ミニ・レビュー
堰き止められていた流れが、一気になだれ出るように最初から早いテンポの曲が続く。相変わらず、ツボをぐいぐい押してくる。個人的には、今までの彼らに感じていたような心の中丸ごと浄化されるような気持ちより、もっとジクジク痛くなるような感じを受けた。
収録曲
01すてごま
6thアルバム『STICK OUT』の冒頭を飾る社会派ロック。“すてごま”のように兵士・軍人が扱われていることを巧みに批判。パンクらしい単刀直入な表現が多いが、特にラストの2行にすべてが込められている。
02夢
03旅人
メジャー11枚目のシングルとしてリリースされた軽快なロックンロール・ナンバー。人生をひとつの冒険に喩えた歌で、ミュージシャンらしい初期衝動的エネルギーに満ちている。PVが放送禁止になったことでも知られる。
04期待はずれの人
マーシーの粋なカッティング・ギターが光るミディアム・ロック・ナンバー。自分に期待する人への皮肉を綴った歌で、“九つまで数えてとめてしまうよ”など、反発を通り越して人を小馬鹿にしたような表現がユニーク。
05やるか逃げるか
「すてごま」と並ぶ社会派ソング。“平和を守るため”という表現などから92年のカンボジアへの自衛隊派遣が背景にあると考えられる。白井幹夫のキャッチーなピアノやAメロ後半のバック・コーラスなどが印象的。
06テトラポットの上
アップ・テンポのパンク・ナンバー。“カーボンロッド”や“フィッシャーマン”といった釣り関係の言葉があると同時に抽象的な表現も多く、歌詞はやや難解。サウンドは初期の作品を彷彿とさせる疾走感に満ちている。
07台風
台風そのものか、台風のような破壊的な存在をテーマにしたナンバー。シンプルなコード進行に絶妙に絡む4分6拍子風のドラム・フレーズが特徴的。いかにも嵐が去って行ったかのような印象を与えるエンディングにも注目。
08インスピレーション
ストレートでキャッチーな8ビート・ロック。前半はユニゾン、中盤からはキレイにハモるバック・コーラスや過度な演出のないシンプルなアンサンブルが魅力。終盤では、作詞作曲の河口純之助がリード・ヴォーカルを担当。
09俺は俺の死を死にたい
マーシーがヴォーカルを担当するロックンロール・ナンバー。人のせいで死んだり、無理した延命はしたくないといった彼のパンキッシュな死生観が綴られる。“(長くつ下の)ピッピ”が登場するなどのユーモアもあり。
1044口径
ほのぼの系ポップ・ナンバー。ギターと同じフレーズを歌う“チュルルルール”など、甲本ヒロトのチャーミングな一面がよく出た1曲。お笑い芸人コンビ“2丁拳銃”がこの曲の歌詞から名前を付けたことでも知られる。
11うそつき
アグレッシヴなロック・ナンバー。嘘をつくことについて考えを巡らせるユニークな歌で、特にラストの4行では何気なく本質を突いている。ブルーハーツらしい4分音符系メロディやパンキッシュなギター・フレーズが魅力。
12月の爆撃機
甲本ヒロトの個性的な声が映える哀愁系美メロ、それに寄り添うマーシーの粋なギターやストレートかつ軽快な8ビートなど、彼らのおいしいツボをすべて抑えたような1曲。ファンの人気が特に高いナンバーの1つだ。
131000のヴァイオリン
勢いだけではない後期ブルーハーツの充実した音楽性が感じられる名ナンバー。マーシーの人生感がにじみ出たスケールの大きい歌詞も特筆に値する。アルバム『STICK OUT』を締めくくる完成度の高い2曲のうちの1曲。