『〜めまい』など数々の名作アルバムを発表してきた“ゆら帝”のベスト・アルバム。シングル、代表曲を中心としたベストサイドと、レア音源満載のレアサイドの2枚組。
収録曲
[Disc 1]
01グレープフルーツちょうだい
ベスト盤用に新録されたインディ時代のナンバー。ボソボソと喋るような低めのヴォーカルや口語体でありながら文学的な匂いを放つ歌詞、極めてノイジーなギター・ソロなどが特徴的。覇気なく繰り返されるタイトルが耳に残る。
02発光体
ファズを効かせたギターで始まる軽快な8ビート・ロック・ナンバー。耳馴染みの良いメロディや上下に大暴れするベース、キメのフレーズなど、メリハリのある曲構成が見事。98年7月にリリースされた初シングル曲。
03夜行性の生き物3匹
ひょっとこダンサーが延々と踊るPVが話題になったシャッフル基調のミディアム・ロック。シンプルなフレーズを繰り返すバンド・アンサンブルが、ヴォーカルを際立たせるタイトな1曲。“およそ3匹”という表現が面白い。
04ラメのパンタロン
アルバム『ゆらゆら帝国III』からシングル・カットされたハード・ロック曲。バンド全体によるタイトなキメのフレーズや曲後半の単音ノイズなどが特徴的。ロバート・プラントを彷彿とさせるサビのヴォーカルにも注目。
05午前3時のファズギター (Full Length Version)
ゆらゆら帝国のフリー〜サイケデリックな一面が色濃く出たナンバー。1分あまりのダルそうな低音ラップを経て、後半は聴き手をトランス状態へ導くような破壊的ノイズ・ギターが展開される。ライヴでも人気の高い1曲。
06待ち人
軽快な8ビートの極上ポップ・ソング。朝や春をじっと待つ“者たち”をテーマにしたポジティヴなナンバーで、女声コーラスとともに軽やかに歌い上げるサビやメロディアスなギター・フレーズなどが実にチャーミング。
07アイドル
1分強の長めのイントロで始まるブルージィなロック・ナンバー。坂本慎太郎の恋愛観を感じさせる意味深長な歌詞とメロディアスな哀愁系ギター・ソロなどが味わいどころ。ベスト盤用に新録されたインディ時代の曲。
08すべるバー
バラエティ番組『はねるのとびら』2代目オープニング・テーマ。イントロからたたみかけるフィルとリフ。60年代のガレージ・バンドを思い出させる荒々しさと同居した文学性の高い歌詞。これぞ、ゆらゆら帝国の真髄だろう。
09ゆらゆら帝国で考え中 (Single Version)
バラエティ番組『はねるのとびら』初代オープニング・テーマ。グループ・サウンズを思わせるリヴァーヴ強めのギター・サウンドと破壊力に満ちあふれたベースとドラム。3ピースで奏でられる最強のロックがここに。
10恋がしたい
2人組ユニットTICAの武田カオリ(vo)をゲストに迎えたミディアム・ポップ・チューン。2声ユニゾンやトランペット、ワウ・ギターなどの洒落たサウンドと独特の間が醸し出すドリーミーな雰囲気が魅力。
11ドックンドール
オールディーズ風の柔らかいギター・サウンドがチャーミングなポップ・ロック・ナンバー。女性口調で優しく歌っているが、歌詞はひねりの利いたややキツい内容。メロトロン系のストリングス・サウンドも印象に強い。
12ズックにロック
軽快かつハードなロックンロール・ナンバー。ノリノリの前半からテンションが上がり続け、ギター・ソロ前後ではバースト寸前まで炸裂する3人のタイトなアンサンブルが聴きどころ。坂本慎太郎のシャウトも実に心地良い。
133×3×3- 3ラ3ラ3 -
コード変化のほとんどない軽快なブギ調ナンバー。目の前で喋っているような唄と背後のリヴァーブがかったヴォーカルが絶妙に絡み合い、“けずる君”を題材に幼少時代の妄想的世界観が展開される。J-POP有数の個性派ロック。
14誰だっけ?
アルバム『ゆらゆら帝国のしびれ』収録のサイケデリック・ナンバー。緊迫感に満ちた鋭角的なサウンドと混乱気味の精神世界で自問を繰り返す歌詞が特徴的。坂本慎太郎の叫びと子供の笑い声の対比が混沌を際立たせている。
15ミーのカー (Single c/w Version)
繰り返されるスリリングなギター・フレーズが印象的な重めのロック・ナンバー。バンド演奏は比較的シンプルだが、歌詞はSFか悪夢のような極めてサイケデリックな内容。アルバム・ヴァージョンは25分以上に及ぶ大作。
16冷たいギフト
CD2枚組でリリースされた5thシングル曲。ファズ・ギターから子供コーラスまでを駆使した多彩で美しいサウンドと、歌詞中の生き物らしき“冷たいギフト”が残す無気味な印象が、独特の世界観を創り上げている。
[Disc 2]
01パイオニア (Alternate Version)
彼らがインディ時代から演奏してきた隠れた名曲の別ヴァージョン。イントロの繁華街のSEやギターのアルペジオをバックにした素朴な低音ヴォーカルを特徴とする物悲しいナンバー。後半に大暴れするドラムも聴きどころ。
02グレープフルーツちょうだい (Alternate Mix)
オリジナル・テイクから坂本慎太郎のヴォーカルだけを抽出し、間髪を入れずにつなぎ合わせたポエトリー・リーディング風のミックス。曲中とエンディングにノイズ・ギターを挿入することでサイケデリックな仕上がりに。
03うそが本当に (Alternate Version)
メジャー2作目『ミーのカー』オープニング収録曲の別ヴァージョン。シンプルなアルペジオ・ギターを主体とした物静かなアレンジで、坂本慎太郎のソフトな歌いまわしと優しいコーラスが眠気を誘うほど美しく響く。
04恋がしたい (Kaori Takeda Solo Version)
TICAの武田カオリをフィーチャーしたナンバーの別ヴァージョン。ダブらせていたヴォーカルをひとつに絞り、坂本慎太郎のバック・コーラスも大幅にカット。原曲にはない坂本のスキャット風コーラスで締めくくられる。
05バンドをやってる友だち (Demo)
女性ガレージ・バンド“ママギタァ”のジュンをフィーチャーしたナンバーのデモ・トラック。坂本慎太郎のヴォーカルという興味深いテイクで、後にどのようなアレンジが施されたかなど、正規版と聴き比べると一層面白い。
06ボーンズ (Fuko&Sakamoto Duet Version)
アルバム『ミーのカー』収録ナンバーを少女とデュエットしたヴァージョン。少女らしいあどけない歌声が魅力で、不安定な歌唱もダブらせることで味わい深くなっている。純粋な声による“魔物が〜”など、斬新な響きだ。
07少年は夢の中 (Alternate Mix)
アルバム『ゆらゆら帝国III』のラストに収録されているナンバーのリミックス・ヴァージョン。アルペジオ・ギターやオルガンによる柔らかいバッキング演奏とハモリの効いた美しい主旋律が独特のダルさを醸し出している。
08太陽の白い粉 (Alternate Mix)
99年発表5曲入りミニ・アルバムのタイトル曲のリミックス・ヴァージョン。ママギタァのメンバーによるコーラスがない分、より素朴でアコースティックな仕上がりに。エンディングの空間的なシンセ・サウンドが印象的。
09イエスタデイ・ワンス・モア
言わずと知れたカーペンターズの代表的ナンバーのカヴァー。チープ極まりない質素なリズム・トラックをバックに、坂本慎太郎のソロ・ヴォーカルと子供たちの合唱が展開される。どこまで冗談なのかわからないのが魅力だ。