ミニ・レビュー
『パブロ・ハニー』で波乱のデビューを飾って以来、2年ぶりになってしまったUKバンドの2nd。トリプル・ギターがロックしまくるぶ厚いサウンドは、どこか懐かしさすら感じさせて素直にキモチいいし、曲作りのヒネこびたセンスもなかなか。結構イケます。
収録曲
01PLANET TELEX
2ndアルバム『ザ・ベンズ』のオープニングを飾る曲。ゆったりとした音の空間の中で刻まれる、確実且つ力強いリズム&ヴォーカルは、初々しさからの完全なる脱皮にプラスして、貫禄すら感じられる。
02THE BENDS
人間社会に溶け込まない男の内面を、えぐるように、そして“諦め”にも似たニュアンスで歌い続けてきたレディオヘッドが、ついに「人間社会の一部になりたい!」と叫んだ初期の集大成ナンバー。アレンジの壮大さも申し分なく、感動的。
03HIGH AND DRY
全編を通し、アコギのストロークが心地よいシンプルなミディアム・ナンバー。組織的な生活の中で手軽な快楽を求めるために、自我をほったらかしにして安易に生きる人への皮肉を、囁くようにトム・ヨークが歌う。
04FAKE PLASTIC TREES
ずば抜けたアレンジ力が売りのレディオヘッドが、アルバム『ザ・ベンズ』のハイライトとも言えるこの曲を、弾き語りに近いシンプルなアレンジで聴かせることに、メロディ・メイカーとしての決意と自信がうかがえる。切なく、とてつもなく大きなバラード。
05BONES
ひたすらコントロールされる社会生活の中で、ふと思い出す子供の頃の自分。一歩間違えると懐古主義的な内容なのだが、力強い圧倒的なアレンジに乗せることで、強烈なメッセージを聴くものに投げかけている。
06NICE DREAM
美しい物語のエンディングのようなスロー・ナンバー。強く共感を促すメッセージと、聴く者を突き放すニュアンスの言葉たちとのバランスが、この曲に独特の温度を与えている。突如訪れるスリリングなギター・ソロも聴きどころ。
07ジャスト (ユー・ドゥ・イット・トゥ・ユアセルフ)
アレンジ、詞、歌、全てにおいてエッジが効いている傑作。自身の不甲斐なさをひたすら歌い続けてきたトム・ヨークが「全てはおまえ(自分)自身が悪いんだ」と聴く者に挑戦的に叩きつけるさまは、スリリングで熱くなる。
08MY IRON LUNG
社会に“生かされてる”ことに対して、恐れずに主張する詞の内容は、明らかにデビュー当時の“諦め”に似た感情とは異なる。冒頭の美しいアルペジオから、中盤への流れは“破壊”を容易に連想することが出来る。
09BULLET PROOF - I WISH I WAS
アルバム『ザ・ベンズ』の混沌とした楽曲群の中で、一息つかせるような、静かで繊細なアレンジ。自らの弱さをひたすら嘆き、アコギの上をゆっくりとなぞるように歌うトム・ヨークのヴォーカルが切ない。
10BLACK STAR
今日も上手くいかなかった、他人のせいにして自分をごまかしているけど本当は分かっている、自分の問題なんだと。そんな自己嫌悪を、ダイナミックに、力強く、大音量で鳴らすことで、聴くものを感動の渦に巻き込むことに成功している名曲。
11SULK
「お前は変われない」そう断言する絶望的な内容も、決してそれは結論ではなく、それを分かった上で、さあどうする? というメッセージが、楽曲全体から熱く全身に伝わる。レディオヘッド流の応援歌とも言うべき大作。
12STREET SPIRIT (FADE OUT)
アルバムザ『ザ・ベンズ』の本編を締めくくる、アルペジオが印象的なミディアム・ナンバー。「俺の思考とストレスに機械は反応してくれない」というトム・ヨークの言葉は、温度を全く感じさせない。焦燥感と安堵感が共存する“違和感”はレディオヘッドならでは。
13WHEN I'M LIKE THIS
本当にどうしようもない男の歌と捉えるか、逆説的なラブ・ソングと捉えるか。珍しく(と言ってしまうと失礼だが)暖かい温度を感じるアコースティックなアレンジ、優しいヴォーカルからも、後者であって欲しいと願ってしまう。
14KILLER CARS
ポップで、ソリッド感全開のまま突っ走りきる、ギター・バンド然とした様は、痛快そのものだ。日本編集盤『イッチ』には弾き語りバージョンが収録されているが、これまた素晴らしく、楽曲としてのクオリティの高さも聴き逃せない。