ミニ・レビュー
ロック界のモンスターであることは変わりないけど、今作はロック・バンドとしての凄味よりも、名バラード「オールウェイズ・サファリング」など、ミックやキースの個人芸が光っていて、思わずグッとくる。国内盤は「アンジー」のライヴを追加収録。
収録曲
01FLIP THE SWITCH
キレのいいビートを叩き出すドラムが鳴り始めた瞬間、思わず体が動き出してしまう高速のロックンロール・ナンバー。ストーンズのオーソドックスなスタイルをしっかりとキープしたまま、21世紀のダンス・チューンとして機能させている。猥雑な色気をたたえたギターにもゾクゾクさせられる。
02ANYBODY SEEN MY BABY?
悪魔の囁きを連想してしまうサビのメロディ・ラインが深く印象に残るミドル・チューン。ヒップホップの要素を取り入れたヴォーカル・トラック、空間系のエフェクトを有効に使ったギター・アレンジなど、実験的ともいえるトライアルも満載。常に時代の最先端を切り裂いてきたストーンズの面目躍如といったところか。
03LOW DOWN
ブルージィかつワイルドなドライヴ感をたっぷりと感じさせてくれるギター・リフ、挑発的で官能的なミックのヴォーカルがざっくりと溶け合う、典型的なストーンズ・ナンバー。間奏部分に導入されたホーン・セクションのラフ&ダーティな響きも効果的で、刺激的な快楽が下半身を直撃する。
04ALREADY OVER ME
カントリー・ミュージックの雰囲気をたっぷりと注入した、簡素にして奥深いバラード。切ない感情がダイレクトに伝わってくる泣きのメロディが描き出すのは、女にフラれた男の未練たらたらの思い。古典的なテーマから逃げることなく、堂々たるマンネリズムにて、それをエンタテインメントに仕立て上げた技量に感服。
05GUNFACE
“ガールフレンドの愛人を銃で殺そうとする男”をテーマにした、アグレッシヴなナンバー。BPMの速さや音圧に頼らず(むしろこの曲のテンポは遅いし、音数もかなり抑えられている)、ギリギリの精神状態に陥った男の凄みを音像化する、そのタフネスにぶっとばされる。怒りに満ちたギター・フレーズにビリビリとしびれっぱなし。
06YOU DON'T HAVE TO MEAN IT
おだやかなムードが漂うギターの裏打ちカッティングや、オルガン、ドラム、ベースによるシンプルなリズム、ゆったりと腰を揺らしたくなるホーン・アレンジ。ジャマイカ音楽への深い深いリスペクトを感じさせる、超オーセンティックなロックステディ。自らのルーツを隠さず、“そのまんま”やってしまうキースの大らかさが最高。
07OUT OF CONTROL
レゲエ、サルサといった音楽に内包された憂鬱を感じさせるAメロと、いきなりテンションが上がり、8ビートが炸裂するサビのコントラストが見事。民族的な香りとロック・テイストをバランスよく混ぜ合わせながら独特のグルーヴを生み出し、楽曲全体に深みを与えているミックのヴォーカルも素晴らしい。
08SAINT OF ME
ずっしりとした手触りを持つビート、オルガンを配したゴスペル的アレンジ、徹底的にキャッチーなサビのメロディ。楽曲の構成自体はきわめてシンプルなのだが、同じヴァースを繰り返していくうちに徐々に高揚感を増していき、最後は確実にリスナーを爆発的なエクスタシーへと導く。その気持ちよさがクセになりそうな、美しくてヤバい一曲。
09MIGHT AS WELL GET JUICED
エレクトリック的な処理を施された、ヘヴィかつブルージィなリズムを中心としたトラックのうえで、フリーキーなギターとブルース・ハープが交錯する。かなり異色な構成を持つ楽曲だが、ミックが声を乗せた瞬間、それはばっちりストーンズ・ナンバーへと変化。このアルバムの実験性をもっともわかりやすく体現した一曲といえるかも。
10ALWAYS SUFFERING
アコースティック・ギターの牧歌的な響きとハモンド・オルガンの神聖なサウンドがひとつになった、ストーンズ的カントリー・ナンバー。“人生はいつだって苦しい。だけど僕らはいつもがんばってきた”という内容を持つリリックに充分な説得力を与えるミックの歌には、30年にわたってシーンを引っ張ってきた彼が持つ“凄み”が感じられる。
11TOO TIGHT
抜群にキレまくるドラム、ファットなビート感をたたえたベース・ライン、ザクザクと打ち鳴らされるコード・カッティング、そして、恐ろしいほどにポップで1回聴けば覚えてしまうサビのメロディ。ストーンズ独特の空気感とポップ・ミュージックとしての強度をしっかり両立させたロックンロール。
12THIEF IN THE NIGHT
低めにチューニングされたドラム、ゴスペル調のコーラス、静かにブルースを刻み込むギター・ワーク、しゃがれきったヴォーカルという、キースならではのブルース・ナンバー。“おまえに触れるために、盗人のように忍び込むぜ”というリリックもブルース的。じっと息を潜めて、聴き込みたいナンバー。
13HOW CAN I STOP
アルバム『Bridges To Babylon』のラストも、キースがヴォーカルを取るブルース・ナンバー。ギターと歌があれば、奥深さをたたえたブルースを奏でられる、という円熟したキースのパフォーマンスが印象的。また、“どうやって止まればいいんだ”というフレーズは、長いキャリアのストーンズらしさが感じられる。
14ANGIE