ミニ・レビュー
まず非常にルーズでラフな演奏に驚いたが、曲にひき込まれて、(4)辺りでは好きかもとさえ思えた。単なる下手とは言いきれない荒削りな魅力がある。ジョナサン・リッチマン風のヴォーカルもいいし、(8)のインストもイケる。ギターのヘンなフレーズはやめて欲しいが。
収録曲
01SILENT KID
気怠いギター音とスコンスコンという間抜けなスネアのリズムが冒頭から炸裂する、ローファイ・ロックンロール。後半に突然失速し、ブルージィなセッションへと様変わりするなど、終始脱力しきってる感じが心地良い。
02エル・エス・トゥー
アコースティック・ギターの乾いたサウンドと緩やかな疾走感が心地良いミドル・ロック・チューン……かと思いきや、後半から突然始まる轟音ノイズ・セッションに面食らわされる。ポップさとアヴァンギャルドなサウンドの対比が全体を引き締めている印象だ。
03STOP BREATHIN
ギターのアルペジオのフレーズと緩やかなリズムで綴られるメランコリックなスロー・ナンバー。時折調子外れなギターのアルペジオだが、意外にも曲にハマっていて味がある。フレーズをリフレインし、曲が進むにつれて重厚感が増していくのもダイナミックだ。
04CUT YOUR HAIR
当時の音楽シーンを皮肉ったペイヴメントの代表曲。だるだるのギターと気の抜けたコーラスによる脱力サウンドと「その長い髪を切れよ!」という辛辣な歌詞のアンバランスさが痛快。「長い髪」とはもちろん当時を席巻していたグランジ・ムーヴメントのこと。
05NEWARK WILDER
ギターのアルペジオが主体となったメランコリックな曲だが、不協和なフレーズが複雑に絡み合って生み出される不安定なメロディが、奇妙な酩酊感や不安を生み出している。それでいてポップであることの枠組みからはみ出さしていないのは見事。
06UNFAIR
ラウドなノイズ・ギターとフリーキーなギター・リフが絡み合う爆音ロックンロール。どんどん暴走するフィードバック・ノイズやスティーヴ・マルクマスの絶叫ヴォーカルなど、ピクシーズに通じる狂気と凄みを感じさせられる一曲だ。
07GOLD SOUNDZ
アコースティック・ギターから発せられるきらびやかなサウンドに彩られた軽やかなポップ・チューン。ひねくれたメロディを好む彼らにしては珍しいストレートなメロディからは音楽に対する喜びと自信がひしひしと伝わってくる。
085-4=ユニティ
ピアノとウッドベースを導入したジャジィなインスト・ナンバー。フリーキーなノイズのコラージュや急な転調など、宅録的な遊び心が盛り込まれているが、それと同時に音の構築に対する高いセンスを感じさせられる小粋さがいい。
09RANGE LIFE
カントリー調漂う軽快なナンバー。アコースティック・ギターが主体となった肩の力の抜けた緩やかなサウンドは、「放蕩生活」というそのタイトル通り、奔放で自由な意思に満ちた開放感あふれるものになっている。
10HEAVEN IS A TRUCK
天国を思わせるような柔らかいサウンドのしずくが落ちるかのように、儚げなピアノのフレーズがなんとも美しい一曲。聞き惚れるも、時間にして2分ほどしかないので、もっと聴いていたいと思わせられる。小粒でありながらも味わい深いナンバーだ。
11HIT THE PLANE DOWN
ギターのスコットによるナンバー。ひねくれたポップ感はあるものの、渦を巻くようなアシッドなグルーヴは直線的なビートを放つ従来のペイヴメントのサウンドとは一線を画す。それゆえに戸惑う部分もあるが、バンドの持つ多面性という意味では非常に面白い。
12FILMORE JIVE
たゆたうようなサウンドが心地良いスローなロック・バラード。いつもドラマティックであることを避けがちだった彼らが、真っ正面からこういった分かり易さに対峙しているのが興味深い。それだけあって落涙級の名曲に仕上がっている。