ミニ・レビュー
85年に発売されたシングル集をリマスターし、レア・ヴァージョン(16)と(17)を付け加えたデペッシュのニュー・ベスト。初期のエレ・ポップ・バンド然とした作品から、音楽/サウンド的にも深化し、独自の音世界を確立していく過程は今聴いてもスリリング。
ガイドコメント
先月の『86−98』に続くシングル集。以前発売された時とはジャケットを一新、もちろんリマスタリングもしてあるので、前回買った人も買わなきゃダメ。しかも初回応募特典付だし。
収録曲
01DREAMING OF ME
クラフトワークを彷彿とさせる浮遊感漂う電子音と、ビートルズの遺伝子を受け継いだ英国人らしいメロディ・センスが相まった、まさに夢心地のデビュー作。デペッシュの長い軌跡は、このキャッチーなエレポップから始まった。
02NEW LIFE
ヒット・チャートに常連入りを果たすことになる、81年の2ndシングル。人生が目まぐるしく変わっていくさまを、疾走感あふれるサウンドで描くスリリングなビート・エレポップ。ビッグ・ネームへの躍進を始めた彼らの、等身大といえる作品だ。
03JUST CAN'T GET ENOUGH
跳ねるようなビートに、キャッチーなメロディ。これぞエレポップの真骨頂というべき、初期の最高傑作。作者のヴィンスは本作を置き土産にバンドを去るが、脱退後もダンス音楽界でヒットを飛ばす才能は、すでにここで開花している。
04SEE YOU
大黒柱のヴィンス脱退という痛手の後、マーティンが曲作りを引き継ぎ、何食わぬ顔で過去最高位を獲得してしまった4thシングル。柔らかな電子音に、ブリティッシュ・ビート風のもの悲しい旋律がマッチした、地味ながらも耳に残る秀作だ。
05THE MEENING OF LOVE
「愛」って、なあに?という、多感な少年期の悩みを綴った5thシングル。ポスト・テクノ・ポップ然としたフワフワ・サウンドに、英国人ならではの美コーラスが効いたキャッチーなエレポップ。ヴィンス在籍時の面影を残す、最後の作品である。
06LEAVE IN SILENCE
ダークでメタリックな、独特の美意識が顕著になる6thシングル。低く脈打つビートに不吉な空気が広がる絶妙の音響効果は、同年の世界的ヒット「スリラー」(マイケル・ジャクソン)の一歩先取りと言っても過言ではない。
07GET THE BALANCE RIGHT
デペッシュ・サウンドに独特のゴシック感をもたらした才人、アランが正式加入しての7thシングル。無機質なサンプリング音を綿密に配置したトラックと、ガーンのバリトン・ヴォイスが生み出す重厚感。そこにはすでに風格が表われている。
08EVERYTHING COUNTS
ガーンのバリトン・ヴォイスと、ほか3メンバーのナーヴァスなコーラスのコントラストで聴かせる圧巻の8thシングル。新メンバー、アランの嗜好が顕著に表れたインダストリアル・ビートを用いたトラック・メイクは、この後もヒット産出に貢献する。
09LOVE IN ITSELF
マーティンの控え目ながらも聴かせるメロディと、アランのマニアックな音創りが見事に絡み合った9thシングル。重厚なメタリック・ビートのなか、ピアノやギターによる印象深いフレーズがはめ込まれ、聴くほどにその奥行きを増す秀作だ。
10PEOPLE ARE PEOPLE
人種差別や宗教対立など、人類共通の問題に向き合った本作は、そのテーマも手伝って世界的にヒット。極太ビートの中に、爆撃音や金属音が絶妙の配置でちりばめられた、そのサウンド面においても完成形を見た、彼らの代表作である。
11MASTER AND SERVANT
タイトルを訳せば「ご主人様と召使い」。階級社会への皮肉か、はたまたSMプレイを描いたものか、意味深な11枚目のシングルだ。メタリックな音響空間に、マーティンの挑発的な詞世界が展開する、ド迫力のインダストリアル・チューン。
12BLASPHEMOUS RUMOURS
ある少女のやりきれない死に様に、彼らは「神様なんて……」とこの世の不条理を嘆く。暗雲立ち込めるほの暗いサウンドに、切なくも美しいメロディがしっくり溶け込んだ秀作。しかし本国では神への冒涜として放送禁止を食らった問題作。
13SOMEBODY
マーティンの優しい歌声が伸びやかに広がる、ロマンティックなラブ・バラード。アランのしなやかなピアノと、バックで響く心臓の鼓動が温もりあふれる音響空間を演出。他とは一線を画す、癒しのサウンド・アプローチに成功している。
14SHAKE THE DISEASE
地味ながらも心に染み込む魔法のメロディに目を閉じて身を委ねたくなるような、懐深い音響空間が広がる。うまく運ばぬ恋を描いたもの悲しい作品であるが、すべてが絶妙に響きあうマイルドなサウンドは、心のカーム・ダウンにぴったりだ。
15IT'S CALLED A HEART
これぞデペッシュ・サウンドといえる、メタリックなインダストリアル・チューン。熱く脈打つ「ハート」を情熱的に描いた作品であるが、決して汗臭くならない洗練された仕上がり。アランのサウンド・センスの賜物といえよう。
16PHOTOGRAPHIC
ミュートと契約前に、インディーズ・レーベルのサム・ビザール・レコードに残した貴重な音源。『Speak&Spell』収録のオリジナルに比べ、ビート感と疾走感が強調された、よりスリリングなエレポップになっている。
17JUST CNA'T GET ENOUGH
ヴィンス在籍時の最後の作品にして最強のエレポップを、クラブ・ユースにアレンジした12インチ・ヴァージョン。中間部よりマイナー調のユーロ・ビートなインストとなり、オリジナルにはない、哀愁を帯びた作品となっている。