ガイドコメント
70年代初頭のローリング・ストーンズやロッド・スチュワートを彷彿とさせるスワンプ・ロックに傾倒した94年発表のアルバム。オルタナ全盛の時代に新たな価値観を提示した、プライマル初期の名(迷)盤。
ミニ・レビュー
前作はハウスだったのに、今回はメンフィス録音で、60年代末のストーンズ風ダウン・トゥ・アース・ロックをやっている。わざわざトム・ダウドらを起用して、そこまではやらないだろう、普通。メッセージより深い批評性のあるバンドだと、音以上に主張する。
収録曲
01JAILBIRD
サウンド・チェックのような軽い音慣らしに続いて、ドラムとギターが土臭いロックンロールの輝きを立ち込めさせるナンバー。ホーン・セクションや女性コーラスなど、米国南部ロックの魅力を英国スタイルで見事に翻案している。
02ROCKS
彼らのバック・トゥ・ベーシックへの本気ぶりに、名匠トム・ダウドが呼応し生まれたダーティなロックンロール。フェイセズばりのルーズなサウンドとシェイクするリズムに、米国南部ソウルのエキスを数滴ポトリと注入。
03(I'M GONNA) CRY MYSELF BLIND
ダウンホームな雰囲気のビター・スウィート・バラード。クレジットにジョージ・ドラキュリアスの名前があることからも、ブラック・クロウズの『サザン・ハーモニー』を意識したことは明白。ただし、クロウズには不評だった。
04FUNKY JAM
P-ファンクの総帥ジョージ・クリントンを招いたファンク・ナンバー。なぜか妙なレゲエ臭が漂っているファンク・サウンドはなかなか面白いが、P-ファンクの奇妙キテレツすぎる世界を知る耳には、物足りないだろう。
05BIG JET PLANE
ボビーのへなへなした声質が、逆にここでは楽曲の魅力を倍増させているカントリー・バラッド。グラム・パーソンズが少しだけ憑依したようなエモーショナルな歌唱で、まだ見ぬ“約束の地”への焦がれる想いを吐露する。
06FREE
女性シンガー、デニス・ジョンソンのヴォーカルをフィーチャーしたバラード。メンフィス・ホーンズのむせぶブロウなどの渋くソウルフルな本格サウンドは、知らずに聴いたら、まずプライマルの曲だとは思うまい。
07CALL ON ME
『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』収録曲中で“ロックンロール馬鹿”度数がズバ抜けて高いのがこの曲。ジョージア・サテライツを思わせるデカくてヌケのよいサウンドで、田舎者ロックンロールを熱演。
08STRUTTIN'
英国クラブ・サウンドと米国南部ロックを織り交ぜたインスト曲。ブレンダン・リンチ、マルコ・ネルソンら、ポール・ウェラー関連人脈を起用したサウンドは、微笑ましいくらいにウェラーの『ワイルド・ウッド』風だ。
09SAD AND BLUE
ゴスペルやカントリーなど、アメリカ南部伝統音楽の特色を一緒くたに煮込んで作ったソウルフルなバラード。グラスゴーから来たバンドにアメリカ音楽の何が分かるってんだ……と味見してみれば、これが実に美味だから不思議。
10GIVE OUT BUT DON'T GIVE UP
P-ファンクのジョージ・クリントン総帥が、デニス・ジョンソン嬢とデュエットするファンク・ナンバー。“人間に必要なのは脳と下半身への刺激だ”とする総帥の理念が、そのまま楽曲化したようなエロシビれる混沌サウンド。
11I'LL BE THERE FOR YOU
アメリカ南部の地を目指した彼らの旅も、この曲を最後にひとまず終幕。アルバムのラストは美メロで締めくくるのが定番の彼ら。それにふさわしいメロウ・ナンバーに仕上がっている。なんともいえない達成感が漂う。