ミニ・レビュー
ナンバーガール時代から連れ添ったドラマーと別れ、新境地に突入した向井秀徳の特異すぎる才能が炸裂した傑作3作目。ツェッペリンばりのハード・ロック、ヒップホップ、祭り囃子、R&B的メロディ、都市の闇の営みを詩的に描く歌詞などが渦巻く新種の生命体だ。★
ガイドコメント
向井秀徳率いるZAZEN BOYSの3枚目となるフル・アルバム。ドラマーの脱退を経て、新たなるメンバーに松下敦を迎え、レコーディング。激しくもキテレツに、どこまでも進化を続けるサウンドの洪水がここに。
収録曲
01SUGAR MAN
3rdアルバム『ZAZEN BOYS 3』のオープニング・ナンバー。心地良い陶酔と錯覚を呼ぶ甘くどんよりとした残響音。一転して、突き破る散弾銃ビートの来襲にハッとさせられる。幕開け曲にふさわしい、緊張感漲るスリル満天の音圧だ。
02Take Off
重厚な存在感をはぐらかすように、淡々と刻まれるドラムが無性にスリリング。訪れる転調をひっそり待ち伏せるハイエナじみたムードなど、シンプルだが息を飲む展開が新鮮だ。どこかデモ音源っぽいのもいい。
03Friday Night
悩ましげなキーボードと冷乾なギターが、鬱蒼とした街の上空に立ち込める退廃を思わせ、色香ある憂いのムードに身を任せ酔いしれたくなる。タフなリズムを刻むドラムの周囲を暴れ回る、両サイドの弦楽器が痛快なナンバー。
04Tombo Game
弾き語りの甘メロは、向井の得意とするところ。混沌としたサウンドが示すのは都会の儚い恋愛模様。メロディを度外視した荒れ狂うトリッキー・ベースと変拍子ドラムを、アコースティックで表現するあたりがZAZEN節。
05Pink Heart
短くも非常に手の込んだ印象のあるインスト曲。アルバム『ZAZEN BOYS 3』の中盤に収録され、次曲「RIFF MAN」のパイプ役としていい味を出している。飄々としたギター陣とパワフルなリズム隊が隙間を繕うサウンドに、ZAZENの音像がよく表われている。
06RIFF MAN
アグレッシヴなエレクトリック・ビートが渦巻く、緊迫と高揚が同居したナンバー。タイトル通り、インパクトあるリフが繰り返し飛び交う。鋭く尖った音はダイレクトに脳内廻旋し、ジワリジワリと衝動を掻き立てていく。
07This is NORANEKO
向井の独特の視点で切り取られた風景や世界観が色濃く出たミドル・チューン。ひとつひとつの音が太く、重厚なビートや派生する音の伸びが至極心地良い。間を贅沢に使った曲構成も、シンプルながら味がある。
08METAL FICTION
俗謡のような歌唱と鉄っぽく冷ややかな屈強ビートが融合、というなんとも斬新な試み。乱がしい騒音の中、不意打ち気味に飛び込んでくる妖しいキーボードの音色が曲に深みを付ける。ユニゾンながらも緊張感たっぷり。
09Don't Beat
くねるダンス・ビート+情緒深いツイン・ギターの絡みで創出される不可思議世界。ラップと交互に訪れるファルセット・ヴォイスで描かれる螺旋状の曲構成が、クセになる気持ち良さ。魅せどころ満載の間奏は絶妙の呼吸を感じる。
10Lemon Heart
各々が自由に音を鳴らしているかのような、セッションじみたインスト・ナンバー。しかし、そこには確かな曲展開が存在し、息を潜めあいながらの緻密な音の応酬が連続的に発生する。4人の強烈な個性表現が炸裂する楽曲。
11Water Front
シンプルながらも妖しい存在感を醸し出すキーボード音が、靄のごとく曲全体を覆う、スロー・テンポで聴かせるムーディな楽曲。ダーク、無常、虚無の複雑な様相を、ドロっとぬかるみのあるサウンドで表現してみせている。
12Good Taste
ベースのシンプルなスタッカート・ビートの上で、ヘンテコで猪口才なギターが延々と小躍り。どこか懐かしく甘酸っぱい場面を思い出させる青春回顧録のような歌詞と、かわいらしいアレンジの組み合わせが面白い。