ミニ・レビュー
ロンドン、否、イギリスを代表する国民的ポップ・バンドとなった観のあるブラー、パワー全開の3作目。飛び切りキャッチーなポップ・センスと適度なユーモアとウィット、今時これだけ鮮やかに時代のポップを鳴らすバンドは貴重だ。モッド・バンド万歳!
収録曲
01ガールズ&ボーイズ
02トレイシー・ジャックス
ソリッドなギター、シニカルでユーモアに富んだ歌詞、さりげないストリングスなど魅力を挙げたらキリがないポップなビート・ナンバー。この曲を聴けば、“ブリット・ポップ≒モッズ”であることがよくわかるはず。
03エンド・オブ・ア・センチュリー
ビートルズのメロディとコーラスに、キンクスのシニカルさと哀愁さを加えたメロウ・ナンバー。ほとんど弾き語りに近い地味な演奏が、鍵盤やストリングスを駆使した秀抜なアレンジにより、まばゆいポップ・ソングに昇華。
04パーク・ライフ
イギリス人の冴えない日常が綴られた歌詞をとぼけたメロディに乗せ歌い上げた、キンクス直系のポップ・ソング。モッズ野郎にとっての通過儀礼映画『さらば青春の光』の主演俳優、フィル・ダニエルズが語りで参加。
05バンク・ホリデー
UKパンクの旨味が詰め込まれた、キレのあるビート・ナンバー。タイトルは“祝日”を意味するイギリス独特の俗称で、祝日が少ないイギリス人のせわしない日常を、性急なビートに乗せ歌うことで効果的に表現している。
06バッド・ヘッド
穏やかなギター・サウンドに英国ロックの伝統が息づく柔らかなナンバー。「インフルエンザにかかる以外は何もすることがない」の一節で、英国人の“あきらめ”を表現してのけるセンスは、さすがキンクスの後継者だ。
07ザ・デッド・コレクター
移動遊園地で流れていそうな、ほんわかとしたムードのインスト曲。ところどころに隠されたジャジィなエッセンスがなんとも美味。“Debt”は、「借金」や「恩義」の意味を持つ語だが、そんなものを収集したがる人間などおるまい。
08ファー・アウト
アレックス・ジェイムス作の奇妙なナンバー。スペーシーなサウンドに乗せ有名無名とり揃えた天体の呼称を歌い上げる、天文ファン必聴のマニアックな内容。太陽の名を連呼しながら迎えるエンディングも独創的だ。
09トゥー・ジ・エンド
デーモンがステレオラブのレティシア・サディエール嬢とデュエットする、英国風味のフレンチ・ポップス。男なら誰もが憧れる伊達男、セルジュ・ゲンスブールになりきるべく、エレガントに熱唱するデーモンに微苦笑。
10ロンドン・ラヴス
モダン・ポップなサウンドに乗せ歌う地元讃歌。が、シニカルな彼らのこと、これはアイロニーを駆使した褒め殺しの可能性も!? この曲、制作段階では仮題「フリップ」。なるほどギターの音色がロバート・フリップ風だ。
11トラブル・イン・ザ・メッセージ・センター
数年後に訪れるニューウェイヴ再評価の波を予見していたかのような、先鋭的なサウンドのソリッドなナンバー。怠惰さ漂う歌詞はホテル滞在中に書かれたもので、『パーク・ライフ』のライナーにその現物が掲載されている。
12クローヴァー・オーヴァー・ドーヴァー
“ドーヴァーの白い崖”の一説が、聴く者を映画『さらば青春の光』のラスト・シーンへと導く切ないナンバー。カモメの鳴き声のSE、ハープシコード、グレアムのアルペジオ・ギターが、楽曲に映像的な魅力を加えている。
13マジック・アメリカ
ところどころで彼らの奇妙なセンスが発揮されているポップ・ナンバー。素直な心で読めばアメリカへの好意的な感情が綴られた歌詞だが、全米ツアーが大失敗に終わった彼らのこと。これはすべて反語なのだろう。
14ジュビリー
ゲーム脳&テレビ脳の主人公ジュビリーの、“パーク・ライフ”ならぬ引きこもりライフを歌ったポップ・ナンバー。歌われるテーマは後ろ向きなのに、曲調ははつらつとして前向きなのが愉快。サビはほんのりとT.レックス風だ。
15ディス・イズ・ア・ロウ
港から川を遡上するかのように歌詞に次々とイギリスの地名が飛び出す、郷愁たっぷりの名曲。英国ロックらしく適度に湿ったメロディが、控えめに泣きまくるグレアムのギターの旋律を得て、叙情的に盛り上がる。
16ロット105
『パーク・ライフ』で歌われた暮らしの喜怒哀楽を、「どうにかなるさ」と笑い飛ばすような小品。デーモンの弾くオルガンが印象的な曲だが、曲題にはそのオルガンを競り落とした際のオークション番号が使われている。