ミニ・レビュー
思わず走り出したい衝動にかられる。そんな独特のメロディが、通算5作目の本作も満載だ。楽観的だがどこか哀しげに切々と繰り返されるフレーズは、聴き手を捕らえて離さない。インド音楽を取り入れた(13)で、新局面をみせた。切れ味の良い快作。
ガイドコメント
前作、前々作が大ヒットして勢いに乗りまくっているLAバンカーズ、オフスプリングのニュー・アルバム。聴き易いヴォーカル、ヒネリをきかせるキャッチーなメロディ、病みつきになっちゃいます。
収録曲
01WELCOME
「ようこそアメリカーナへ」と男性の声。アルバム『アメリカーナ』の開始を告げる9秒間のアナウンスだ。クレジットによると、この男性の名はジョン・メイヤー。シンガー・ソングライターのジョン・メイヤーとは別人とのことだが、どことなく似た声。
02HAVE YOU EVER
冒頭での高らかな“フォ〜リ〜ン”を合図にして、一気に疾走を開始する怒涛のエモ・パンク・ナンバー。一本調子で完走かと思いきや、サイケデリックな展開を挟んで終盤はメロディアスな曲調へと大変身。技ありの構成だ。
03STARING AT THE SUN
生きることには生存以上の意味があると、「プリティ・フライ」によって作られた“おバカさん”のイメージを覆す含蓄ある歌詞が特色。スラッシュ・ギターとヘヴィなリズムで加速に加速を重ねて展開する前向きなナンバー。
04PRETTY FLY (FOR A WHITE GUY)
世界にオフスプの名を轟かせたメガ・ヒット・シングル。ふざけたラップ風の歌い方、黒人ラッパー気取りの白人少年をモチーフにしたユーモラスな歌詞の裏側には、“自分のスタイルを持て”という熱いメッセージが。
05THE KIDS AREN'T ALRIGHT
一発で覚えること確実のメロディとタイトなサウンドの8ビートのパンク・チューンは、世界でバカ売れしたアルバム『アメリカーナ』の中でも特にライヴで人気の高い曲。反骨精神バリバリのメッセージに魂が突き動かされる。
06FEELINGS
ハイ・ファイ・セットが「恋のフィーリング」の邦題で爽やかにカヴァーしたバラードも、彼らにかかればそんな面影も皆無の激烈エモ・ナンバーに変身。予備情報を持たずに聴けば、誰もが自作曲だと思うであろう、オリジナリティあふれる圧巻のカヴァーだ。
07SHE'S GOT ISSUES
精神的な悩みを山ほど背負ったガールフレンドについての歌。開放的なサビが魅力のスタジアム・ロック風の展開は、過去の名曲の断片を結集させたような趣がある。発表当時ホイットニー・ヒューストンについて歌ったのではという都市伝説も発生。
08WALLA WALLA
刑務所暮らしを楽しんでこいと送り出す、毒気も茶目っ気もたっぷりの軽快で陽気なエモ・パンク・ナンバー。思わず歌い出したくなるサビは、同郷バンド“ヴァンダルス”の「トゥー・マッチ・ドラマ」に激似。
09THE END OF THE LINE
最愛の人の死を哀切に描いたエモーショナルなナンバー。前半はスラッシュ・サウンドで畳み掛け、中盤ではインダストリアルなサウンドを左右に行き来させる実験的な展開。最後に引用される留守電の声が哀しみを助長する。
10NO BRAKES
演奏開始から最後まで、文字通りノー・ブレーキで走り続けるナンバー。焦りや怖れを綴った現実感あふれる詞を、全編サビのようなメロディの上で全編シャウトで歌い上げる、かなり強引な構成が面白い。
11WHY DON'T YOU GET A JOB?
働かない彼女に貢ぐ、くたくたになって働く友人の愚痴を詞にした曲。怒り満載の歌詞とは正反対に、曲調はのんびりととぼけた味わい。これがまた、ビートルズ「オブ・ラ・ディ、オブ・ラダ」にそっくりだったりして失笑してしまう。
12AMERICANA
エモやスラッシュ・メタルを混合した曲調は、パンクもハード・ロックも股にかけた彼らならではのジャンルレスな魅力を放つ。病んだアメリカを否定しつつ、そこで生まれ育った自分は肯定したい、という二律背反の歌詞がリアルなアルバム・タイトル曲だ。
13PAY THE MAN
正味3分が常の彼らにしては異例となる8分弱の長尺曲。エキゾチックなサウンドに乗せて呪文のように歌うラーガ・ロック調の展開が、5分過ぎにはハード・ロック調に変化。それだけでは終わらず、9分過ぎには秀逸な隠しトラックも挿入されている。