ミニ・レビュー
77年に、お気に入りの独ミュンヘンのスタジオで録音、米国で活躍していたイギリスのバンド、とまあ地球をひとっ飛びの彼らですが、サウンドも宇宙空間に拡がり、夢遊ぶファンタジー・メーカーのELO。ひらめきを意味するアルバム名にポリシーが見える。
ガイドコメント
甘いメロディに見事なストリング・アレンジが絡んだ77年の傑作。スペーシーな感覚を取り込んで、大胆な音世界を造り上げている。ナイス・プライス・ラインのELO再発シリーズの1枚。
収録曲
01TURN TO STONE
鮮やかなシンセ・サウンドとストリングスが、往年のモータウン・ナンバーを思わせるリズムと躍動的に合致した完璧なアレンジ。中盤でのオペラ風の展開などハーモニーの魅力でも随所に楽しませてくれる。全英18位、全米13位。
02IT'S OVER
夏の終わりと恋の終わりを重ね合わせ、「もう、おしまいさ」と繰り返すラブ・バラード。ストリングス、コーラス、ピアノが美しくダイナミックに融合し、最後には暗転する劇的な曲構成を盛り上げている。全米75位。
03SWEET TALKIN' WOMAN
“僕の可愛いひと”を失い、途方に暮れる男が主人公のラブ・ソング。哀しげなイントロからファンキーなポップ・ソングへと展開する緩急自在の完璧なアレンジ。声質の多彩なハーモニーも出色の出来だ。全英6位、全米17位。
04ACROSS THE BORDER
列車に乗って恋人のもとへと向かう主人公の歌。曲調の上下だけでなく、ゆるやかに蛇行するようなアレンジを加え、まさに長距離列車での旅気分を演出。終盤での加速感が、近づく再会に高揚する気分を体現している。
05NIGHT IN THE CITY
空港での別れを描いたラブ・ソング。ソウルフルなメロウ・ナンバーを骨格に、ストリングスやハーモニーできめ細かく肉付けしたプログレッシヴなR&Bナンバー。エキセントリックなSEやシンプルなギター・リフなど、全編を通してにぎやかだ。
06STARLIGHT
星空の下で恋人を想うロマンティックなバラード。アル・グリーンのスタイルを意識した曲だけに、曲調はソウルフルで黒っぽく、ヴォーカルは官能的で情熱的。USソウルとUKポップが互いの特性を活かしつつ融合した名曲。
07JUNGLE
ジャングルでの動物たちの宴を描いた遊び心あふれる曲。タップダンスによるSEやエスニック風ビート、ドイツ語で歌うコーラスなど聴きどころは多いが、最大の聴きものはターザンに扮したジェフ・リンの雄叫びかも。
08BELIEVE ME NOW
出だしのピアノとストリングスからしてドラマティックなシンフォニック・ロック調インストゥルメンタル。リズムは重厚、ストリングスは哀切。1分半に満たない短い時間で、大仰紙一重のダイナミックな音世界を展開している。
09STEPPIN' OUT
荷物をまとめて恋人のもとを去る男を主人公にした別れのバラード。しっとりとしたアレンジが当時の彼らにしては地味にも思えるが、ゆえにメロディの魅力は全面に。効果的に被さるクワイアはメロトロンを使った成果。
10STANDIN' IN THE RAIN
「雨の日のコンチェルト」と題された組曲パートを形成する一曲。大切なものを失い、雨の中に立ちつくす主人公。そんな気分に雷鳴轟くSEで追い打ち。プログレッシヴ・ロックの様式美を明快な形にしてポップスへと転化している。
11BIG WHEELS
「雨の日のコンチェルト」と題された組曲パートを形成するスロー・バラード。「雨にうたれて」で立ちつくしていた主人公の心に、ゆっくりと光が差し始めるさまが如実に伝わってくる曲調が感動的。荘厳なクワイアも魅力だ。
12SUMMER AND LIGHTNING
「雨の日のコンチェルト」と題された組曲パートを形成する一曲。「ビッグ・ウィールズ」で晴れた心に再び轟く雷鳴。ここでの雷は悲しみではなく、雷に打たれたような感情を表現。新たな恋の予感を歌ったメロウな佳曲だ。
13MR. BLUE SKY
「雨の日のコンチェルト」と題された組曲パートを締めくくる一曲。主人公の晴れ晴れと前向きな気分を象徴した曲調で、巧みなコーラス、美しく力強いクワイア、凝ったベース・ラインなど魅力が満載。全英6位、全米35位。
14SWEET IS THE NIGHT
朝昼夜の移ろいを人生に置き換え、聴く者を元気づけてくれるアンセム・ナンバー。ポップよりもロックな要素を前に打ち出した力強くメロディアスな曲調。リード・ヴォーカルがたびたび入れ替わる趣向が面白い。
15THE WHALE
リチャード・タンディによるシンセサイザー・サウンドを大きくフィーチャーしたインスト曲。ジェフ・リンの捕鯨反対への思いから生まれた曲らしく、海中で鯨が鳴いているような演出も。全体的にアンビエントな雰囲気だ。
16BIRMINGHAM BLUES
彼らの出身地を冠したブルース・ナンバー。ブルージィな曲調に持ち前のストリングスやハーモニーを被せた結果、一風変わったブルースへと転生。ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」の一節が引用されている。
17WILD WEST HERO
今よりも良い人生に思いを馳せ、「西部の英雄になりたい」と歌う曲。ポップス、ロック、クラシック、カントリー&ウエスタンなど多様すぎる音楽性を接合した斬新な曲調に、違和感と整合性を同時に体感できる。全英6位。