ミニ・レビュー
96年8月13,14,15日に中野サンプラザで行なわれた荒井由実コンサートのライヴ盤。コンサート自体、松任谷由実ではなく荒井由実時代の楽曲を、当時のミュージシャンとともに再現するというもので、それがこうして記録に残されただけで貴重ものだ。
収録曲
01あなただけのもの
2ndアルバム収録のグルーヴィな1曲。冒頭と曲中にメンバー紹介を入れ、オリジナルより若干テンポを落として披露。当時はあまり馴染んでいなかったヴォーカルも、この時は声質の変化もあって魅力的になっている。
02生まれた街で
2nd『MISSLIM』のオープニング曲。風をキーワードに故郷への愛情を綴った爽やかなポップ・チューンで、フルートがフィーチャーされている。ソロ中にバッキングが大いに盛り上がるのがライヴならではの魅力。
03空と海の輝きにむけて
デビュー・アルバム収録曲。人生の岐路におけるポジティヴな心情を、夜明けの輝かしい海原に投影させた静かなナンバー。20年以上経ってもまったく違和感がないのは、メロディが普遍的な美しさを秘めているからだろう。
04返事はいらない
セールスこそ良くなかったものの、ユーミンにとって大切なデビュー・シングル曲。オリジナルよりテンポが少し遅く、ユーミンの声に“あじ”があるのでだいぶイメージは異なって聴こえるが、素朴な雰囲気は出ている。
05あの日にかえりたい
ブレイクのきっかけとなった6枚目のシングル曲。オリジナル通り、ゲストにハイ・ファイ・セットの山本潤子が登場するのが魅力で、収録アルバムのコンセプトを象徴する1曲といえる。当時のアルバムには収録されていない。
06中央フリーウェイ
4thアルバムに収録されている中央自動車道をテーマにしたナンバー。当時の透明感はまったくないが、Bメロ以降はユーミンの個性的な声がよく馴染んでいる。“松任谷”名義になってからもしばしば演奏される人気曲。
07チャイニーズ・スープ
3rdアルバム収録のジャグ・バンド・ミュージック風ナンバー。男との恋愛を具材に見立て、すべてを煮込んでスープにしてしまうという曲。オリジナルの女の子らしいキュートさはさすがにないが、賑やかな雰囲気は出ている。
08ひこうき雲
デビュー・アルバムのタイトルとなった最初期の名曲。“あの子”の若すぎる死を幸福感をもって理解する、アーティスティックなナンバー。ピアノの弾き語りによる演奏で、情感豊かなユーミンのヴォーカルを堪能できる。
09グッド・ラック・アンド・グッド・バイ
4thアルバムに収録されているライト・ポップス。間奏のメロディをバック・コーラスが“ルルル〜”で歌うなど、粋なアレンジが施されている。映画を観ているかのようなムーディな雰囲気をライヴでも見事に再現。
1012月の雨
2ndアルバム収録曲。心の傷から立ち直る頃の心情を描いた失恋ソングで、軽快なリズムと爽やかなバック・コーラスが魅力。ユーミンの若干コブシの入ったヴォーカルが、オリジナルとはひと味違う魅力を出している。
11雨のステーション
アルバム『COBALT HOUR』収録のミディアム・バラード。失恋後の傷ついた心と恋人を諦め切れない気持ちを梅雨のにじんだ風景に紛らす切ないナンバー。オリジナルのうつろな雰囲気をほぼそのまま再現している。
12コバルト・アワー
3rdアルバムのタイトルとなった軽快なナンバー。ドライブのBGMとして人気の高い曲で、オーディエンスも手拍子を取るなど、ライヴでは大いに盛り上がっている。曲入りまでの前奏がやや間延びしてしまっているのが残念。
13まちぶせ
元々は1976年の作品で、後に石川ひとみのヒット曲として有名になったナンバー。好きだと言い出せない女性をテーマにした歌謡調ポップス。この名曲をラストに演奏することで会場のテンションも最高潮に達しているようだ。
1414番目の月
ライヴの定番曲としても人気の高い、4thアルバムのタイトル・チューン。本盤は“荒井由実”名義のコンサートなので、昔のアレンジで演奏されている。ユーミンがパンチの効いたロックンロールなヴォーカルを披露。
15春よ、来い
NHK連続テレビ小説の主題歌にもなったヒット曲。荒井由実時代の曲ではないが、コンサートのラストにはやはりこの曲。エンディングでは惜しみない拍手が送られ、オーディエンスの多くが涙しているのが容易に想像できる。