ミニ・レビュー
英ニュー・ウェイヴの異端児だった彼らが今年でデビュー20周年とは。新曲(16)を収録したシングル集第2弾は、キュアーのポップ性全開の“明盤”。10年以上経ってるってのに(1)を聴くとクマのぬいぐるみを被ったロバスミが頭の中でステップを踏む。困ったな〜。
収録曲
01WHY CAN'T I BE YOU?
「どうして僕は君になれないんだ?」と繰り返すダンサブルなポップ・ソング。“君”への溺れぶりが切実なこの曲は、ロバート・スミスの養女に対する愛情が歌われている変化球的なラブ・ソングだ。全英21位、全米54位。
02CATCH
自転車で転んだロバート・スミスが、後遺症がもたらす白昼夢で出会った女の子にそっくりの子に現実世界で出会った体験を歌ったポップ・ソング。ストリングスをあしらい、幻想的でジェントルな雰囲気を漂わせている。全英27位。
03JUST LIKE HEAVEN
ロバート・スミスが幼なじみ(のちに結婚)と自殺の名所“ビーチー・ヘッド”で交わした睦言を基にした曲で、PVの撮影も同地で敢行。ポジティヴで多幸なムードに満ちた愛らしいラブ・ソングだ。全英29位、全米40位。
04HOT HOT HOT!!!
藤井隆よりも早く「ホット・ホット・ホット!!!」と叫んでみせたファンク・ナンバー。ヴォーカルの熱に浮かされたようなテンションとは対照的に、バンドはクールなホワイト・ファンクを展開している。
05LULLABY
おじさんに蜘蛛男の物語を聞かされトラウマになったロバート・スミスが、蜘蛛と闇の恐怖を作品化したホラー調の子守唄。彼が味わった恐怖を自身の熱演で再現した不気味なPVは、子供に見せたらトラウマになること確実だ。全英5位。
06FASCINATION STREET
キュアーらしいダークでメランコリックな音世界が展開されているナンバー。彼らが夜のニューオリンズへと繰り出した際の体験を歌ったそうだが、詞で膨らむ期待とは裏腹にまるで楽しげでない曲調が印象的だ。
07LOVESONG
「ジャスト・ライク・ヘヴン」にも登場する恋人に捧げたメランコリックな婚前ラブ・ソング。もったいつけた言い回しを避けたシンプルでストレートな恋愛表現も功を奏してか、全米2位の大ヒットを記録(英国では18位)。
08PICTURES OF YOU
写真を小道具に使った魅力的なラブ・ソング。ゆったりとしたバンド・アンサンブルによる甘美でメロディックな曲調は、キュアー入門用にも最適。キラキラとした音処理が雪の降る季節をイメージさせる。全英24位、全米71位。
09NEVER ENOUGH
シンセサイザーを使わないギター主体のハード・ロックを披露した異色作。不満を吐き出しまくるこの曲は、さながらキュアー版「サティスファクション」か。ループするリズムなど、先鋭的要素が多々見受けられる。全英13位、全米72位。
10CLOSE TO ME
閉所恐怖症について歌ったらしい意味深長な曲を、ポール・オークンフィールドがリミックス。余韻を除去した不可思議な曲調は原曲と同様だが、余韻を持つホーンを被せたことで不可思議さに絶妙な変化をもたらしている。全英13位、全米97位。
11HIGH
夢いっぱいの子供時代の甘みと、現実に直面した大人時代の苦みが交錯したイノセントなポップ・ソング。昂揚感を携えたメロディアスで弾けたこの曲には、それこそ空へと昇っていくようなムードがある。全英8位、全米42位。
12FRIDAY I'M IN LOVE
月曜日から木曜日までは憂鬱でも、金曜日には恋をしていると歌うギター・ポップ版「一週間」。能天気と紙一重の前向きな空気に包まれたこの曲は、次の恋に踏み出す起爆剤としても有効かも。全英6位、全米18位。
13A LETTER TO ELISE
移ろう感情の流れを手紙形式で綴った叙情的でメロディアスなナンバー。穏やかな序盤からドラマティックな山場へと転じるアレンジが、アコースティック・ギターを筆頭に、各パートの存在感を充分に引き出している。全英28位。
14THE 13TH
ロバート・スミスの南米コロンビアでのゴキゲンな体験が歌われている曲。ブラスを配したにぎやかでトロピカルなアレンジ、ロバートの吹っ切れた歌唱が、バンドのコミカルな一面にスポットを当てている。全英15位。
15MINT CAR
「フライデイ・アイム・イン・ラヴ」をさらにハッピーでポジティヴにしたようなポップ・ソングで、広瀬香美「愛があれば大丈夫」に通じる無根拠なパワーがみなぎっている。歌詞には性的隠喩も!?
16STRANGE ATTRACTION
明るくも切ない曲調で揺れ動く感情を表現したラブ・ソング。ロバート・スミスいわく「カオス理論を用いて複雑で不規則な人間関係の行き違いを説明した」とのこと。この曲を理解することがカオス理論を理解する早道かも。
17GONE!
「何かしなけりゃ世界を見過ごすだけ、外に出て楽しめ」と、力強いメッセージを発している曲。詞同様にサウンドも力強く、ホーンを加えたジャジィな世界を展開。全編にフィーチャーされた鍵盤も耳を奪う。
18WRONG NUMBER
ループとサンプリングをふんだんに使ったデジタル・ロック・ナンバー。知的でエキセントリックなムードのギター・リフを弾きまくっているのは、デヴィッド・ボウイ作品でおなじみのリーヴス・ガブレルス。